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わたしのばん

「『スラーッシュ!!』」


甲高い掛け声とともに繰り出された斬撃が魔物の頸を寸断する。グギッと潰れた音を出し,魔物だったものは床に伏した。


「ギッ,ギャギャギャ!!!」


倒れた仲間を気に掛ける暇もなく,残った二匹は殺戮者に背を向け駆け出した。

武器を捨て,小さな手足を懸命に振る。

地の利はあるのか,速度を落とさずにでこぼこした獣道を駆ける。


殺戮者はそんな二匹を脇目に,空中に浮かぶ白い板をなぞっていた。


「おっ,今のやつスキル持ちだったのか。これでレベルが上がったな」


彼女の視線の先には白く光る『スラッシュ : Lv4』の文字があった。


「とりあえず,あれを片付けたら今日はもう終わりにするか」


小さくなっていく背中に向き直り,右手を突き出す。


「『吐糸』」


その声に反応するかのように,右手から一筋の白い線が小鬼に向けて勢いよく飛び出した。

すさまじい速度で距離を詰めていき,着弾まであと1mほどを残して線が傘のように開く。

白い傘は飛び出した勢いのまま,ぶわっと小鬼たちを包みこんだ。

二匹は足を取られ倒れこむ。

蜘蛛の巣のようなそれから逃れようとパニックになりながらもがく。

それは少々粘り気があるのか,手足にまとわりついた。

やっとの思いで一匹が立ち上がるも,相方の足に躓き転んでしまう。

そのせいで余計に絡まってしまった。


「あはは,同じ方向に逃げるからだよー」


少女はゆっくりと,時々木の根に足を取られながら二匹に近づく。


「結構飛んだなー,でも拘束性はまだまだだな」


大きな塊となった二匹の前にたどり着き,見下ろした。


「ごめんね。スキルと野望のためだから」


そう呟きながら,剣を掲げる。


「私の糧になれ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日は豊作だったな~」


街中を一人歩く。今日は目標を大きく超える成果を挙げた。

これも森の中を永遠と遭難,もとい散策したおかげだ。


「ちょっとラミュアさん!何が豊作ですか!また手ぶらじゃないですか!!」


猫耳を頭上に生やした猫のような少女が数十m先から二足歩行で詰め寄ってくる。

なんで聞こえたんだ,ってもう何回目だよ・・・


「違うよ,今日は薬草採取だったんだ!ほらこれ!」


猫耳が目の前に立つと同時に腰に付けてた袋を広げ,中身を見せた。

彼女はそのまま袋に鼻を突っ込み,中を検めた。


「なるほど・・・でもその割には返り血が多いですねえ」


私の周りを回りながら,返り血で赤く染まった全身を嘗め回すように睨みつける。


「においから察するに,ゴブリンですかね?少なくとも十数匹は倒してるようですけど?」


「い,いや~~群れと遭遇しちゃってね,災難だったよ~」


「へえ,所々渇いているのを見るに,何回も遭遇しちゃったんですね~~~」


正面に向き直り,目を細めて顔をずいっと近づけてくる。獣人の白い体毛が鼻にかかり,むず痒さを覚える間もなく。


「おかしいですね~~。最近辺境騎士団がゴブリンの巣を駆除して巡ってたので,そうそう遭遇しないと思うんですけどね~~」


目を細めたまま続ける。


「うっ,レベル上げを,ちょっとだけ・・・」


苦しまぎれに放ったが,すぐにしまったと気づく。

へえそうなんですか~と,彼女は息を吸いながら天を仰ぎ,


「生態系ぶっ壊すなって,何回言えばわかるんですか~~~!!!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


場所を移して冒険者ギルドの中。

私はあの後,猫耳少女もとい受付嬢ミヤハに首根っこを捕まれ,ここまで引きずられてきた。

どのみちここに用事があったので,手間が省けたのだ。


私は受付カウンターを挟んでミヤハと向かい合っていた。

もっとも,彼女は椅子に座って腕を組み,私は正座をしているが。


「貴方が魔物を虐殺すると怒られるのは私なんですよ?この前のワームワーム駆除作戦の時だって話が違う,少なすぎだ,こんなのお前らでやれって騎士団の方から怒られたんですからね?」


気が済まないのか,なおも続ける。


「いえ,ゴブリンを倒していただいたのはいいのです。被害が一番出やすいモンスターなわりに討伐する旨味がないので,冒険者は進んで狩ろうとしないので。ですが!!!」


ミヤハは拳を振り上げ,カウンターに振り下ろす。


「なんで駆除作戦の直後にやっちゃうんですか!!もうあそこら辺の生態系めちゃくちゃですよ!!平時ならなんともなかったのに!!数がすぐ増えまくるから!!」


「ごめんなさい・・・・」


あまりの剣幕に,恥ずかしそうに縮こまってしまう。ギルドにいた冒険者たちが何事かと私を取り囲んでひそひそしていたからだ。

街中でスラムの次に治安が悪い冒険者ギルドでは,少女が少女に怒られている構図が非常に珍しいのだ。


注目されていることに気付いたミヤハも恥ずかしそうにコホン,と咳ばらいした。


「ふう・・・そんなに狩りたいなら討伐クエスト受けて報酬ももらえばいいじゃないですか。ワームワームやゴブリンのクエストは常設されていますよ?むしろ,クエストの規定数だけ倒していただけると本当に嬉しいんですけど」


「いやだって,クエストなら素材取ってこないとじゃん・・・」


「ああ,なるほど・・・」


そうなのだ。だから私はカモフラージュとして薬草クエストを受け,さも魔物と遭遇していない体を装おうとしていた。証拠隠滅のため,血痕を落とそうと宿に向かっていたところをミヤハに見つかってしまったのだ。


「たしかにワームワームやゴブリンの素材採取は正直抵抗がありますね・・・」


背後からガハハ,やかわいいーなどと聞こえてくる。


「たしかに内臓とチ〇コはなあ・・・俺もやだよ。なんならそれが理由でクエストを避けているまである」


少女らしい理由にミヤハは納得したのか,うなだれ大きくため息を吐く。

そうしてまっすぐと私を見つめ,いつものような受付嬢の口調で,


「そういうことなら,わかりました。経験値効率は落ちますが,次からはパーティーを組んで素材を採取するなどしてください」


「回収された素材の数は種の勢力推定に活用されております。生態系維持のために,その数を管理する必要があります。何卒宜しくお願い致します」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


解放されたラミュアは宿の一室にいた。少々騒いでもいいように,いつも壁が厚い少々お高目な宿の角部屋をとっている。

彼女はいつものように,部屋の中央に白い大きな布を敷いた。

皺を伸ばしたあと,今度はナイフで指に傷をつける。ぽたぽた,と黒い血は布に滴り落ちる。


「今日は数が多いからね。大きめにしないと」


布と傷口の摩擦による痛みに耐えながら,傷ついた指で大きな円を描いた。

その後円の中に大きな星を一つ描く。

専門家が見れば,それは非常に高度な魔法陣であることが分かるだろう。


こんなもんかな,と彼女は満足げにうなづいたあと,彼女は腰に付けてた袋を取り出した。

中身を見て,大きくため息を吐く。


「はあ,まあこれも野望もためだ」


彼女は意を決して袋をの中身を魔法陣の中央にぶちまけた。

ふくろから吐き出されたのは,黒と緑が混じったゴブリンの陰茎。その数は百にものぼった。


「うえええ,きっしょおお」


あまりの光景と匂いに嗚咽しそうになる。だが,もう少しの辛抱だ。

できるだけ鼻呼吸を意識ながら両手を広げ,目をつむる。

手は青白く輝き,それに応えるかのように魔法陣も輝き始めた。

そして魔法陣から,まるで水に墨をこぼすように黒い血が滲み,吹き出した。

血は渦をまき,段々と大きくなる。やがて部屋中を荒いた。


荒れ狂う黒い奔流のなか,ちいさな唇が動いた。


『Δίνει αιωνιότητα.』


魔法陣の輝きは一層増し,部屋中を満たした。

光が収まると,そこには4匹の小さな黒いゴブリンがいた。


「ふう・・・・」


彼女は力を使い果たし,小さくよろけた。

そんな彼女を,小鬼たちは力なく眺める。まるでなにかを待っているかのように。

持ち直した彼女は小鬼たちに向き合った。


「やあ子供たち。私がママだよ」


子供たちを満足そうに眺めたあと,彼女は天を仰ぎ,続けた。


「さあ,子供たちよ!世界を侵略せよ!まずは手始めに,群れを率いて近隣の村をすべて滅ぼ・・・・あれ?」


目の前にゴブリンたちがいない。見渡してみても部屋のどこにもいない。

代わりに宿の窓が破壊されていた。


「何だよぉおもおおお!! またかよぉおぉぉおおおお!!」


寝静まった夜に少女の怒号が響いた。

翌朝,彼女は癇癪を起こし窓を破壊したとして,宿主から50000ゴールドを仰せつかった。

同刻,街で3匹の黒いゴブリンが発見され,無事討伐された。

















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