第12章、肝試しと、ふたりの距離
夜の海でお互いの気持ちを伝え合った直後――。
波音がまだ静かに残響している浜辺に、遠くから声が響いた。
「おーい! 蒼ー! こはくー! どこ行ってたのー!」
聞き慣れた美音の声だった。
二人は少し顔を見合わせ、自然と笑ってしまった。
まだ手を繋いでいたことに気づき、お互いに少し照れながら手を離す。
「……行こっか」
こはくがそっと微笑みながら言うと、蒼も頷いて一緒に歩き出した。
戻った先では、美音、理玖、結愛、凪の四人が集まっていて、何やら盛り上がっていた。
その真ん中には懐中電灯、紙くじ、そして――肝試しと書かれた手書きの札。
「何してんだ?」
蒼が首を傾げると、結愛がニコニコしながら説明した。
「せっかくみんなで別荘来てるんだから、夏っぽいことしようって!で、肝試し決定☆」
「肝試し……」
こはくは少し驚いた様子だったが、すぐに「楽しそう」と笑顔を見せる。
「ルールは簡単。別荘の裏にある小道を通って、神社まで行って帰ってくる。それだけ!」
と、美音が元気に宣言。
「ただし! チームはくじ引きで決めますっ!」
理玖が箱を持ってきて、みんなの前に差し出した。
一人ずつ紙を引いていく中、こはくと蒼はまさかの――
「ペアかぶった! 蒼くんと……こはくちゃん!」
その場が一瞬「おお~!」と盛り上がる。
当の二人は、さっきまでの告白の余韻が残っていて、気まずいような、でも嬉しいような空気に包まれていた。
「……付き合って初めての肝試し、だね」
こはくが少し照れながら言うと、蒼は苦笑した。
「うん、なんだろうな……まだ付き合ったって実感わかないけど、こういうの、いいかもな」
懐中電灯を渡されて、二人は小道へと足を踏み出した。
足元には湿った落ち葉、夜風が木々を揺らし、葉の擦れる音が妙に不気味に響いていた。
「ちょ、ちょっと怖いかも……」
こはくが蒼の腕にそっと手を伸ばす。
「大丈夫、俺がいるし」
蒼はぎこちなくも、こはくの手を握った。
さっきとは違って、今度は自然な手のつなぎ方だった。
二人は並んで歩きながら、時折聞こえる小さな音に驚いたり、笑ったりしながら進んでいく。
「……さっきの話だけど、こうして一緒に歩けるのが、すごく嬉しい」
こはくの突然の言葉に、蒼は一瞬言葉を失い、それから少し照れながら応えた。
「……俺も。こういう時間、なんか、夢みたいで」
道の先に見えた鳥居の前で、二人は立ち止まった。
そっと手を合わせるこはくを横目に、蒼も願いを込めて目を閉じる。
「……願いごとした?」
帰り道、こはくが聞いてきた。
「うん。こはくと、ちゃんと続けていけますようにって」
その言葉に、こはくは少しだけうるんだ目で笑った。
「私も、同じようなこと……お願いしたかも」
手を握りながら、二人は再びゆっくりと歩き出した。
――肝試しというより、どこかデートのような、静かで優しい夜。
付き合い始めた二人にとって、忘れられない思い出になったことは、間違いなかった。
そして、別荘へ戻った時、みんながニヤニヤしていたのは――言うまでもない。
二人が付き合い始めて、初の肝試しデート。書いてる側も少し羨ましいと思ってしまったw