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第9話 陶芸家の先生??




 記憶って不思議だ。


 今まで思い出しもしなかったのに、一つ思い出すと、紐づいてるみたいに、いくつも思い出す。

 こっちの田舎の思い出は、今までの人生でほとんど思い出して来なかったのに、と思うと不思議だ。


 そういえば、下校しながら、木登りしたり、川で遊んだり……なんか、してたような気がする。

 ……もしかしてそれで、さっき言われた「悪ガキ」なのかな……? 


「芽衣、環、……あと一人の名前、思い出せないんだけど……」


 しばらく考えていたけれど、名前が出てこなくて、首を傾げると。


小武 慎吾(こたけ しんご)くんだよ?」


 芽衣に言われて、最初はピンとこなかったけど、しんごしんごと唱えていると、そうだったような気がしてくる。

 よく喧嘩してた奴、かな。でもなんか仲良かったような……? 


 オレは、大学を卒業したあたりから、人に会うのが面倒になっていた。仕事が忙しかったのもあるけど、ただ無気力な感じだった。


 だから正直、こんな異空間に無理無理仲間入りさせられたからって。幼馴染が現れたからって。


 そんな急に、こういう集まりが好きだと思うかといえば、かなり微妙だ。

 正直なとこ言えば……ここから、抜けたい。と思ってるくらい……。



「そういえば、しんちゃん、ここ何日か、来てないねぇ」


 ばあちゃんが、ぼそ、と呟く。しんちゃん? と、思った瞬間、近くに居た芽衣と環が、えっと反応した。


「そうなの? めぐばあちゃん?」

「最後、いつ見た?」


 なんだか、芽衣も環も、ちょっと慌ててる?

 ……あ、もしかして、高齢のおじいさんとか? 一人で倒れてたりとか、そういう心配か?


「碧くん、ちょっと見てきてくれる、お隣さん」


 ばあちゃんのセリフに、まじまじとばあちゃんを見つめてしまった。


 ええ……オレ、そんなの見たくないけど……。

 思わず眉が寄った時、芽衣が立ち上がった。


「碧くん、しんちゃんて、慎吾くんのことだよ?? 」

「……え、慎吾って、まだここに居るのか?」


 二人と一緒に来ないから居ないのかと思ってた。


「慎ちゃんも、ずっとここに居るよ。陶芸家なんだよ」

「陶芸??」


「そう。陶芸教室開いたり、自分の作品を作ったりしてて……たまにめぐばあちゃんの家でご飯食べてるんだけど……夢中になっちゃうと、色々忘れちゃうから……」

「オレも、何日か忙しくて見てなかったかも」

「私もー。ごはんちゃんと食べてたかなあ。……様子見てこよ。碧くんも、いこ~」


 全然顔が出てこない、慎吾とやら。しかも、色々忘れちゃうから面倒を見ないといけない奴って……。

 どんな奴なんだろうという興味はある。


「――いってくる、ばあちゃん」

「うん、よろしくね」


 ひらひらとばあちゃんが手を振ってる。

 ばあちゃんのすぐ横には、右隣の家の女の子がちょこんと座ってる。


 みぃちゃん、というらしい。


 ……懐いてんなあ。

 ばあちゃんと折り紙をしてるのを、なんだかほのぼのと見つめてから、オレは靴を履いた。

 オレもよく、一緒に折り紙とかお手玉とか、してたな。懐かしい。


 そう思いながら玄関を出て、環と芽衣の後についていく。みいちゃんの家の逆隣り。

 結構広そうな敷地の入り口に、「こたけ陶芸教室」と書いてある。


 今日はばあちゃんちから出てなかったから、隣にこんなのがあるのを全然気づかなかった。

 車が何台かとまれるようになってる。手前に教室はこちら、と書いてある平屋の建物。その奥に、家が建ってる。


 家は、ばあちゃんちの側に建ってるので、なんなら、台所の窓を開けて呼んだら聞こえそうだなと思いながら。


「ねね、碧くんが声かけてみて? 慎ちゃん、碧くんのこと、分かるかなあ」

「あ、いいね。オレら隠れてよ」

「は?」


 楽しそうに言ってる二人を見た時にはもう、オレから離れていて、入り口のところに隠れようとしてるし。

 ため息。


 ……覚えてる訳ないじゃん。


 ばあちゃんが何日か見てないってことは、オレが帰るっていう何の前情報もないんだから、低学年の頃に遊んでたやつを覚えてたら奇跡だろ。


 不審者扱いされるんじゃねえのか、と思いながら、インターホンを押した。

 しばらく待つが、出てこない。

 二人を振り返ると、こっち見ないで、みたいな態度をされる。仕方なく、もう一度、押して、しばらく待つ。



「――はい?」



 不機嫌そうな声が聞こえて、引き戸が開いた。

 想像してたどんなタイプでもないそいつに、オレは、は? としばし呆然。



  髪がボサボサで、無精ヒゲ、なんかすげー汚れた服。……陶芸家の先生?? じゃねえの? イメージ違いすぎる。 なんだこいつ、と一歩引くと、頭を掻きながら、そいつが、オレを見下ろす。



「誰」


 誰って。何て答えりゃいいんだ。つか、こいつが慎吾? 老けて見えるけど同学年? 別の奴じゃねえの、と思った瞬間。



「つか――碧?」


「げ……」


 オレから漏れた言葉は、その一音だった。



 嘘だろ。

 何でこんな奴から、オレの名前が出でくんの。



 振り返った先の、二人は、わー、と何やらすごく盛り上がってる。




 何があった。

 こんな老けて……。


 オレの思い出しかけていた慎吾は、活発で、オレと喧嘩したり一番やりあって……?



 ……やっぱ、別人としか思えない。少なくとも同級生には見えない。


 誰??


 オレが言いたい。


 







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