第16章、勉強会は恋のスパイス
「……じゃあ、次の定期試験の範囲は――ここからここまでだ」
そう言いながら先生が黒板に書いた文字列は、まさに地獄そのものだった。
「……うそでしょ……」
「えっ、こ、こんなに!?」
「これって前回より1.5倍あるよ……?」
放課後の教室。生徒たちは一様に絶望のため息をついていた。
蒼たちも例外ではない。
ノートを見つめる蒼の隣で、白咲結愛がうなだれている。
「もう無理……私、脳みそオーバーヒートしそう……」
「これ、ほんとに人間が処理する範囲か……?」
理玖の冷静な声にも、どこか諦めがにじんでいる。
その空気をぱっと変えたのは、美音だった。
「――じゃあさ、蒼の家で勉強会しない?」
「……え?」
「前も言ってたじゃん。蒼の家、広いって。みんなで集まってやれば、少しはモチベも上がると思うんだよね!」
美音はにっこりと笑ってみせる。
「いいね、それ。みんなでやれば、わかんないとこも教え合えるし!」
こはくもすぐに反応し、結愛も顔をぱっと明るくした。
「え、いいの!? 蒼の家に行っても?」
「……まぁ、いいけど。親も今出張中でいないし、部屋も余ってる」
蒼がちょっと照れたように頷くと、美音がさらに言葉を重ねる。
「じゃあさ、いっそ泊まりでやらない? 夜までかかったら、帰るのも面倒だし!」
「お、お泊り!?」
結愛が目を丸くし、こはくも少しだけ驚いたように蒼の方を見る。
「別に……問題ないよ。部屋も男女で分けられるし」
蒼が平然と答えると、美音がにやりと笑った。
「決まりっ♪ 勉強会 in 蒼んち、開催決定ー!」
その翌日。
6人は各々の荷物を抱え、蒼の家に集合していた。
「……広っ。これほんとに家?!」
玄関に立った結愛が目を丸くし、美音も「ホテルじゃん……」とため息交じりにつぶやく。
「ほんと、蒼ってお坊ちゃんだったのね……」
「やめろよ……普通だって」
リビングに通された一行は、そのまま丸テーブルを囲んで勉強会をスタートした。
「はい、まずは数学からね! 理玖、問題出して」
「了解」
こはくの指示で順調に勉強は進んでいく。
それぞれの得意分野を活かして、苦手なところをフォローし合う形が自然にできていた。
「こはく先生、教え方うまーい!」
「すごい、説明聞いてたら分かってきた……!」
蒼も、その様子をどこか安心したように見つめていた。
夕食は、こはくと美音が中心になって作ったカレー。
蒼が手伝おうとしたが、「じゃま」と軽くあしらわれ、みんなで食卓に並んだ。
「うまっ!」
「こはく、これ家で作ってるの?」
「うん、たまにだけどね」
いつもは冷静なこはくが、ちょっとだけ照れて笑うのを見て、蒼の胸がきゅっとなる。
そして、夜――。
「じゃあ、男子は蒼の部屋で、女子はゲストルームってことで!」
「夜更かしはほどほどにね〜」
「無理だわ、テンション上がってきたし!」
パジャマ姿になった一同は、もうすっかり合宿気分。
夜食を囲んでの恋バナや、しりとり、ウノ大会と、勉強の合間のリラックスタイムが続いていく。
「なぁ、蒼ってさ、好きな子とかいるの?」
唐突な美音の質問に、場が一瞬凍る。
「そ、それって今聞く!?」
「いいじゃん、雰囲気的に~。ね、こはく?」
「え、わ、私に振らないでよっ」
顔を真っ赤にしたこはくと、目をそらす蒼。
何かを察した結愛と美音がニヤリと笑ったのは言うまでもない。
第16章でした。テスト勉強するために蒼の家にみんなで突入だ!さて、ちゃんと勉強できるのかな