指導者として
五人になった教室で放課後アキトはハジメを呼び止める。
「ハジメ、ちょっと実力どの程度か俺に見せてくれ」
「は、はい!」
他のメンバーと合わせてグラウンドでトレーニングに励む。
ハジメはナイフよりは大きめなショートソードと小楯を構える。
「小剣と小盾…かバランスがいいな」
アスカに比べて小回りの効く戦闘方法にアキトは頷きつつ試すように木刀を構える。
「行くぞ?しっかり受けろ」
木刀を振るうアキト、それを盾でしっかり受け止める。
「ッ?!」
思っていた以上の衝撃にハジメは思わず二歩下がる。
「加減無しですか?!ビビったー」
「そりゃ試しだ。加減は控えてる」
アキトの言葉に今度は油断しないとガッシリ身構えるハジメにアキトはもっと強く行くと深呼吸して構え直す。
(来るッ!)
ガツン!と来る余りの衝撃に靴が地面を擦る。何とか耐えきって冷や汗にテカるハジメの額。
「す、スゲェ…こんな衝撃…」
興奮が恐怖かでハジメの呼吸が乱れ足が震える。
「次は攻撃だ。どうする一回休むか?」
「いや、行きます!」
盾を前に突き出しながら後ろ手にショートソードを構えて縦に大振りに振り降ろす。
避けやすい一撃だがアキトはあえて受け流すように木刀を構えて軽く刀身に当てて狙いを逸らしてハジメをよろけさせる。
「わっ。とっと、軽く弾かれた…」
「大振り過ぎる。盾に隠しつつだが剣筋は見え見えだな」
「割りと当ててたんだけどなぁ…流石ッス」
じゃあと横振りで斬りかかるがそれも防がれてアキトはハジメに足りない物を分析する。
「息が上がってるな?基礎体力と膂力だな。つまりランニングと筋トレ」
「うわ、初歩的!」
ハジメはもっと他の皆と同じ実戦的な特訓かと思っていて少しガッカリするが技量はあるんだと自信を持って走り込みを始める。
アスカが不思議そうに体幹はどうだったのか尋ねてアキトは鼻で笑う。
「ダメダメだ。だが盾がある以上膂力を鍛えるのが先だ。守りからの攻めを覚えるのが先決」
「成る程、俺と装備が違うからやるべきことも違うと…」
「お前も筋トレするか?基礎は大事だぞ?」
筋トレもいいけどと言葉を濁し走り込みしているススムやカスミを見て自分もますは走ろうとアスカは元気づけに行ってしまう。
走ってないのは土嚢にストレスをぶつける様に魔法を放ち続けるエツコとなってアキトは会話する事にする。
「どうだ?命中精度は」
「八割から九割、少しズレる事があります」
「細かいズレは仕方ないな…百発百中は俺も求めてない」
アキトの言葉に完璧主義なのかエツコは不服そうにアキトを睨む。
「私は当てたいです」
「機械だって誤差は出る。ましてや人だ。身体的、精神的な要因で簡単に崩れる。お前は神経質な所がある。それもコントロールするのは大変だろう」
「…頭冷やしてきます」
ハジメという新しい悩みのタネにエツコは疲れた様子を見せてその場を離れるのであった。
チームワークにズレが生じる事はアキトも承知していたが早々に浮き彫りになってきて対応に追われると覚悟をするアキトなのであった。
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「へぇ、先生はカレーが好きなんですね」
ハジメにマジマジと観察されながらアキトは夕食を食べていた。
「俺もカレーは好きです!あとラーメン!」
年頃の男子といった好物にアキトは笑いそうになるが堪えて話しを聞き流す。ゆっくり食事したいのに急かされている感覚がしてアキトは渋い顔になる。
「夕食後もトレーニングするんですか!?」
「しない、私生活とはメリハリをつけろ。どうしてもしたいなら私室で腕立て腹筋を静かにやるんだな」
成る程と他のメンバーを見て皆はしているのかと興味津々で会話しようとして微妙に避けられていた。
どうやら皆ハジメの子供のような『なぜなに』に疲れているようだった。初日とはいえプライベートには首を突っ込むなよとアキトは厳し目に注意を入れておくことにするのであった。
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土日、学業は休みとなり拠点内は自由な空気に包まれていてアキトも一人でダンジョンを下見したいと申請を出すが同じく申請を出していたエツコの護衛をするように言われてソロで攻略しちゃう気満々だったので少し肩を落とす。
現場入りすると私服のエツコがインカム付けて待機していてアキトの登場に急に渋い顔をする。
「なんで先生が居るんですか…」
「次のダンジョンアタックの下見」
「あー、私と一緒ですね」
腹の裏はお互い隠すように愛想笑いして以前挑戦したダンジョンに入る。
アーケード街はゴブリンの巣窟でアキトが前衛を張って路地から湧き出る相手も軽々と蹴散らす。
「アスカやススムよりずっと楽ですね」
「そりゃ指導者だからな。俺一人ならコアにだって辿り着ける」
本音が漏れてエツコは自分は邪魔かと苦笑いするがあくまでも下見だと先に進む事にする。
「エツコは一人で本当はなにする気だったんだ?」
「ゴブリン相手に憂さ晴らし、悪いですか?」
魔法を好きなだけぶつけてやるつもりだったが他に人が来るなんて予想してなかったと溜め息をつく。
二人は道路を渡り以前キマイラと遭遇したエリアに入りエツコは緊張した顔をする。
「せ、先生、ちゃんと守って下さいね?」
「急にしおらしくなって…任せとけ」
ズンズンと足音が聞こえてきて二人は身構えると体表が虎柄な大猿が現れる。
「初めて見るな…」
「ヌエ!強敵です!」
「あー猿顔の虎ね…任せとけ」
アキトの言葉が聞こえたのかヌエはアキトを睨みつけて両手を振り上げて無秩序に振り回して攻撃してくる。
「ただの暴れザルか!大人しくしろ!」
暴れるだけの攻撃に怯むこと無くアキトはその額に木刀を振り下ろしヌエを地に伏せさせるエツコはドン引きする。
(木刀で制圧しちゃうなんて…規格外過ぎる…)
「まだ生きてるぞ、援護頼む」
「あ、はい!」
炎の魔法でヌエに追撃を行いアキトももう一度木刀を振り下ろしトドメを刺す。
「勝った…!」
「当然。さて、この先には何が待っているか…」
アキトが先に歩き出しエツコは必死で後を追う。
二人が辿り着いたのは建設中に放棄されたビル、工事中の看板に錆がついていて長い年月を想起させる。
「あの…下見で来たのにこんな深部…帰りませんか?」
「インカム使って回収してもらえ。俺はコアを…」
「コア!?本気ですか!ガーディアンが来ますよ!」
以前見た鎧のようなウロコを纏ったドラゴンのようなヤツかとアキトは思い返し余裕だと返す。
余裕と聞いて唖然としつつもこれ以上の探索にはもう少し許可が必要なのではとエツコはアキトが工事現場に入ろうとして止める。
「そうなのか?…確かに回収機材は持ち込んでないが…あ!インカム使って管理部隊呼んで回収はしてもらおうか?」
「そんな便利に管理部を使わないで下さい…怒られますよ?」
「もう怒られてる」
暗に一人で以前回収したと伝えるとハッとされる。
「もしかして以前のコア回収は先生が!?」
「おっと、それ機密事項だから秘密な?」
「なんてこと…」
秘密が知られちまったと隠す気など微塵感じさせない口振りでアキトはバリケードをどかして中に入ってしまいエツコは一応インカムで管理部へ報告しながら後を追うのであった。
「さて、上と下、どっちに賭ける?」
アキトの言葉にエツコは「下」と答える。アキトはニヤリとして下行きの階段を使う。
予想通り建設中の地下駐車場にはコアの根が伸びていてガーディアンと思わしきミミズのような何かが鎮座していた。
「あれがそうか?」
「ランドワーム…それも大物です」
知識だけは豊富なエツコの言葉にアキトは頷いて「離れるなよ」と決戦を挑む合図を掛けるのであった。




