表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の白狐  作者: にゃふ
19/52

第19章、静かな戦いの朝

夏の騒がしさが嘘のように、朝の空気は少しひんやりとしていた。

蝉の声も心なしか控えめになっていて、秋の気配がじわじわと忍び寄っている。


蒼は目覚ましが鳴るよりも前に目を覚ました。

ぼんやりと天井を見つめる数秒間――その間に、心の中で自分を落ち着ける。


(今日は……テスト本番だ)


長かったようで、あっという間だった夏休み。

あの別荘での勉強会、みんなとの時間、こはくとの特別な夜の出来事。

それらすべてが、蒼の中で大きな支えになっていた。


制服に着替え、リュックを肩にかけて家を出る。

朝の風が頬に心地よく当たり、少し背筋が伸びた気がした。


校門をくぐると、いつもより人の声が少なかった。

普段は賑やかな登校時間も、今日は緊張感のある沈黙が支配していた。


「……おはよ」


昇降口でこはくに声をかけられた。

彼女はいつもと変わらない笑顔で、けれど目の奥にはどこか引き締まった決意が宿っている。


「おはよう。……早いね、今日」


「うん。ちょっとだけ、黒板に公式とかまとめて書こうかなって思って」


「……さすがだな。こはくって、やっぱり努力家だよな」


「ふふ、褒めても何も出ないよ?」


二人で並んで階段を上がる。

その距離は、あの夜以降、少しだけ近づいた気がしていた。


教室に入ると、すでに美音と理玖が来ていて、各々ノートを広げていた。


「おっはよー! あ、蒼くん、こはくちゃん! 朝から仲良しね~♪」


「ち、ちが……! いや、そうでもあるけど……!」


「あらあら、動揺してる時点でアウトだよ?」


「お前、朝からテンション高いな……」


理玖が少し呆れたように笑いながら、蒼に参考書を見せる。


「ここ、見直しておいた方がいいかも。過去問だと何度も出てる」


「お、サンキュ。……やっぱ、理玖は頼れるな」


ふと、後ろのドアが静かに開いた。

入ってきたのは、天野凪――生徒会長で、物静かで凛とした存在感を持つ少女だった。


「おはようございます」


小さな声と共に、凪は自分の席に静かに座る。

誰に媚びるわけでもなく、ただ淡々と準備を始める姿に、教室の空気が少しだけ引き締まる。


「凪ちゃん、今日も一人で勉強してきたの?」


「ええ。……静かな方が集中できますので」


それだけを言って、また手元のノートに視線を戻す。

その姿に、美音がこっそり「相変わらずカッコいいなぁ……」と呟いた。


チャイムが鳴り、テストの開始が告げられる。


先生が黒板に「国語」と大きく書き、答案用紙を配り始める。

紙の擦れる音が、やけに大きく響く。


蒼は深呼吸をして、ペンを手に取る。

こはくも小さく頷いて、視線を前に向けた。


「では、始めてください」


その一言で、教室の空気が完全に変わった。


カリカリとペンの音が響き、誰もが真剣な表情で問題に向き合う。

夏の終わりに試される「努力の答え合わせ」。


蒼は、心の中でつぶやいた。


(絶対に、悔いのないように――)


昼休み。


みんなが弁当を開きながら、答案の話に花を咲かせる。


「やばかった~、古文。訳わかんなかったー!」


「ねぇ、ここの記述問題、どう書いた?」


「おれは……えっと、こういう感じで書いたけど……」


「わたし、完全にズレてるかも……!」


笑い混じりの会話の中に、安堵と疲労感が混ざっていた。

蒼はこはくと少しだけ目を合わせて、声をかける。


「……調子、どうだった?」


「うーん……悪くはなかったと思う。でも、まだあと2日あるしね」


「そうだな。気を抜かずに、最後まで行こう」


午後のテストも終わり、下校の時間。

いつもの放課後とは違い、どこか達成感と緊張が入り混じった空気。


「今日はこれで終わりだし、軽く反省会しない?」


美音の提案に、みんながうなずいた。


「そうだな。明日の教科、軽く予習してから帰るか」


「お泊まりはしないけど、また集まって勉強するのはありかも」


「蒼の家、また借りる?」


「ちょ、ちょっと待て! 俺の家、いつから学習塾になったんだよ!」


そんな冗談混じりの会話が飛び交いながら、みんなで帰り支度をする。


放課後の廊下に差し込む夕日が、みんなの背中を照らす。

明日も、明後日もテストは続く。けれど、もう一人じゃない。


蒼は少しだけ目を閉じて、深く息を吸った。

この静かな戦いの朝が、きっといつか「懐かしい」と笑える日になると信じて――

第19章でした。1日目のテストが終了!!みんな頑張れ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ