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長編化したい短編

アラサー喪女騎士ですが、護衛対象の年下王子に押し倒されました

作者: 澤谷弥

ギリギリを攻めてみました。

「アンリエッタ、ずっと僕のそばにいてね」


 なんて口にする王子は可愛らしかった。


 私がレインハルト殿下と初めて会ったのは、彼が八歳のとき。

 金色のふわふわとした綿毛のような髪と、クリスタルのように輝く青い瞳、ふっくらとした頬にぷっくりとした唇は、一目見た時には「ここに天使がいる」と思ったほど。さすが一国の王子。

 背中に羽根がないのか確認しようとしたら、くすりと笑われた。笑い方すら天使だった。


 私は騎士学校時代の成績と家柄によって、学校卒業後は騎士団に入団し、近衛騎士隊に配属された。たいへん名誉なことである。


 と思っていた一か月後、異動の話があって、レインハルト殿下の専属騎士となった。


 専属騎士とはその名のとおり、守るべき主ひとりに忠誠を誓う。つまり、何があっても命に代えてでもレインハルト殿下を守るのが私の使命となる。


 たとえ、この国の王を敵にしてもレインハルト殿下を守り、レインハルト殿下が悪だとわかっていても彼を守る。自分には白に見えても、彼が黒といえば白も黒になる。それが専属騎士というもの。


 そして今、私は彼によって寝台の上に押し倒されていた。


「アンリ。そんなに僕の側から離れたいのか?」


 彼は熱を帯びた目で私を見下ろした。彼の身体の下から逃げたいのに、私の肩はしっかりと寝台に押さえつけられているため、逃げられない。


 一つに結わえていた亜麻色の髪は解かれ、シーツの上に波を打って広がっていた。


「なあ。僕がどれだけこの日を待ったか、わかっているのか?」


 そう問われてもまったくわからない。


 なんでこんな状況になっているのかさっぱりわからない。


 今日はレインハルト殿下の婚約者選びのパーティーがあった。つまりお見合いパーティーがあった。

 思えば、このパーティーが始まろうとしていたときから、彼はどこか不機嫌だった。


『アンリ。おまえはなぜそのような格好をしている?』

『私はレインハルト殿下の専属騎士ですから』


 いつもと同じように、それでも華やかな場に相応しいように、金の刺繍が施された白い騎士服を身に着けて、彼の側にいた。


 でも、今日はお見合いパーティー。私は邪魔にならないようにしつつ、レインハルト殿下を守ることができる場所で周囲に気を配っていたのだ。


 彼は明らかに不満そうだったが、集まったご令嬢たちはレインハルト殿下にうっとりとしていた。

 権力ある親を持つ幾人かの彼女たちはレインハルト殿下と踊り、私はその様子を見ながら、不審な輩や物がないかと気を張り巡らせる。

 たった数時間かもしれないけれど、ただ突っ立っているように見えるかもしれない私だけど、気の抜けない状況なのだ。


 レインハルト殿下も、なんとかお目当てのご令嬢たちと時を過ごしたようで、パーティーはお開きとなった。


 はずなのに――。


 この展開。なんてこったい。




 いつものように殿下を部屋まで案内し、私は控えの間に下がろうとした。


 そこから何が起こったのかわからない。気がついたらこうなっていた。

 つまり、レインハルト殿下の寝台の上で、私が彼に押し倒されているこの状況。


「殿下、この手をお離しください。もしかして、まだひとりで寝るのが怖いのですか?」

「んなわけあるか。おまえはいつまでそうやって僕を子ども扱いするんだ? 僕だって、先日、成人した。もう、立派な大人なんだ」


 立派な大人はそんなこと言わないと思うけれど、私は「はいはい」と軽くあしらった。


「おまえは……」


 なぜかレインハルト殿下がお怒りだ。


「わかりました、わかりましたから。この手を離してください」


 肩をぐいっと寝台に押し付けられているため、力が入らない。必死に手を伸ばして、彼の腕を捕まえてみるけれど、びくともしない。


 いつの間に、こんなに力が強くなったのだろう。


「おまえは……わかっていない」


 寝台の柱にくくりつけられたタッセルを手にした彼は、それで私の手を頭の上でしばりあげた。


 えぇっ!!


「なっ、ちょ、ちょっと……。何をするんですか」

「こうでもしないと、おまえに負けるからな」


 両手を引っ張ったりひねったりしてみるけれど、まったくびくともしない。ただのタッセルのくせに、どうやって縛り上げたのか。


 膝を立て、彼の腹に一撃を食らわせてやろうかと思ったけれど、それを読まれていたのか太腿を押さえつけるかのようにして、彼が乗ってきた。


「なあ、アンリ。おまえはここまでやられても気がつかないのか?」

「何がですか? もしかして……。私に剣術で負けたのが悔しかったのですか? だからこうやって卑怯な手を使って……。男なら正々堂々、戦いなさい」

「正々堂々……。今まで戦ってきたつもりだったんだが……。」


 彼は苦しそうに顔をゆがめた。


「おまえは、結婚するのか? 隣国の辺境伯に嫁ぐのか?」


 どこから情報が漏れたのだろう。だが、彼は権力者だ。たかが私の個人情報なんて、すぐに手に入るにちがいない。


「それは……、考え中です。初めていただいたお話なので……」


 生きてきて二十八年、お見合いが十四回も失敗している。原因はわからないが、とにかく相手にとって私は魅力的な女性ではないようだ。


 ところが、十五回目のお見合いだけ奇跡的にうまくいった。といっても会ってもらえたのだ。

 今までの十四回は「会ってみます」と返事をすると、なぜか相手のほうから「今回の話はなかったことに」と言われて、本当になかったことにされてしまった。


 やはり、騎士団所属、王子殿下の専属騎士という肩書がよくないのだろうか。いや、見た目かもしれない。


 癖のある亜麻色の髪は朝、爆発しているし、きりっとした紺色の瞳は闇のようだと言われる。どちらかといえば、可愛げのない顔立ちをしている。


 十八歳で騎士団に入団し、周囲に揉まれたらこんな顔にもなる。また、訓練でできた傷跡もちらほらあって、決して綺麗な身体とは言えない。

 こめかみにも、小さな傷跡がある。


 嫁にいけないと自分でも思っていたから、両親が持ってくる見合い話は断らず受けていた。だけど、十四回とも相手に会えた試しがない。


 どうせなら、もう少し姿絵を盛るなりなんなりしてほしかった。

 しかし、奇跡に溢れた十五回目。隣国のデラクス辺境伯が私に興味を持ってくれたのだ。


 きっかけは、レインハルト殿下の十八歳の誕生日パーティー。成人を祝し、盛大に祝う。

 近隣諸国からもたくさんの人たちがお祝いに訪れるため、その日の私も、いつものように殿下の護衛についていた。


 どうやらそのとき、デラクス辺境伯が私を見初めてくださったらしい。


 屋敷に届けられた書簡。それを見た両親はわなわなと震えていた。

 嬉しさからくる震えである。多分。

 今までの見合いがなぜか全部失敗していて、完全に行き遅れとなった私を心から心配していたのだ。多分。


 それに、レインハルト殿下が婚約したら、私は専属騎士を辞めようと思っていた。


 女性である私が彼の側にいすぎるのは、相手にも申し訳ないという気持ちがあった。専属騎士を辞めるときは、騎士団を辞めるとき。


 それだけ、専属騎士に課せられた責任は重い。


 そう思っていた矢先のデラクス辺境伯からの求婚。


 デラクス辺境伯は四十歳を過ぎているが、十年前に奥様を亡くされたとのことだった。三人いる子どもたちは成人をしたため、そろそろ自分も第二の人生を謳歌しようと思っていたところで、あのパーティーで私と出会ってしまった、と。


 嘘のような本当のような信じられないような本当の話。

 だから、もう一度お会いしましょうと、返事をしたところなのだが。


「おまえは、あいつが好きなのかっ!」


 なぜレインハルト殿下から、そのようなことを聞かれるのかがさっぱりわからない。


「まだ、少ししかお会いしたことがないので、好きかどうかはわかりませんが。これから一緒に過ごしていけば、愛情は芽生えるかと思います」


 彼は、唇を噛みしめ、つらそうに顔を歪ませる。


「おまえは……。これだけ僕と一緒にいたのに、僕に愛情は芽生えないのか?」

「え、と……」


 まさかそんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。


 愛情があるかないかで答えるなら、もちろん「ある」。

 彼が八歳の時から専属騎士として仕えて十年。子どもだったレインハルト殿下は、こうやって無事に成人を迎えた。


 そして私も、十八歳から二十八歳。結婚をしたら騎士を辞めよう。そう思っていたのに、結局、結婚できずに今に至る。むしろ、まだどこかに結婚したくないという思いがあったのかもしれない。無事に彼の成人を見届けるまでは。


 だけど、レインハルト殿下も成人を迎え、婚約者を選ぶ時期になった。となれば、私の役目もそろそろ終了。


 結婚してもいいだろうと思えてきた。その相手がいるかどうかは別問題として。


「もちろん。ありますよ。あんなに小さかった殿下が、こんな立派な大人になって、成長を見守ってきた者のひとりとしては、とても誇らしいです」

「くそっ……」


 悔しそうに言葉にしたレインハルト殿下は、上着を脱いで乱暴に投げ捨てた。


「いつになったら……。おまえは僕を男として見てくれるんだ?」

「いつも男性として見てますよ。私とは、このように体つきも違うじゃないですか。だから、これを外してください」

「おまえのそういうところだよ」


 レインハルト殿下の手が伸びてきて、騎士服の鉤をぷつぷつと外しにかかる。


「何をしていらっしゃるのでしょうか?」

「おまえの服を脱がせている」

「なぜ? 暑くはないですよ」

「おまえが全然わかってくれないからだ。これから僕はおまえを抱く」

「ぎゅっと抱きしめるくらいなら、何も服を脱がなくてもいいのでは?」


  彼は小さく「くそっ」と呟く。


「おまえは。抱くという意味もわからないのか?」


 全ての鉤を外し終えた彼は、私の上着を押し広げた。だが、上着の下にもシャツを着ている。


「くそっ。なんでこんなに面倒くさいものを着ているんだよ」

「これが正装だからです」


 シャツの釦もつぷつぷと外されていく。


「ちょ、ちょっと。何をしてるんですか。やめてください」


 全て外され、それまで広げられてしまったら、残るは下着だ。

 彼の手は、私の胸当てに伸びている。


「やっ、やめてくださいってば」


 縛られた手首を必死に引っ張るが、やはりタッセルはびくともしない。


「暴れるな。傷になる……」


 ぺろりんと胸当ても外された。となれば、私の胸は丸見えである。手で隠そうにも隠せない。頭の上で縛られている手は、さらにレインハルト殿下の手によって押さえつけられている。


「なぁ……。ここまでやられても、抱くの意味がわからないのか?」


 いくらなんでも、さすがの私でも、これから目の前の男が何をしたいのか、予想はつく。

 だが、目の前の男がレインハルト殿下であり、その相手が私であることがおかしい。


「そんなに我慢できないんですか?」

「あぁ……、我慢できない」

「では、ご用達の娼館から娼婦を呼びましょう」


 彼の口の端がひくりと動いた。


「呼ばなくていい。おまえがいるからな……」


 彼は、私の肌に「ふっ」と息を吹きかけた。ざわりとした感覚が背中を走る。


「私では、力不足です。ほら、私では殿下の期待には応えられませんよ? 興奮しないと思います」

「おまえ……。いい加減、黙れ」


 そう言ったレインハルト殿下は、いきなり私に口づけた。

 喉の奥から声を出し反論しようとしたが、無駄な抵抗だった。


 彼は私のわずかな唇の隙間から、舌を押し込んでくる。


「?!……!!」


 あっという間に私の舌は絡めとられてしまった。ざらりとしたものが舌に触れる。もちろん、彼の舌である。


 たったそれだけのことであるのに、下腹部に熱がたまっていく感じがした。


「んっ……」


 空気を求めようとすると、変な声が出てしまう。


 心臓はバクバクと激しく動いている。

 私の息があがってきていることに気づいてくれたのか、レインハルト殿下はやっと唇を離してくれた。


「なんだよ……。そんな顔、できるんじゃないか」


 どんな顔?


「どんな顔って聞きたそうだな」


 心の中を読んでいる?


「すげぇ、色っぽい顔」


 レインハルト殿下は厭らしい手つきで私の身体に触れてくる。


「ひゃん……」

「こっちも食べてよい?」


 返事をするより先に、食べられた。


「やっ……、やめて……」

「やめるわけないだろう? これからおまえを抱くと、何度言ったらわかるんだ?」

「どうして……?」

「どうして? それを聞くのか?」


 レインハルト殿下は苦しそうに胸元を手で押さえていた。


「おまえ……。本当に気づかなかったのか? 僕が、ずっとおまえのことを好いていたことを。おまえのことが好きなんだ……愛している……」

「え……」


 嫌われてはいないだろうとは思っていた。なによりも十年も専属騎士として側にいたのだから。

 だからって愛されているとは思ってもいなかった。


「本気で言ってるんですか?」

「僕がただの性欲だけでおまえにこんなことをしているとでも思っているのか? それだけであれば、娼婦(プロ)に頼む」

「ですが、私は殿下よりも十歳も年上です」

「それがどうした? さすがに十年前なら問題があったかもしれないが、僕だって成人した。アンリだってまだ二十八だろ?」

「まだ、じゃなくて、もう、です」

「そんなの、個人的感覚の違いだ。僕がまだと言ったらまだなんだよ。おまえは僕の専属騎士なんだから、僕の言葉が絶対のはずだろう?」


 それを言われてしまったら、そうなのだ。彼の言葉は絶対に正しい。


「あと十年、二十年経てば、僕たちの差なんて気にならなくなる」


 そうだろうか。二十八と三十八、三十八と四十八ではだいぶ違うような気もするのだけど。


「おまえ、余計なことを考えるな」


 レインハルト殿下の顔も真っ赤に染め上げられていた。


「いいから、僕が気にならないと言ったら気にならないんだ。いくつになってもアンリはアンリだ。いつまでも僕の側にいてくれると言っただろう?」

「言いました。だけど、それは」

「僕の言葉が信じられないのか?」


 格好よく口にしているレインハルト殿下の顔もさっきから茹で上がっている。それを見たら、彼の言葉が偽りではないのだろうと思うのだけれど、それでも私には自信がない。


「私は。見合いで十四回も失敗した女ですよ? 年の差問題を気にしないようにしても、さすがに十四回は気にします。そのような私が殿下の相手に相応しいとは思えません」


 うぅっと彼は唸る。


「おまえは、本当に気づいていないのか?」

「なにを、ですか?」

「おまえの見合いを潰していたのは、僕だよ。おまえに見合いの話がくるたびに、おまえの両親は僕に報告していた。さすがにそちらの家からは断れない、とな」


 だから、こちらが前向きな返事をしても、相手から断られていたのか。


「だが、さすがに隣国までには手が出せなかった。アンリの両親も驚いて、震えが止まらなかったと言っていたぞ」


 つまりあのときの震えは嬉しい震えではなかったということか。


「隣国の関係者から見初められるなんて、やっぱり僕のアンリは魅力的な女性なんだよ。そうでなければ、十四回も見合いの話がこないだろう? 行き遅れのくせに」


 間違いなくレインハルト殿下は私を行き遅れと言った。むむっと唇を尖らせる。


「僕が成人するまで、わざとおまえの結婚話を潰していたのに」

「殿下はそこまでして私のことを?」


 ダメだ、期待してしまう。ずっと隠し通そうと思っていた気持ちが、ひょっこりと浮上してくる。

 聞いてはいけない。期待してはいけない。


 だけど、そうであってほしいと、どこか願ってもいる。


「ああ、そうだよ。そこまでしておまえが欲しかったんだ。この十歳の年の差を、僕がどれだけ悔しく思っていたのか、おまえはわからないだろうな」


 胸の鼓動が速まっていく。


「殿下は……私でいいのですか?」


 喉の奥からその声を絞り出した。


 ダメだ、ダメだ、ダメだ。言ってはダメだし、聞いてもダメ。

 わかっているのに、期待が膨らみ始める。


 目の前の彼から視線を逸らさなかった。信じられないと思いつつも、やはり気持ちは高鳴る。

 彼も、私を真っすぐに見下ろしている。


「ああ。アンリがいい。アンリは、年下の僕じゃダメか?」


 目頭が熱くなり、鼻の奥がツンと痛んだ。


 私は激しく首を横に振った。涙が自然と溢れ出してくる。

 言うか言わないか、ずっと迷っていた言葉。いや、絶対に言ってはならないと決めていた言葉。それを口にしてもいいのだろうか。


 彼の指が、私の涙を拭う。


「私も……。殿下のことをお慕いしております」


 彼の指の熱に触れ、つい言葉が漏れてしまった。

 ずっと隠していた気持ちを。ずっと誤魔化していた気持ちを。


 いつからだなんてわからない。だけど、いつでも目が離せなかったし、気になる存在だった。専属騎士という地位を利用して側にいられるだけで幸せだった。


 彼とは十歳も年の差があり、しかも私のほうが年上だ。王妃様と殿下の間の年齢。彼の恋愛対象になるはずはないと、そう思っていた。


 だから彼を好いている気持ちも、恋とか愛とかではなく、庇護欲からくるものだと思っていた。そう思っているほうが楽だった。


 成人したレインハルト殿下は、私ではない誰かと結婚をする。


 ずっとずっと、そう思っていた。そうなる前に、自分の結婚を決めておきたいという気持ちと、彼の成人を見届けるまではという気持ちが交錯していて、流れに身を任せていた。


「今日のパーティーだって、おまえだって候補のひとりだったんだ。そう、おまえの両親には伝えていたんだが……」

「あっ」


 だからあのとき、お母様は困った顔をしていたんだ。

 私が『いつもと同じ式典用の騎士服を着る必要がある』と、頑なに口にしていたから。


「今日のパーティーも僕たち関係者にとっては、僕とアンリのためのパーティーだったんだけどね。今日のあの場で僕はアンリに求婚するつもりだった。だけど、デラクス辺境伯との話を勝手に進めているし。こうなったら、力づくでおまえを僕のものにするしかないと思った」


 殿下は私をきつく抱きしめる。


「抱いてもいいか?」


 そんな顔で言われてしまったら、胸が軋む。だけど、婚約もしていないのに『はい』とは言えない。


「ダメですよ……。婚約もしていないですし」

「婚約、したらいいのか?」

「それは……」


 婚前交渉だって珍しいものではないけれど、やはりその辺は節度を持ちたい。


 と思って二十八年。見合いに十四回も失敗していたら、もちろん、ぺっかぺかの新品である。そこだけは胸を張って言える。


 レインハルト殿下は、拘束していた私の手を解いてくれた。

 押し広げられたシャツも上着も、そっとかけ直してくれる。上着の鉤を二つだけ、閉じた。


 寝台からおりると、机の引き出しから何かを取り出す。

 うん、なんとなく予想はつくけれど、用意周到すぎない?


「ここにサインをしろ。僕の両親からも、おまえの両親からも、サインはもらっている。おまえがサインしたら、すぐに出してくる。それなら、問題ないだろ?」


 国王まで認めているなら、問題はないだろう。だが、それよりも。


「なぜ陛下たちからサインまでいただいているのですか。あ、こっちは、私の両親の分まで……」

「僕が、ずっとアンリと結婚すると言い続けていた賜物だな」


 そのようなことをどや顔で言われても、困る。


「そこまでして私を?」

「ああ、そこまでしておまえが欲しかった。引いたか? そういう男で」


 まったく引かなかったと言えば嘘になる。だけど、それよりも嬉しさが勝った。

 私は首を横に振る。目尻にはじんわりと涙がにじみ出た。


「嬉しいです。そこまでして想っていただいて。なんの取り柄もない、十歳年上の女なのに」

「アンリは取り柄のない女性ではないよ。少なくとも僕にとってはね」


 レインハルト殿下は、恥ずかしそうに微笑んでいた。それを誤魔化すように、すぐにキリッと顔を引締める。


「よし、じゃ、サインしろ。そうすれば、なんの問題もない」

「いえ、サインしただけでは婚約したことにはなりませんよね? 然るべきところに提出しなければ」

「問題ない。おまえがサインしたら、然るべきところに提出してくる。だから、おまえはここで待っていろ」


 専属騎士である私が、レインハルト殿下だけをこの時間に出歩かせるのを許可できるわけがない。


「ダメですよ、おひとりでは」

「だったら、おまえも一緒にだな」


 そう言った殿下は、嬉しそうに微笑んでいる。


 あれ? もしかして、まんまと嵌められてしまったのだろうか?


 そして私は誓約書にサインをしている。 


「よし、行くぞ。あ、服」


 そう、私の騎士服は中途半端に乱れているし、髪も爆発している。


「直してやる」


 こんなぐちゃぐちゃにしたのはレインハルト殿下なのに、彼は腕を伸ばしてきて私の上着の鉤を留めはじめた。


 それから、爆発している髪はゆるく三つ編みにして組紐で結わえた。


「ほら」


 レインハルト殿下が手を差し出してきたので、私は躊躇いつつもその手を取った。すると、嬉しそうに微笑んでいる。


 だから、この顔がずるいのだ。こうやって私の心をわしづかみにしているのに、きっと彼は気づいていない。


 複雑な気持ちで唇を噛みしめながら、部屋を出た。


「どこに向かわれているのですか?」

「これを出すんだろ?」

「どこに? この時間では聖堂もしまっているのでは?」

「知らないのか? こういった大事な届は早朝だろうが深夜だろうが、受け付けをしてくれるようになったんだ」

「そうなんですか?」


 知らなかった。聖堂もいつからそんなサービスを始めたのだろう。夜は街の明かりさえわずかだというのに。


「いつからですか?」

「なにが?」

「いつから受付けをしてくれるようになったんですか? ほら、大事なことだから他の人にも周知させた方がいいのでは、と思ったのですが」

「周知させなくていい。今日だけだからな」


 ふぼっと咳込みたくなった。


「今日だけ?」

「ああ、今日だけだ」


 まるでこうなることがわかっていたかのような展開に、舌を巻くしかない。だけど、嫌な気持ちはしない。


 彼と繋いでいる手にきゅっと力を込めてみた。


 今日だけ。


 そんな特別感が、私を優越感に導いてくれる。少しは自信を持ってもいいのだろうか。

 レインハルト殿下が言っていた通り、いつもであれば防犯用の明かりが仄かにしか灯っていない聖堂の入口も、今日はちょっとだけ違っていた。


「お預かりします」


 このためだけに司祭はいたのだろう。

 うん、職権乱用だとは思うけれど、司祭もニヤニヤと嬉しそうに受け取ってくれたから、気にしないことにした。


「よし、これでおまえの不安はなくなったな? これで僕たちは婚約者同士になったのだから」

「え?」


 いつの間にか、レインハルト殿下にお姫様抱っこされている。


「おろしてください」

「いやだ。おろしたら、おまえはどこかに逃げるだろう? せっかく全ての根回しをしたのに、ここで逃げられたら僕は立ち直れない」


 根回しって言った。


 どこからどこまでが根回しなのかわからないけれど、婚約誓約書を出したのだから、終わりではないのだろうか。


「まさか、これで終わりだとは思っていないよな?」


 うぐぅ、ホントにレインハルト殿下は心を読んでいるのでは。


「今日はパーティーもありましたし、お疲れですよね」

「疲れているが疲れていない」


 また変なことを言っている。


「僕はおまえを抱くって言ったんだ。そのための婚約だろう?」


 この人、言ってることがおかしい。

 私はきっと変な顔をしていたと思う。だって、レインハルト殿下は焦ったようにあたふたし始めたから。


「別に、その、あれ、あれだ。抱きたいから婚約したんじゃなくて、おまえのことが好きだからで。その、抱きたいと思うのは、僕の欲望というか本能というか」


 なんとなく言いたいことはわかるんだけど、こうやって必死に言い訳をしている姿も可愛らしい。


「おまえ。今、僕のことを可愛いと思っただろう?」


 また、心を読まれた。


「おまえがそんな顔をしているときは、僕を可愛いって言うときなんだよ。くそ」


 いつの間にか、レインハルト殿下の私室に到着してしまった。

 ぽふっと寝台に転がされる。


「僕の本気を見せてやる」

「いえ、いりません。いりませんてば。んっ、ふぅ」


 無駄口ばかり叩いている私の唇は、レインハルト殿下によって封じられる。


「!?」


 唇を合わせるだけのキスじゃない。


「んっ!」


 私が暴れたからか、レインハルト殿下が唇を離した。


「ダメですよ」


 唾液まみれの唇を拭きながら、私は目の前の彼を睨みつけた。


「なんで、ダメなんだ?」

「だって、汚れてるし」


 彼は勝ち誇ったように、にたりと笑った。


「だったら、きれいに洗えばいいんだろ? 準備してくる。いいか? 逃げるなよ?」


 レインハルト殿下はスキップしそうな勢いで浴室に消えていった。


 嫌な予感がする。逃げるなら今のうちと思いつつも、逃げてはいけないとも思う。


 何が起こるかは容易に想像がつくし、どこかでそうなることを望んでいる自分がいる。だけど、ホントにいいのだろうかとさえも思えてくる。つまり、葛藤。


「よし、風呂だ。一緒に入るぞ」


 満面の笑みを浮かべた彼が、ちょっとだけ可愛く見えた。私もたいがい、レインハルト殿下には甘いのだ。


「はいはい」

「やけに素直だな」

「素直なのは、嫌いですか?」

「嫌いじゃないけど、調子が狂う」

「わかりました。どうぞ、ひとりで入ってきてください。私は外で待っておりますので」

「うぐっ」


 レインハルト殿下が近づいてきて、私を見下ろす。


「おまえは、いったいなんなんだ?」

「何がですか?」

「僕のことが好きなのか? どうなんだ?」


 どうなんだと言われても。好きか嫌いかで言えば、間違いなく好き。素直になれない理由もわかっている。私のほうが、十歳も年上だから。


 だから、彼を包み込むようにして大きく手を広げた。


「大好きですよ」


 吸い込まれるようにしてレインハルト殿下は私の胸元に顔を埋めてくる。私はその背をぽんぽんと優しく撫でる。彼は昔から変わらない。


 そのままレインハルト殿下は私の背に両手を回して、私を持ち上げた。


「え、ちょっと。何をなさるのですか?」

「だから、一緒に風呂に入る。昔は一緒に入ってくれたじゃないか」


 昔といってもそれはレインハルト殿下が十歳になるまでで、それ以降、パタリとお誘いがなくなったのだ。


「一緒にって……。レインハルト殿下のほうから、もう一緒に入らないって言ったんじゃないですか。なんで今さら……」

「そんなの、主従関係から婚約者同士になったからに決まっているだろう?」


 雄めいたところを見せたかと思うと、子犬のように尻尾を振ってくる。拒みたいけれど拒みたくない、矛盾する気持ち。


「じろじろ見ないなら、いいですよ」


 ちょっともじもじしながら、上目遣いで彼を見る。


「おまえ、そのタイミングで恥じらうな! 僕を試すようなことばかりしやがって」


 抱き抱えられたまま、私は浴室の隣の脱衣場へと連れていかれた。レインハルト殿下は私の上着の鉤を外しはじめる。先ほどとは違って優しい手つきだ。危なっかしいとも言う。


「自分でできます」

「僕がやりたいんだ」

「もう」


 仕方なく彼からの好意を受け止めることにした。でも、悪い気はしない。上着とシャツを脱がされ、上半身は下着姿に。さすがに下は自分で脱いだ。


「では、私も殿下の服を脱がせますね」

「え!?」

「だって、私だけって不公平じゃないですか。それに昔はこうやって……いえ、今も着替えを手伝っていますよね?」

「着せられるのと脱がせられるのは別だ」


 恥ずかしそうに、ちょっとだけむくれているレインハルト殿下はやっぱり可愛い。


 彼の式典用の立派な上着の鉤を外し、丁寧に畳んで籠の中に入れる。できれば吊しておきたい上着だけど、この際だから仕方がない。シャツにも手をかける。彼が興奮しているのが、よくわかる。落ち着こうと必死に、呼吸を整えようとしている姿も愛おしい。


 シャツを脱がせ、下着も両腕をあげて脱がせると、彼の筋肉質な身体が目に飛び込んできた。思わず凝視する。


 私とは違う、厚く引き締まりしなやかな身体。

 触れてみたい欲求に掻き立てられ、思わずその胸板に手を伸ばす。


「んっ。なんだ、積極的だな」


 レインハルト殿下は困惑しながらも、私の手を取った。


「先に、風呂だろう? あまり僕を煽るな」


 と言われていたにもかかわらず、私の片手は彼のトラウザーズに伸びていた。


「おい。何をしている」

「何って、脱がないと風呂には入れませんから。脱がせようかな、と」

「そこは、自分でやる。いいから、おまえは先に入ってろ」


 顔を真っ赤にしながら、下半身を守っているものをずり下げられないようにと、必死に手で押さえている。


 レインハルト殿下がこういったことに慣れているのかいないのか、全くわからない。ただ、私が護衛していたかぎりでは、娼館に行くような素振りもなかったし、馴染みの娼婦がいるのかもわからないような状態。

 教育は受けているだろうということしかわからなかった。


 じっと彼を見つめていると恥ずかしがるから、私はくるりと彼に背を向けて、先に下着をぽいぽいと脱ぎ去った。


「では、先に入ってお待ちしております」


 手元にあったバスタオルを手にすると身体にくるくると巻付けてから、浴室に続く扉を開けた。


 浴槽にはたっぷりの乳白色のお湯が張られていた。お肌すべすべになる入浴剤が入っている。肌が透けないから、これなら一緒に入っても恥ずかしくない。多分。


 扉の向こうで、ガタッと派手な音が聞こえたけれど、何かあったのだろうか。助けに行くべきか悩んだが、先に入ってろと言われた以上、その言葉に従うのみ。


 私はかけ湯をして、レインハルト殿下の身体を洗うためにいろいろと準備をする。

 扉が開く音がして振り返ると、腰にタオルを巻付けたレインハルト殿下が、少し恥じらいながら入ってきた。


「背中をお流ししますね」


 洗い場に座った彼の背に優しく湯をかける。


「熱くないですか?」

「あぁ、ちょうどいい」


 それから私は石鹸を泡立てて、殿下の背中を洗う。


「頭どうしますか? 前のほうは?」

「ま、前は自分で洗う。少し、恥じらいを持て」

「はいはい。では、頭を洗いますね。そのすきに、前をお好きにどうぞ」


 くそっ、と彼の呟きが耳に届いた。もしかして、怒らせてしまったのだろうか。


「はい、お湯をかけますよ。目をつぶってくださいね」と言えば、その言葉に従うし、素直ではある。


 かけられた湯をぶるぶると首を振る姿は猫のようにも見える。


「おまえ、また僕のことを可愛いと思っているだろ」

「そうですね。長年、成長を見守ってきた殿下ですから、可愛いという気持ちはありますね」

「よし、次は僕がおまえを洗ってやる」

「いえ、自分でできますよ」

「僕がおまえを洗ってやりたいんだ。おまえは僕の専属騎士なんだから、僕の言葉は絶対だろ?」


 こういったときに、専属騎士としての立場を求めてくるのはズルイと思う。


「ぼ、僕だって恥ずかしいんだ。僕だけ恥ずかしい思いをするのは不公平だろ! おまえも恥ずかしくなれよ」


 私は今でもじゅうぶんに恥ずかしい。


「わ、わかりました。殿下がそこまでおっしゃるのなら」

「ちょっと待て。おまえはいつまで、僕を殿下と呼ぶんだ? 名前で呼べ。婚約者になったのだから」


 専属騎士の立場を求めたと思ったら、すぐに婚約者の立場を求めてくる。結局、自分にとって都合のよい立場を彼は選んでいるのだ。


 そんなのは私だって理解しているけれど、それでも拒めないのは、私もその立場を利用しようとしているからだ。


「レインハルト様? それとも、レイン?」

「あっ」


 なぜかレインハルト殿下が情けない声を出す。


「おまえ、そうやって不用意に色っぽい声で僕の名前を呼ぶのをやめろ! 見ろ! 興奮したじゃないか」


 それって私のせいなの? 

 そう思いつつもあたふたするレインハルト様はやはり可愛い。顔を真っ赤にして、虚勢を張ろうとしている。


「おまえ、あっちを向け。僕に背中を見せろ。僕を見るな」

「はいはい」

「くぅっ」


 悔しそうなレインハルト殿下の声が聞こえたが、私は素直に背中を向けた。


 ひたっと背中に何かが触れた。恐らく、たくさんの泡を含んだ海綿である。こうやって他人に洗ってもらうのは、記憶がある限りでは初めてかもしれない。


「痛くはないか?」


 レインハルト殿下も、洗ってもらうのはしょっちゅうあったとしても、他人の背を洗うのは初めてだろう。何しろ高貴なるお方なのだから。


「はい。とても、気持ちいいです。人に洗ってもらうって、こんな感じなのですね」

「おまえに洗ってもらうのは、とても気持ち良かった」

「そうですか。私も力加減がわからないから、ちょっとドキドキしましたが」

「ドキドキとか言うな」


 そんな彼の言葉も、どことなく震えていた。何を言っても文句を言われそうだから、私は黙って洗ってもらうことにしたのだが。


「ちょ、ちょっと。どこを触っているのですか!」


 レインハルト殿下の手がいつの間にか、前に伸びてきている。


「前も洗ってやる。いや、洗わせろ!」

「あっ……」


 思わぬ刺激にはしたない声が漏れた。


「おい。色っぽい声を出すな」

「だったら、触らないでください」

「無理だ。今、めちゃくちゃにおまえに触れたい」

「それ以上触ったら、殿下が元気になるではありませんか」

「げ、元気にならなきゃ、おまえを抱けないだろ」

「えっ」


 ざぶんと湯をかけられ、白い泡が流れていく。何度もかけられ、泡はどこかに消えていた。


 やっぱり、彼は最後までやる気なのね。いや、期待していなかったと言えば嘘になるけれど、ここまで躊躇いながらも勢いにまかせて言われてしまったら、私が主導権を握るべきか。

 と言えるほど、私に経験などあるわけもなく。


 そんなことを考えているうちに、レインハルト殿下が積極的に触れてきた。


「やっ、やめてください」

「無理だ。やめたいのにやめられない。おまえの肌が柔らか過ぎて、僕の手に吸い付いて離れようとしない」


 離れようとしないんじゃなくて、離したくないの間違いだろと思いつつも、それを拒めない。


「わ、私。初めてだから」

「知ってる」


 知られてた?!


「だから、アンリに近づく男は、僕が排除していたからな。おまえの初めては僕のものだ」


 ちょっと悔しいかも、と思った。私の初めては彼かもしれないのに、彼の初めては私じゃない女性かもしれないのだ。


「ぼ、僕も初めてだが……。ほら、そういった教育はばっちり受けているから、安心してほしい……。た、多分……」


 なんと、レインハルト殿下も初めてでいらっしゃった。大丈夫なのだろうか、私たち。


「で、では。今日はやめましょう。初めて同士だと失敗するかもしれませんし」

「無理だな。あきらめろ。僕が我慢できない」


 そんなこんなで初めて同士、ぎこちなく一線を越えたわけだが、寝台の上で横になるレインハルト殿下は、私のほうに身体をすり寄せてきた。


「失敗、しなかっただろ?」

「そ、そうですね……」

「アンリ……。キスしていい?」

「はい」


 私も彼の背に回していた手に力を込め、彼を引き寄せた。

 ちゅ、と触れるだけの静かなキスだったけれど、彼からの愛情をじゅうぶんに感じられた。


「これから、よろしくね。僕の婚約者」

「は、はい……。十も年上の面倒くさい女ではありますが……。殿下の……」

「じゃなくて、名前」

「あ……、レインの婚約者として恥じぬように精一杯努めさせていただきます」

「あ、うん。そういうところが面倒くさい。ま、それも可愛いんだけどね」


 そう言って笑ったレインハルト殿下こそ、可愛らしかった。

 きっと私はこれから、彼のこのような姿を独り占めできるのだろう。そんな優越感に目覚めた。





 結局、レインハルト殿下の婚約者の地位にまるっとおさまってしまった私は、今でも彼の専属騎士である。


 後任が見つかるまで、という条件付きであるが、レインハルト殿下が後任を真面目に探そうとしていないことなど、わかっている。


 だって彼は、四六時中、私と一緒にいたいのだから。

 そんな関係も今は悪くない。悪くないんだけど、夜になるとすぐに押し倒してくるのはやめてほしい。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆


「いや、さ。俺って完全に当て馬だよな」

 デラクス辺境伯の前には、年配の男が二人。

「私もおまえにお義父さんと呼ばれたくないからな」

 そう言ったのはアンリエッタの父親である。

「アンリエッタの相手として、おまえよりもうちのレインハルトのほうが、釣り合いがとれているだろう?」

 グラスを掲げて煽っているのはレインハルトの父親でもある国王だ。

「ちっ。俺としてはわりと本気だったのにな。おまえのことをお義父さんって呼ぶのを」

「やめろ、気持ち悪い」

 その日の夜は、遅くまで男たちは酒を酌み交わしていた、とか。

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