龍と語り合う
警備の仕事、冒険者ではないが母ドラゴンも仕事として参加し周辺警戒をしながらアキトと雑談する。
『ヒトの仕事か、こんな歩き回る簡単な事でいいのか?』
「たまにモンスターが近付いて拠点を攻撃するからな」
『加護をつけているはずではないのか?小物なら追い払えるだろう?』
教会の聖女が次に来るのはいつになるのか分からないから今はこうしているとアキトは説明しつつもう一つの懸念事項を語る。
「魔族、今俺達の脅威となる加護すら無視する集団だ。それが現れることがあるからな」
『ほう、魔族…』
「生物や物質を変異させて魔物という存在に作り変えて手駒にするゲスい連中さ、青肌のヒトと覚えてなおけば大丈夫だ。吐く煙に注意すればいい」
存在について説明を受けてドラゴンは鼻で笑う。
『それがお前が倒すべき存在か』
「それの首領だな、例の山にいる。少なくとも魔族の拠点になっているからな」
『煙があるというのに無理を考えるのだな』
アキトの実力は認めるがそんな事が可能なのかと微妙な目を向ける。
『いつでも行ける。どうする?』
アキトはドラゴンの言葉にもう少しだけ待って欲しいと願い出る。
『番の事が気掛かりか?』
「つ、番って…レインの事か?正式な夫婦じゃないし…それもあるが戦いが終われば俺は消える定め…となればもう少し今の状況を盤石にしたい」
『加護の事か?…我々に任せてもらってもいいんだぞ?』
そこまで苦労を掛けるわけにはいかないとアキトは苦笑いし人の手だけでやらねばならない事もあると答えるのであった。
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一方レインはドラゴンの子供をあやしていた。
「アキトさまから聞いてましたが子供の成長は早いですねぇ…まるで生まれて数年…あれ?」
人間とだいぶ違う子供の成長にレインは首を傾げる。
『ああ、それはそういうものだと思って下さい。産まれてすぐ一人立ち出来る生態ですので』
父はにこやかに語り子ドラゴンは『トトさま』と父親に懐いている様子であった。
『我々には名前を呼び合う文化はありませんが人と触れ合うために名前を付けなければなりません』
「名前無いのですね」
『人の言語での名前は無いですね…表現が難しいと申しますか…』
父親は頬を掻いてお恥ずかしながらと微笑み温和な性格を見せつけてきてレインもドラゴンとは思えないと思う。
(神話や語られる強く気高いドラゴンとは思えませんね…なんというか牙の抜けた…いえ、失礼過ぎますね)
考えるのはよそうとレインは子供の名前について意見を出す。
「安直ですがドラコーとかいかがです?」
子供が手を挙げて名前に反応する。
『ドラコー!』
『おや、気に入ったようです』
名付け親となったレインは子供に喜んでもらえて嬉しくなったのかニコニコしながら自分もいつかケインズさま達の子供の乳母をするんだと自覚し頑張ろうと思うのであった。
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ドラゴン一家の元へ戻ったアキトはレインと共に滝壺の見張りに向かう。レインは道中ドラゴンの生態のあれこれや自分のこれからの事をアキトに話す。
「もうじきアキトさまは戦いに向かい…終わったら消えてしまうのですよね?私は元のメイドとしての生活に戻る…」
「そうだな、それが一番だし俺が関わらなければそうなっていたはずだ」
「そんな事はありません!アキトさまのお陰でケインズさまはちゃんと権威を保てました!それにご結婚も…」
帝国での日々を振り返りアキトはそうだなと遠い目をする。もう遠い過去のような気がしてならない。
「アキトさま、私に子供が出来るまで残っていただけるのですか?」
「それが神の願いなら…」
あくまでも神の責としてアキトは答える。
「勝てないなぁ…そんなにアキトさまの奥様方は美しいのですか?」
「美しさか…レインも肩を並べられるほど美人だ。嫉妬深いというのかな?ちょっと恐い」
「こ、恐い…?」
表現の仕方にレインは思わずギョッとするが危険なのはアキトなのだと気付いて同情する。
「すみません私のワガママの為に…」
「定めってやつさ、俺がもう少しモテない振る舞いしてれば良かっただけだ」
愛されないように振る舞い続けて世界を救っていれば誰の迷惑にもならないし嫁達に怒られる事も無かったとアキトは語る。
「英雄色を好む…でいいんじゃないですか?」
「英雄なんかにはなるつもりは無いんだがな…名を残すつもりもない。何せこんなの代理戦争みたいなもんだ」
アキトは魔族についてもう一度この世界の外の存在だと説明する。そんなモノを外から来た自分が排除して共に消える。世界はただ正常に戻るだけだとアキトは言い放つ。
それは違うと言いたげな目線をレインは送るがアキトは何も違いは無いと口にして異論は認めないと笑う。
「レイン、次教会の加護がこの拠点と平野の拠点に掛けられたら俺は決戦に向かう。まぁちゃんと一回帰ってきて世話になったケインズにも別れを告げてから世界を去るつもりだが」
「ズルいです…何もかも、一方的に決めて…」
自分は嘘つきで狡い男だからとアキトは鼻で笑ってレインにかたるのであった。
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それから暫くして、教会の関係者が新たな拠点に加護を掛けるためにやってくる。
皆は大喜びして聖女を迎えるが心中穏やかではないレイン。
(ついに来てしまった…まだアキトさまとの子供も確定してないのに…)
焦りつつも皆と同じ様に聖女を讃える素振りはする。
声の大きいマックス達がまず平野からと手厚く招待する姿を見て一日伸びたと少しだけホッとする。
ドラゴン一家が遠巻きからアキトと共に聖女を眺めて感想を呟く。
『聖女とは如何様な魔力を備えているかと期待したが…只の人なのだな』
「祀り上げられて教会のシンボルとして働く、それが役目の肩書きってやつだ」
『至極矮小だな…』
母ドラゴンは聖女の姿に冷たい目をするがアキトは人にとっては違うと答える。
「小さいから…尊いからこそ出来る役割りなんだ、無駄な物はない人の智慧と言うべきか?」
父親は理解を示しドラコーに言い聞かせるように語る。
『力の誇示だけではままならぬ、その為の智慧、生きるために見出す道か…』
本当は生きるためにだけでなく全てを利用する狡猾さとも言えるがアキトは言わないでおこうと閉口し平野組が聖女をありがたがっているのを静かに見守っているのだった。
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翌日、聖女がアキトの前にやってくる。
「お久しぶりです。加護を掛けに来ました」
アキトは代表として聖女によろしくと頼む。
「ああ、これでレインのヤツが虫怖い嫌だと喚かなくて済む」
「ひ、酷い!ちゃんと仕事してたのに!」
イヤイヤ言いつつもしっかり退治はしてましたとレインはアキトに訴える。聖女はクスッと仲良さそうな二人に微笑み拠点の中央で祈りを捧げ始める。
邪悪なモノが拠点に寄り付かないように祝言を挙げて聖水を振り撒く。加護と呼ばれる結界がゆっくりと広がり拠点を包む。
ドラゴン一家は涼しい顔をしてその波動を受け切る。
「はい!無事終わりました!」
聖女はパフォーマンスを終えてニコッと拠点の人々へ笑顔を向けると拍手喝采となりペコペコと頭を下げる。
レインは終わってしまったと正式に村となった拠点を眺めてボケーっとしてしまう。
「終わってしまいました…これでアキトさまは…」
「何だ?心配してるのか?」
旅立ってしまうと不安を吐露するレインにアキトはニヤニヤしてしまう。
「心配はしてません!必ず勝つと信じてます」
「なら待ってろ。すぐに終わらせてくる」
アキトはレインの頭をぐしぐしと撫でて聖女達が村を去るのを待つのであった。




