第13話 王の名で
招集は、王の名で来た。
封筒は厚く、封蝋は赤。
ギルド長室の机の上に置かれたそれを見た瞬間、空気が一段重くなる。
「……正式文書だ」
ギルド長ハロルドは、珍しく声を落とした。
「王都より。
国王陛下直々の招集だ」
「へえ」
アリエスは、あっさりとした反応で封筒を受け取った。
封蝋を割り、文面を一瞥する。
王都へ来たれ。
旧封鎖山域の件につき、
直接、話を聞く。
「要するに、呼び出し?」
「“お願い”の形をした命令だな」
「断れない?」
「断れない」
「そっか」
アリエスは、肩をすくめた。
(まあ、殴らない話なら楽でいいや)
⸻
王都行きは、専用便だった。
護衛付き。
移動速度優先。
寄り道不可。
同行するのは、騎士団の精鋭二名。
視界が切り替わる。
《ステータス・オーバールック》
王国第三騎士団・近衛
平均Lv:42
特記事項:
・王命護衛
・戦闘許可制限あり
(強いけど、私を止める役じゃない)
事実確認だけで、十分だった。
王都が見えてくる。
高い城壁。
幾重にも重なる防衛結界。
人の流れが、明らかに違う。
「でっか」
素直な感想だった。
⸻
謁見の間は、広かった。
赤い絨毯。
高い天井。
並ぶ重臣たち。
中央の玉座に座る男――
王。
その存在感は、数値では測れない。
だが、アリエスの視界には、いつも通り表示が走る。
《ステータス・オーバールック》
名前:レオナール
称号:王
Lv:???
特記事項:
・国運補正
・威圧(常時)
・鑑定耐性(極)
(見えない部分、多いな)
それだけで、相手の格は分かる。
「近くへ」
王が、短く言った。
アリエスは、臆することなく歩み出る。
「旧封鎖山域のS級案件。
単独で処理したと聞く」
「うん。殴った」
ざわっ、と重臣が動いた。
王は、眉一つ動かさない。
「理由は?」
「強そうだったから」
沈黙。
数秒後、王が笑った。
「率直でいい」
場の緊張が、わずかに緩む。
「力を持つ者は多い。
だが、力を使う理由が単純な者は、少ない」
王は、玉座から立ち上がった。
「我が国は、あなたを敵に回したくない」
直球だった。
「そこで提案がある」
王の視線が、真っ直ぐに刺さる。
「国家専属冒険者として登録しないか」
条件は、明示されない。
だが、意味は重い。
重臣が続ける。
「拘束はしない。
行動の自由は保証する」
「ただし」
王が言葉を継ぐ。
「国が危機に瀕したとき、
最優先で力を貸してほしい」
アリエスは、少し考えた。
ほんの数秒。
「……殴っていい?」
重臣たちが凍る。
「敵を?」
「うん」
王は、笑った。
「もちろんだ」
「じゃあ、いいよ」
即答だった。
謁見の間が、再びざわつく。
⸻
手続きは、あっという間だった。
《特別登録》
所属:王国(特別枠)
称号付与:国家認定戦力
制限:なし
「これで、国公認だね」
アリエスは、冒険者証を眺める。
「面倒ごと、増えた?」
ハロルドが苦笑した。
「増えた。
だが、それ以上に――」
視線が、周囲に集まる。
「手を出せない存在になった」
「へえ」
アリエスは、伸びをした。
胸の奥が、また少し騒ぐ。
(……強いの、来そう)
王都の空は、高い。
その下で、
世界は、次の一手を考え始めていた。




