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空から来たれり

翌日、連れ込み宿で一晩過ごした二人は寝心地の良いベッドや清潔な環境にレインはここに住みたい等と恥ずかしい事を言い出してアキトは頭を抱える。


「連れ込み宿に住みたいはちょっと…頭緩いぞ?」


「では今の環境を変えられるんですか?」


「無くは無いが…お金が…」


ツッコミを受けるとレインはお金を出せば自分達の今の家屋もグレードアップ出来るのではと気付いて早速依頼しましょうと目を輝かせる。しかしそんな予算は残されていないと言われてがっくり肩を落とす。


「そんなぁ…憎し!この館憎し!」


自分達の予算を食ったこの連れ込み宿に怒りの矛先を向けるレイン、それを乾いた笑いで眺めるアキトなのであった。


ーーーーー


二人が宿を出て飯を食べようかと歩き始めると港から悲鳴が聞こえてきてアキトがいち早く動きレインは呆気に取られながらアキトを追い掛ける。


アキトが現場に到着すると現場に居合わせた冒険者とドラゴン三匹が睨み合っていて完全に冒険者側は戦々恐々としていた。


「待て!争うな!」


アキトがハッとして剣を振りかざしている冒険者達を止める。冒険者達は困惑しつつアキトが間に入って手を挙げる。


「俺だ!攻撃するなよ?!」


ドラゴン達はアキトを見て頭を下げて人の姿に変化し子連れの一家になる。

冒険者達は更に困惑しつつアキトとドラゴンの家族が語り合うのを眺めるのであった。


「まさかドラゴンの姿で来るとは…子供は無事孵化したんだな」


『手紙が届き人の姿で向かうには時間が掛かるからな』


武人気質な母親が答えてアキトは納得するように頷く。


「確かにそうだが…無理させて済まなかった」


冒険者達は未だに警戒を続けて掲げた武器の下げるタイミングを失っているようで追いついたレインの指示で武器を収め始める。

騒ぎを聞き付けてタロスが現れてアキトと謎の家族の会話を見て止めに入る。


「アキト、何の騒ぎだ?!彼等は?」


「あー、えっと…」


アキトは言葉を濁すが母親がタロスを睨みながら歩み寄る。


『貴方が大将?』


「た、大将…ではない。幹部会という形で…彼もその一人だ」


アキトはタロスから指差し呼ばれてまとめて説明は後ですると混乱させないようにするが冒険者達がタロスへ色々と説明しようとして結局混乱を生む。


「タロス!コイツらドラゴンなんスよ!」


「人間に化けてるんです!」


情報の洪水にタロスはイライラした様子で冒険者達の解散を指示する。


「お前ら黙れ!全員持ち場に戻れ!」


混乱している冒険者達だったがタロスの喝を受けて仕方なく解散する。


『トトさま、おなかすいた』


子供が父親の服の裾を引っ張るのを見てアキトがタロスに飯について尋ねる。


「飯食ったか?彼等を連れて一緒に話そう」


「分かった。構わない」


ドラゴンの家族を連れて食堂へ移動する。


ーーーーー


タロスは聞いていたドラゴンという事をアキトに事実確認する。


「間違いない、彼等はドラゴンだ」


頼んだ食事を器用に食べる姿からは野蛮なドラゴンとは思えないとタロスは目を丸くするが部下達の発言と合わせて信じるしかなくレインはとある事実に気付く。


「アキトさま、もしかして討伐したはずのドラゴンなのですか…?」


「…ドラゴン退治の話は嘘だったのか」


タロスも乗っかりアキトに冷たい目を向ける。

アキトは誤魔化すことなく当時の話をする。


「最初は討伐するつもりだったのだが…夫婦で卵まであってな…情が湧いて…」


父親がバクバクご飯を食べる子供の頭を撫でて感謝してくる。


『彼には救われた、お陰様で子供も元気に育って…』


穏やかな父親と武人気質な母親、わんぱくな息子といった家族でアキトもホッとして歓迎するとにこやかに迎えるがタロスは頭を抱える。


「勝手に決めるなよ?ドラゴンだぞ?!モンスターなんだぞ!?」


「こうやって交流も出来る。そこに種族の垣根はあれど生物として違いは無い」


「違うわ!脅威だろうが!」


アキトとタロスは意見が分かれるがレインは家族を眺めてアキトに賛同する。


「こう見るとヒトとして生きる事も可能なんですよね…?」


『この姿なら食も減らすことは可能で大変助かっている』


文化を知る事で生活が楽になったと語りタロスは子供の食事に対する満面の笑みを見て(ほだ)される。


「人類の脅威のはずなのに…毒気が抜ける…」


「あの…アキトさま?ドラゴンの皆さんをどうして…?」


呼び付けた理由を聞きたそうにするレイン、タロスもそうだなとアキトを下目遣いで睨む。


「山へ飛ぶ、その足になって欲しい」


不遜な物言いじゃないかと二人からは驚かれるがドラゴンは成る程と唸りつつ料理に舌鼓(したつづみ)を鳴らし問題無いと受け入れる。


『彼には負かされているし恩もある。助力が必要なら惜しむ理由はないな』


「ドラゴンを負かした…それは事実なのか」


タロスは眉唾物の話に目を丸くし討伐寸前までは行っていた事実を知る。レインもそれなら真実と同義ではないかと安心する。


『お陰で生活には困らない金も手に入った』


「…お金?…おい、アキト?まさかとは思うが…」


討伐の報酬を受け取り横流しした事実を知られてアキトは誤魔化し笑いする。


「実際ドラゴンの被害は無くなった訳だし?姿も今日(こんにち)まで見られていない!事件は解決した訳だ!」


「虚偽の討伐報告をした上でその金をモンスターに分け与えたというのか!?」


「人間的な生活するには金が必要だったんだよ!仕方ねぇだろ!」


何をするにも金!というのはこの拠点でも変わらないだろと訴えるアキトに連れ込み宿建設費用をアキト達に出させたタロスは苦々しい顔をする。


「湯浴みもお金取りますものね!」


レインも乗っかりタロスは認めざるおえないと金の大事さについては頷くがしかしと続ける。


「虚偽の報告と知られると厄介だぞ?大金を盗んだ悪党として居場所を失うだろう。冒険者も廃業だな…」


「ああ、丁度いい。密かに魔王を倒し悪党として名を残し消える。誰にも知られる事はない」


「アキトさま…それは…」


救世すれば消える。伝記にも何にも名前を残す事は(はばか)られる存在になるのはアキトにとって丁度良かった。正しい事とは言えないがレインはアキトの覚悟を聞いて寂しそうな目を向ける。

タロスは何が何やらと困惑していた。


「キミは一体…俺個人としてはキミを一部尊敬している。だからこそそうなって欲しくはない」


「じゃあもうちょっと秘密にして彼等を受け入れて欲しい。俺の準備が出来次第魔王に挑む」


準備とはとタロスは難しい顔をする。


「この港では彼等の目撃者も多い、悪いが受け入れる事は出来ない。アキト、キミの所で扱ってくれ」


森の拠点で生活させる事を認めると伝えアキトも助かると感謝するのであった。


ーーーーー


森の拠点にて空きの小屋を使ってくれとアキトはドラゴン一家を案内し新規の開拓民として受け入れる。

その日はいつもの梟との取り引き日だが牛鬼を掴まれるのを忘れていたアキトは今になって思い出して急ぎ用意しようとするが梟が早めに現れてしまう。


『ホーゥ、今日は納品は無いようだな…珍しい』


「客人が来ていて(もてな)すのに時間を要してしまった。数分待ってくれれば取りに行く」


『客人とな?我々より重要な?』


少し威圧的な態度の梟だったが姿を見せたドラゴンの母の人間態にギョッとして身を細くする。


『ホ?!その魔力は…まさかドラゴン族?!何故!?』


『盟友の願いを聞き入れるために来た』


『盟…友?まさかこの男か!』


梟は激しく(まばた)きしアキトを見つめる。


『厄介なモノを連れ込んだな?縄張りを奪いに来たか!』


『コチラから争うつもりはない。この拠点で暫く生活するだけだ』


『…信用しろと?』


疑いの眼を向ける梟に対し余裕の表情の母ドラゴン、力の差は歴然であるらしく梟は羽をバタバタと羽ばたかせる。


『この森は我々の土地、渡しはせんぞ!』


「落ち着いてくれ、俺は彼等の手を借りて山を取りに行く。その為の暫くのここでの生活だ」


『山を?…ホホゥ、なら好きにすれば良い』


アキトの言葉にホッとしたように梟は鳴いて今日の取り引きは無しだと去るのであった。

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