第12話 S級正式認定――世界が震える
旧封鎖山域の地下から、地上へ戻ったとき――
空気が、明らかに変わっていた。
入口付近に、すでに人だかりができている。
騎士団の隊列、ギルド職員、見慣れない外套。
そして、視線。
集まるのは、興味ではない。
警戒と畏怖だ。
アリエスは翼を畳み、土埃を払った。
「……なんか増えてない?」
誰にともなく呟く。
その瞬間、ギルド長ハロルドが前へ出た。
珍しく、表情が硬い。
「アリエス。ここで公式に告げる」
周囲が、息を止める。
「旧封鎖山域における未確認超大型存在――
S級相当案件の単独撃破を、ギルドとして正式に認定する」
ざわっ――
どころではない。
世界が、一瞬止まった。
⸻
「ちょ、ちょっと待って」
アリエスが手を挙げる。
「“相当”じゃなくて?」
ハロルドは首を横に振った。
「相当ではない。
正式なS級撃破だ」
ざわめきが、どよめきへ変わる。
「単独……?」
「十五歳……?」
「天翼族ハーフが……?」
言葉が、あちこちで途切れる。
アリエスの視界に、見慣れた表示が走った。
《功績認定》
対象:旧封鎖山域 未確認存在
危険度:S級
認定結果:
・単独撃破
・被害拡大阻止
・再発リスク排除
冒険者ランク:B(S級撃破特例)
特記事項:
・S級案件単独処理可能者として登録
続けて、別の通知。
《経験値獲得》
獲得EXP:12,600
(S級撃破・災害阻止・単独処理補正)
レベルアップ!
Lv 6 → Lv 8
「……あ、二つ上がった」
その瞬間、数値が書き換わる。
《ステータス・オーバールック(更新)》
名前:アリエス
種族:天翼族ハーフ
年齢:15
Lv:8
HP:620(+140)
MP:280(+70)
STR:132(+12)
DEX:78(+6)
VIT:104(+14)
INT:51(+2)
LUK:45(+3)
新規獲得スキル:
・災害耐性 Lv1
・空中破壊補正 Lv1
周囲が、言葉を失った。
「……STR、百三十?」
「HP六百超え……?」
「Bランクの数値じゃない……」
アリエスは、拳を握ってみる。
空気が、わずかに鳴った。
「……うん、強くなってる」
それだけで満足だった。
⸻
「なお」
ハロルドが声を張る。
「この功績をもって、
アリエスをS級案件対応可能戦力として登録する」
「ランクは?」
誰かが聞いた。
「Bランクのまま据え置きだ」
再び、ざわめき。
「だが」
ハロルドは、はっきり言った。
「S級案件に、単独で投入可能なBランクだ」
意味が、遅れて伝わる。
――前例がない。
⸻
騎士団の上官が、深く頭を下げる。
「王国として、感謝を表する。
あなたの行動がなければ、被害は計り知れなかった」
他都市ギルドの監察官も、硬い表情で頷いた。
「本日をもって、
あなたの名は各都市ギルドに通達されます」
つまり――
隠せない。
アリエスは、少しだけ眉をひそめた。
「それって……」
嫌な予感。
「どこ行っても、見られる感じ?」
ハロルドは、苦笑した。
「その通りだ」
「めんどくさ」
正直な感想だった。
⸻
その日のうちに、
情報は世界へ走った。
王都。
辺境都市。
山岳国家。
海沿いの交易都市。
各地の掲示板に、同じ文言が貼られる。
速報
旧封鎖山域のS級案件、単独撃破。
討伐者:アリエス(天翼族ハーフ・15歳)
反応は、爆発的だった。
「ありえない」
「誤報だ」
「……本物だ」
そして、
動き出す者たちがいる。
⸻
王都の奥、重厚な部屋。
「十五歳……天翼族ハーフ……」
書類を閉じる音。
「面白い。
呼べ」
⸻
辺境の砦。
「S級を殴り倒す少女だと?」
笑い声。
「会ってみたい」
⸻
闇の中。
「……見える者か」
低い声。
「壊すか、奪うか……」
⸻
一方その頃。
アリエスは、ギルドの外で伸びをしていた。
「……よし」
拳を握る。
胸の奥が、また少しだけ騒ぐ。
(次、どんなのが来るんだろ)
怖くはない。
むしろ――
楽しみだ。
S級正式認定。
それは、終わりではない。
世界が、彼女を狙い始めた合図だった。




