第51章、新しい春、新しい教室
桜の花びらが風に舞う四月の朝。
春休みが終わり、校舎には制服姿の生徒たちが戻ってきた。
昇降口で靴を履き替えながら、蒼は少し緊張していた。
理由はひとつ――クラス替え。
「……同じクラス、だといいな」
心の中で小さく呟く。
横にいるこはくも、同じ思いでいるのはきっと間違いない。
ただ、二人は表には出さない。付き合っていることは、まだ秘密なのだから。
昇降口を抜け、廊下には「新クラス発表」の紙が貼られている。
人だかりの中を進み、蒼は自分の名前を探した。
「えっと……3年B組……」
蒼は胸を撫で下ろした。
そのすぐ隣に――
「……あった、私もB組」
こはくが小さな声で言った。
その瞬間、二人は目を合わせて、こっそりと微笑み合う。
(よかった……一緒のクラスだ)
胸の奥がじんわり温かくなる。
こはくの頬も少し赤く染まっているように見えた。
「蒼! こはくちゃん! 一緒だね!」
元気な声で駆け寄ってきたのは結愛だった。
その後ろから美音と理玖も続く。
「ふふ、運命感じちゃうね。同じクラス、また楽しくなりそうじゃん?」
「……オレも同じ。ま、これでまた一緒に遊べるな」
それぞれが笑い合いながら、新しいクラスに足を踏み入れる。
窓際の席、廊下側の席、黒板近く……
まだ決まったばかりの座席に、わくわくとした雰囲気が漂っていた。
蒼は窓際の中央あたりに座り、その斜め後ろにはこはく。
視線を動かせばすぐに彼女を見つけられる距離だ。
その安心感に、少し肩の力が抜けた。
新しい担任の自己紹介、配られるプリント。
進級した実感が少しずつ増していく。
やがて昼休みになり、机を寄せ合って昼食を広げる時間。
「今年も一緒に過ごせるの、嬉しいなぁ」
結愛は笑顔でお弁当を広げる。
「ねえ、蒼くん。3年ってことはさ、もう受験のことも考えないとだよね?」
「……まあ、そうだな。まだ実感はないけど」
「えー、蒼くんなら余裕でしょ。こはくちゃんは?」
突然話を振られ、こはくは箸を止めて小さく笑った。
「うん、ちゃんと頑張らないとね」
美音はそれを見て、ふふっと意味ありげに笑う。
「二人とも、なんか息ぴったりじゃない?」
「えっ!? そ、そんなことないよ!」
慌てるこはくに、蒼も苦笑いを浮かべる。
(やばい、少し怪しまれたかも……)
それでも、こうして騒がしい昼休みを過ごす時間が、たまらなく心地よかった。
放課後。
校舎を出ると、まだ冷たい春風の中に桜の花びらが舞っていた。
「ねえ、蒼くん。今日さ……一緒に帰らない?」
こはくが小さな声で誘う。
「もちろん」
人目を避けながら校門を抜け、二人並んで歩く。
春休みの思い出、これから始まる新しい学年への不安と期待。
そんな話をしながら、桜並木の道を歩く二人の間に、静かに時間が流れていった。




