第13章、夏の終わりの、思い出のかけら
朝――。
波の音と、蝉の声。別荘の窓から差し込む朝日が、まぶたを優しく叩いた。
「……うわ、まぶし……」
蒼は伸びをしながらゆっくり起き上がる。昨日の肝試しの余韻が、まだほんのり胸の奥に残っていた。
となりでは理玖が、すでに顔を洗ってスッキリした様子。
「おはよう、蒼。みんな、外に出てるよ。スイカ割りだって」
理玖の声に誘われて外へ出ると、すでに庭の真ん中に大きなスイカが置かれていた。
「おはよう、蒼!」
結愛が手を振りながら、目隠しと棒を手にしていた。
「朝から元気すぎじゃね……?」
思わず苦笑いする蒼。
「ふふ、結愛ちゃんらしいよね」
隣にいたこはくが、少しだけ蒼の袖を引いて、微笑んだ。
昨日のあの夜とは違う、けれどもどこか柔らかい空気が、二人の間にあった。
スイカ割りは、順番に目隠しをして行われた。
結愛が全然違う方向に棒を振り回して、みんなが大笑いしたり、
理玖が「左、左!」と指示されてまっすぐ右に行ったり。
最終的に、凪が無言でズバッと一撃で割ったときは、全員が「おぉぉーっ!?」とどよめいた。
「さすが、生徒会長……」
美音が感心したようにつぶやき、こはくは笑いながら、蒼に小声で言った。
「ねぇ、スイカって、こんなにみんなで食べると美味しいね」
「うん……なんか、こういうの、ずっと続いたらいいな」
蒼の言葉に、こはくは少しだけ俯きながら、小さく頷いた。
昼になれば、庭でのBBQが始まる。
「肉!肉!にくーーっ!!」
結愛がトングを振り回しながらテンション最高潮。
「うるさい! 煙で顔焼けるぞ!」
美音があきれながらも笑っていた。
蒼は炭の火加減を見ていたが、ふとこはくが近づいてきて、トングを持つ手に自分の手をそっと添えた。
「……焼きすぎちゃだめだよ? 焦げちゃうのもったいないし」
「お、おう……」
その自然な距離感に、まだ慣れていない蒼はちょっとだけ戸惑う。
でも、それがなんだか心地よかった。
理玖は美音と一緒に野菜を切りながら、ふと蒼たちを見て微笑む。
こはくに向ける眼差しが、どこか切なげだったのは――誰にも気づかれなかった。
夕方。
西の空が淡いオレンジ色に染まり始める頃、みんなは後片付けを始めていた。
「そろそろ帰る準備しよっかー」
美音の声が、どこか名残惜しそうだった。
蒼は、別荘の外で荷物の整理をしているこはくに近づいた。
「楽しかったな」
「うん、すっごく……。でも、ちょっと寂しいね」
「……また、みんなで来よう。そん時は、もっと色んな思い出作ろうな」
こはくは微笑んで、静かに頷いた。
――夏の思い出。
波音と笑い声、甘酸っぱい距離と、小さな約束。
それは、これから始まっていく恋の、あたたかな伏線だった。
第13章でした。もう2泊3日が終わってしまった。でも二人の関係はよいものとなった!夏休みイベントはあと一つありますね!次回はそれをしたいと思いますよ