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自己満足な選択

二匹のドラゴンと睨み合いお互いのプレッシャーを感じ戦えばタダでは済まないと理解し赤いドラゴンが卵を守る為に壁になる様にアキトに詰め寄る。


(家畜を襲ってるし被害は出してるし…見逃す訳にもいかないか…エゴ、偽善、か)


同情しても仕事と使命の前には致し方無いと木刀に手を当てる。

ドラゴンはアキトの動きを見て口の端から炎が漏れてブレスの体勢に入る。

氷雨は手伝ってくれないと割り切り刀を旅行鞄に戻し本気を見せてやると敵のブレスに合わせて横に走り攻撃を回避、誘導する。

ブレスが途切れるのと同時に正面に走り敵の二撃目より先に飛び上がりドラゴンの眼前まで迫る。

ブレスは間に合わないと判断したのか口を大きく開いて噛み付こうとするドラゴンに対しアキトは素早く棒手裏剣を二本指に挟み口内に投げつける。


『ぐわっ!何だ!?』


異物が柔らかい舌と喉に突き刺さりドラゴンは言葉を発し藻掻く。


「喋れるのかお前?!悪いな!俺は汚い手も使うからな!」


隙だらけになった頭の角目掛けてアキトは容赦無く木刀を思い切り叩き付けボキッと角がへし折られドラゴンは床に顔面を叩き付けられ目を回す。

会話が出来そうだとアキトは追撃は入れずに一歩下がり胡座(あぐら)をかいてフンと鼻を鳴らす。


「まだやるか?」


『に、人間のクセに舐めた事を…』


もう一度威圧的にアキトは同じ質問をするとドラゴンは仲間に刺さった棒手裏剣を抜いて貰いアキトに習い香箱座りする。


『こんな所まで来て我々を討ちに来たのではないのか?』


「おう、そうだ。赤いの。お前の手配書だよ」


依頼書をヒラヒラさせるとドラゴンは舌をチロチロさせて鼻で笑う。

(ちまた)を騒がせた対象だけが狙いと言われて奥のドラゴンと卵は狙いじゃないと知り安堵したのか頭を下げる。


「大体家畜一頭盗んで食って腹が保つのか?そんな図体じゃないじゃないか」


アキトの素朴な疑問にドラゴンは光に包まれ竜の鱗に包まれた半人に変化する。

急にサイズ変化した事にアキトは頭を痛めるが知り合いに巨大化するヤツがいるのを思い出してまぁいいかと無理矢理納得する。それよりも驚いた事があった。


「お前が雌かよ!」


『悪いか?』


ドラゴン形態の時とはボディラインだけでなく声色も違いアキトはたまげて奥の紺色が雄なのかと呟く。


『この身体なら牛一頭で数日過ごせる』


「…質量保存の法則ってご存知?」


結局突っ込んでしまうアキトにそんな言葉知らんと首を傾げられる。

孵化するまでこうやって生活していたのかと既に紺色によって丸焼きにされた牛を見てアキトは思う。


『お前、さっきまだ戦うのかと言ったな?殺すのか?私達を?』


「どうだろうな、まだ悪さするなら殺さなきゃいけないし参ったと言って…いや、うーん」


アキトは鱗だらけでまだ人として隠れて生活するのは無理だなと妥協案を考え始める。


『なんだ?もう少し人に近付けばいいのか?』


「なれるのかよ…人として生活すれば…いや、どの道その卵は動かせないか…予定ではあとどのくらいだ?」


ドラゴンは微妙な顔をしてまだ分からないと答える。

アキトは依頼書の報酬をジッと睨む。牛一頭幾らでそれがどれだけあれば静かに彼らが生活出来るかと頭を悩ませる。


(討伐を詐称して外への危害を無くしその後静かに去ってもらう…うーん…上手く行くか?)


何か悩むアキトを置いてドラゴン二匹は食事を始めて丸焼きの牛を美味しくいただいていた。

罪とその償いが済めば受け入れられる存在なのかどうか、そもそも人間との倫理観等の違いもあってどうあっても和解出来ないのではないかとアキトは必死に考えて頭を左右に揺らす。


『変な奴だ、圧倒してきた癖に急に私達の身の上で悩みだして…』


「家族ってのに弱いんだよ。俺も妻子がいる身、それを失うことへの恐怖は分かる…それに正直言うと依頼人達に対して忠節尽くす事も無いなと今更思っていてな」


氷雨が現れアキトの頭にチョップする。

真面目に不真面目、アキトはドラゴンに一つ確認をする。


「食料って肉以外も食べれるのか」


『食べた事がない』


食料を買うという事を理解すれば問題も起こさないのではないかとアキトはお金を見せる。


『それが食べ物か?』


「いや、コレで人と取引し食べ物を買う。そうすればこんな討伐依頼も出ないだろう」


ドラゴンという存在事態が脅威なのは変わり無いが相互理解、コミュニケーションの大事さというものをアキトは説く。

子供が出来れば最悪別の場所に移ればいいし人に化けて食料を調達するなら報酬でなんとかなると依頼書をヒラヒラさせる。


「お前の首に掛かった賞金は数年遊んで暮らせる。つまり飯だって奪わなくて済む」


『私が死ねば…?』


「赤いのが死ぬ必要はない、討伐した証持って帰ってちょっと我慢して人に化けて…いや、旦那の方がいいか?紺色のは情報出回ってないしちょっと買い物して…」


誤魔化す方法なんて幾らでもあるとアキトは説明すると夫婦は顔を見合わせる。アキトは念押しする。


「子供が出来たらさっさとこの地を去れば問題無いだろう?それまではプライド捨てればいい。命は惜しいだろ?」


叩きのめされている赤い方は渋々頷く。

ドラゴンの姿に戻り竜の逆鱗を旦那に剥がして貰い悲痛な叫びを漏らしながらアキトに差し出す。


『それで足りるか?』


「ああ、あとあの角」


アキトはへし折った大きな角を指差す。

折れたものに執着は無いと言われアキトはその二つを手にする。


「んじゃ報酬と交換してくるか」


ここで移動に数日掛かると気付いてどうしたものかと腕組みする。

先に気付くべき問題だったが氷雨が鞄を持って薬を取り出す。


「あー、それも入ってるのか?便利ねー!…全部返せ」


薬師の奥様特製のクソマズ高速移動薬にアキトは苦々しい顔をする。

良薬口に苦しとアキトは呟いて薬瓶を懐に入れる。

山の麓で待ってろと伝えて討伐した証を持ってアキトは立ち上がる。

その麓まで降りる道を思い出して頭をまた抱えるアキトに対し旦那の方に下まで送ろうとドラゴン形態に送ってもらいアキトは「すぐに戻る」と薬をイッキ飲みして地面を蹴り空を切って目にも止まらぬ速度を出して瞬間移動の如き早さで王都までひとっ飛びするのだった。


どんな距離も空間跳躍の如く、数秒で王都の城門まで戻って来て人目につかない所でブレーキして効果を終わらせて何食わぬ顔をして西門の門番に要件を伝えて王都へ入る。


(依頼受けてるってなれば身分確認も無しか?いや、今回の人がズボラなだけか?)


依頼を受けた酒場までそそくさと移動して依頼の報告をする。

当然早すぎる報告に疑われるが逆鱗と角をドカッとカウンターに置くとざわざわと周囲がどよめく。


「ほ、本当に…?本物…?」


「調べてくれよ。そういえばあのスキンヘッドのは?ステーキ奢る約束だったな」


「マックスさんは昨日依頼で王都を出ました」


名前は知らなかったがなんだか自分の知っているスキンヘッドに似てる名前だと笑いながら答える。


「帰ったらレベル1からの奢りだと伝えてくれ」


財布から金貨1枚受付嬢に差し出しどこで金貨をと怪訝な顔をされるが笑って「成り行き」と誤魔化す。

カウンターの奥から組合のお偉いさんが姿を見せて鱗と角をまじまじと監察を始める。

アキトのステータスと装備を見て嘘をついているといちゃもん付けようとする。


「おいおい、頭持って来いってか!?デカいし重いし腐るぞ?」


「…分かった。金貨1000枚だ」


怪しまれながらもどデカい袋をガシャンと重い音を立てて差し出される。

アキトは中身を確認して大きく頷いて次の仕事を求める。


「なに?仕事だと?…貴様みたいなペテン師商売上がったりだ。紹介状出すから王都から出てけ」


ペテン師扱いされて厄介払いしようとしてきてアキトはやれやれと仕草してお偉いさんから紹介状を書かれて帝国にでも行けと渡される。

アキトは指を鳴らして旅行鞄を呼び出し報酬を吸い込ませる。

周囲がアイテムボックスとざわざわするが無視してアキトはドラゴン達の元へと薬を飲んで一度戻るのであった。


「あ、外出るにしても服無いと色々と不味いよな…買ってくか」


金貨を100枚程手元に残し金と服をドラゴン達に手渡す。


「後はアンタらがどれだけ我慢出来るかだ。まぁアンタらが生きてるとバレて追われる身になる前に俺は王都から御暇(おいとま)するわ。農家の人にはお金幾らか渡してやれ?牛いっぱい食べたみたいだし…」


それとまた人に敵対してしまったその時の処理はするかもと警告だけしておく。


『強き人よ、この礼は(いず)れ…そういえば名前は?』


「アキト、救世主だ…やっぱ恥ずかしいから今のナシ」


救世主名乗るのは無理だとアキトは笑ってドラゴンの名乗りを聞く前に逃げる様に残る一本の高速移動薬を飲んで飛び去るのであった。

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