第10章、青い海と約束
夏休みが始まり、蒼はどこか浮かない顔をしていた。
そんな時に、ピリッとした空気をぶち壊すようなメッセージがスマホに届く。
送信者は美音。
「みんなで勉強会しよう!遊びすぎてテストがヤバイ(笑)」
「場所はうちの海の別荘!2泊3日、こっちに来れる人は連絡してね!」
別荘……?
美音の家にはそんな場所があったのか。驚きとともに、そのメッセージに目を通す。
(まさか、またみんなで……?)
プールでの出来事が頭をよぎり、蒼は少し悩んだが、すぐに決断を下す。
まだ気まずいままではいけないと、どこかで心の中でわかっていたから。
「行こうかな」
決意を胸に、蒼はメッセージを送る。
「行きます」
数分後、美音からの返信が届く。
「よっしゃー!待ってるね!集合場所は駅前、日曜日の朝9時!じゃあ、また!」
そのメッセージに、蒼は少しだけ安心して、そして、微かな期待も抱いていた。
***
そして迎えたその日。
蒼は早めに起きて、駅前に向かう準備を整えた。
駅に到着すると、すでに他のメンバーは集まっていた。
こはくが白い麦わら帽子をかぶって、少し照れくさそうに手を振る。
その姿を見ると、蒼の胸の中で何かがギクっと音を立てる。
「おはよう、蒼くん」
「……お、おはよう」
あの時のことを思い出すと、どうしても顔が赤くなる。
無理に普通を装ってみても、心の中ではぎこちなさが滲み出ている。
「みんな、来たね!」
美音が駆け寄りながら、盛大に手を振る。
その後ろには、理玖と凪もいた。
「黒川、こはく。今日からよろしくな」
「うん、よろしく」
理玖と凪の姿を見ると、少しだけ安心する。
美音とこはく以外は、あまり無理に絡むこともないだろうと思ったから。
しばらく話していると、バスが到着し、みんなは乗り込んでいった。
長時間の移動になるため、各自で軽食を持参してきている。
美音は、みんなにチョコレートを配りながら、「疲れたら寝な~!」と楽しげに言っていた。
道中、景色は次第に山から海へと変わり、蒼たちはバスの窓から美しい風景を眺めていた。
そして、数時間後――
「到着!」
美音の元気な声に、バスが止まる。
目の前に広がったのは、青い海と白い砂浜が広がる場所だった。
「すごい……」
こはくが感嘆の声を漏らす。
美音は得意げに胸を張って言った。
「でしょ!これがうちの別荘だよ!最高のロケーションでしょ?」
凪が冷静に言う。
「確かに、ここは海が近くて便利だな」
全員が降りると、美音がみんなに荷物を渡しながら言った。
「荷物は後で部屋に運んで。先にリビングに行って、ちょっと休憩しよう!」
リビングに入ると、広々とした空間が広がっていた。大きなガラス窓の向こうには青い海が広がり、心地よい風が部屋を吹き抜けていく。
「わぁ、ここ、すごく広いんだね」
こはくがリビングを見回しながら言うと、美音は得意げにうなずいた。
「そうそう!父がよく使ってるから、普段は空いてるんだよ。だからみんなに使ってもらおうと思って」
みんなが少し落ち着くと、早速勉強会――という名の「雑談会」が始まった。
「じゃあ、まずは勉強する?」
理玖が言った。
「えー、勉強したくない!せっかくの別荘だし、遊びたいよ~!」
美音がアピールしてみんなを笑わせる。
蒼は少しだけ口を挟んだ。
「まぁ、ちょっとくらいは勉強しような。テストも近いし」
それに、美音は「いやだー!どうしても遊びたい!」とふざけながらも、結局は全員で勉強することになった。
その後、みんなでご飯の準備をすることになり、こはくが手際よく料理を作り始めた。
「すごいね、こはく。料理も得意なんだ」
「うん、お母さんがよく教えてくれるから」
こはくの料理の腕前に感心しつつ、蒼は静かに見守っていた。
夜が近づくにつれ、みんなでテーブルを囲み、食事を楽しむ。
そして、その後もみんなでおしゃべりやゲームをしながら楽しい時間が流れていった。
「そろそろ寝る時間だね」
美音が時計を見ながら言う。
「うん、今日はもう十分に楽しんだし、明日も朝から遊べるね!」
そして、みんなそれぞれ部屋に向かい、夜が更けていった。
蒼は一人、窓から海を眺めながら思った。
(明日、何か変わるかな……)
そう思いながら、瞼を閉じた。
第10章でした。蒼君たちは美音の別荘へ。そこで二人は心の距離を縮めることはできるのか