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第12話 とばっちり。


 しばらく経ってやっと、来てた人達がそろそろ帰ろうかと言い出して、片付けが始まった。

 食器を流しに運んだり、テーブルを拭いて片付けたり、座布団をしまったり、なんか、皆イイ感じで手分けしてる。……これ、ほんとによくやってるんだな、と納得。ていうか、この感じにリフォームしたのも、人が出入りしやすくなるためだよな。……すげーな。ばあちゃんも、田舎も。


 都会とは、もう、まったく違う人付き合いに、一日目にして、カルチャーショックもいいところだ。

 田舎だからっていうか……ここがそう、て話なのかも、しれないけど。


 食器を運んできたばちゃん、気付かれないように、ふぅと静かに息を吐いた。

 もう別れは済んでるっぽい雰囲気で、別にばあちゃんに声をかけて出てく感じでは無さそうなので、オレはばあちゃんに近づいた。


「ばあちゃん、オレ、片付けしてちゃんと戸締りもするから、もう寝てていいよ」


 そう言ったら、でも、と最初は困ってたんだけど、大丈夫だよと言い続けていると、じゃあそうさせてもらうね、と、ばあちゃんは奥の部屋に入っていった。


 ていうか、疲れるよなあ、これ。休んだ方が良い。

 ……でもあれか、オレがすごく疲れてるのはこの空間に慣れてないからかもしんないけど……。


 とりあえず、芽衣と環が食器を洗ってくれてるので、オレがそれを拭いてテーブルに置き、それを慎吾が片付けていく。なんとなく幼馴染が集まった。


 幼馴染って言っても、小一、二年の二年弱位、一緒に居て、その後まったく……オレの方は思い出しもしてなかったわけで。なんか違和感はあるけど。


「片付け、もう任せていいか?」


 集まってた人達が、すっかり部屋の方は片付けた状態で聞いてきた。芽衣が「もう終わるから大丈夫。おやすみなさーい」と言うと、皆、靴を履いて、なんやかんやと挨拶しながら出ていく。


「あ、慎吾。明日午前中、修理しに行くから。起きてろよ」

「了解。ありがと! 頑張って起きとく」


 そんな修理の約束をして、幼馴染の三人以外は皆、出て行った。


「碧くん、戸締りしちゃっていいよー。向こうの窓、雨戸しまるから」


 環に言われて、庭の方の窓を開けた。――社員寮には小さいベランダがあって、そこに出て、なんとなく、月を眺めたりするのは好きだった。ただ周りにも色んな建物があるから、狭い空の、限られた方向でだけ見える月、だった。


 今、目の前に見えるのは広い空と、満月。

 ……すげー綺麗。向こうで見ていたのと同じ月なんだろうに、全然違って見える。数秒見つめて、ふと視線を下に向けると、色々育てられている畑。

 なんか、いかにもばあちゃんらしくて、種類ごとに綺麗に、畑が分けられている。


 目に映るものすべて、昨夜までと違いすぎて――あと人に触れすぎて。しかも色んな人。多すぎ。

 ……へんなの。皆が、碧くんとか呼んでくる。オレにとっては、知らない人ばっかりなのに。


 月を目に映しながら、雨戸を閉めて、鍵をかけた。

 台所に戻ると、片付けを終えていた三人が、オレを振り返った。


 んー、と言い辛そうに芽衣が首を傾げながら。


「碧くんさ、さっきさ、先生とちゃんと話せてない?」

「……何で?」

「なんかそんな雰囲気だったから。先生すぐ帰っちゃったし」


 芽衣が言ってるけど、二人も、多分意味が分かってるみたい。


「いつもあんな感じ?」

「……違うねー。碧くんが、都会に行って、帰ってきてなかった人、だからだね」

「――ん? どういう意味?」


「碧くんは、別にめぐばあちゃんの息子、とかじゃないし……うーん、ちょっととばっちりな気がするけど……」

「……とばっちり?」


 ますます良く分からない。オレが眉を顰めると、環が苦笑しながら。



「和史くんて、覚えてる?」

「……覚えてない」


「そっか。えーと……先生の息子で、碧くんたちの二つ上。一緒に学校は行ってなかったから、覚えてないのかも」

「……そいつが何?」

「和史くん、先生の病院の後を継ぐためって、医大に行ったのに、全然帰ってこないんだよ。大学病院にいて、そんな田舎じゃなくて、そっち居たいんだって。結局、卒業してから一回も帰ってきてなくて」

「――」


 ……ああ。それで、都会に出たまま帰ってなかったオレが、重なってるってことか。

 でもオレ、ばあちゃんにとって、息子じゃなくて孫だしな。帰ってないって言われるなら、オレの父さんの話だよな。孫世代に至るまで全員田舎に残れってわけでもないだろ。

 ……ちょっとどころか、超とばっちりな気はする……。


「先生、良い先生だから慕われてるんだけどね。私たちには優しいし」

「……田舎に残ってるから?」


「まあそれはあるかもたけど、まあ、ずっと居るからってことだけど」


 芽衣が苦笑しながら、「まぁ、がんばって、碧くん」と言ってくる。

 頑張ってって言われてもな……と思いながら。


「三人は、ずっとここに、いるのか?」


 そう聞くと、顔を見合って、ふ、と笑い合う三人。


「もうここに居るって決めて、私とたまちゃんは役場に就職したし、慎ちゃんは陶芸教室開いてるしね」

「そう。覚悟は決めてるよね、ここにいるって」


 芽衣と環がそう言うと、慎吾は「オレはまあ移動できるけど。しようと思えば」とか言って、二人に、何でそういうこと言うの、と突っ込まれてる。


「慎ちゃんが一番、ここが好きじゃん」

「……まあ、そーだな。たまに都会に出るけど、合わねーな」


 芽衣の言葉に苦笑しながら返しているけど。まあそのナリが常時なら、都会ではなかなか大変だろうけど、と思っていると、環がオレをじっと見る。何? と聞くと。


「碧くんさ、ウエブデザインの仕事してたんだよね?」

「……あぁ、してたけど?」

「町のホームページとか、作れたりする??」

「……は?」


「この町のウエブサイト」

「町のとかって、特別な人が作るんじゃねえの?」

「あ、町全体のはあるんだけど。役所で作ってるやつね。そうじゃなくて、農家とかここにあるお店とかを、取りまとめるサイト、みたいな……あったらいいなあって、漠然としてるんだけど」

「作れない訳じゃねーけど……今は、やりたくないかな」

「え――」

「せっかく田舎に来たし、パソコン見たくない」

「えええ――幼馴染特典で安くしてもらえないかなーとか思ったのにー」

「たまちゃん、それいいね」

「なんだそれ。ますますやりたくない」


 そんなーとか言ってる環と芽衣に、「オレは一日で仕事やめてきたような奴だし。もっとちゃんとした奴に頼んだ方がいいよ」とダメ押しで言う。


「……あー。じゃあオレの陶芸教室のサイト作ってよ」


 と、横で慎吾。



「ていうか、お前って、オレの言ってること、聞いてた?」


 呆れて返すと、聞いてたけど、と普通に返してくるから、まったく意味が分からない。





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