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待ち人現れず

アキトは予想外の出費を外で待っているレインにどう説明するかと頭を悩ませるが答えが出る前に向こうから声を掛けてくる。


「アキトさま、何かありましたか?」


「あー、出費がー、ある」


「出費…?」


連れ込み宿の件をアキトは言葉を濁しながら説明するとレインは顔を真赤にして恥ずかしそうに小声で話す。


「その…私…うるさかったですか?」


アキトは答えづらそうに「あー」と誤魔化しつつ別の説明をする。


「開拓民もしてることだ、気にするな」


「でも出費って…つまり…そういう事ですよね?」


そういう事なんだが今は誤魔化すしかないとアキトは取り敢えず協力しようということになるのであった。


ーーーーー


後日、次の船が到着した際、アキトは開拓民の中にお目当ての人物が居ないか確認するが今回は到着しておらず手紙の返事も来ていなかった。

まだ気が早かったかとアキトは残念そうに頬を掻いて建設中の連れ込み宿の様子を確認する。


石造りで窓もしっかりしていて外には音が漏れそうにない設計でちゃんと予定通りの内容になっていて感心する。


(なーんだ、作ろうと思えば石造りのも作れるんじゃないか!…いっそ拠点の内容グレードアップしようかな…)


金さえ出さば強化出来るなら自分の小屋もやりたいなと思うアキト、しかし今回の出費でレインは湯浴みを減らさねばならないと嘆いていた事から相当な帝国からの支援金の出費だったのだろうと考える。


(俺の軍資金も結構減ってるし我慢するしかないか…ってかこの施設も金取るなら俺らの出費って意味ないよな?俺達出資をしてるしVIP対応してくれるよな?)


結局世の中お金が全てなんだなと冷たい目になるアキトなのであった。


湯浴み屋から出たレインと合流するとレインも同じ疑問を持っていたようで出資者としてそれなりのサービスを受ける権利があるのは当然だと憤慨する。


「ですよね!お金出して作った本人にまで支払いを要求するなんて変ですよね!多少の無料で利用出来る回数券みたいなのが欲しいです!」


「か、回数券…」


そういうのでいいのかとアキトは少し笑いそうになってしまい顔を背ける。笑われたとレインはショックを受けつつ笑うなと照れ隠しするようにアキトの胸をポカポカ殴るのであった。


それを少し離れた位置から見ていたレックス組、シシーはニヤニヤしながらレックスに話す。


「あれを痴話喧嘩っていうのよ、いい歳した大人がねぇ…」


「シシーも実はいい歳してる」


耳長の宿命とも言える長寿をアリスからイジられてシシーは耳の先まで真赤にしながら人間換算で訴える。


「人間換算なら十八くらいよ!」


ミラベルがボソッと尋ねる。


「へぇ、じゃあ実際は?」


「に、二百…ってアンタも耳長じゃないの?!」


「ハーフエルフだから二十代だよ」


カルチャーショックを受けるシシーはフラッと立ち眩みするように「そんなバカな」と狼狽(うろた)える。


「え?ミラベルって僕より歳上だったの!?」


十代前半な小柄体格のミラベルを見てレックスは驚くがミラベルは自前の長耳を弄って面倒臭そうにもう一度「ハーフだからね」と答える。


「ハーフだと人間に近い成長だけどやっぱり鈍化するんだよね、ボクはそこまで困ってないけどさ。父さんが人間だからね…」


家庭環境が複雑なミラベルは苦笑いして恥ずかしそうに髪を弄る。

シシーは一人だけ年齢が突出していて未だにショックを隠しきれていない。


「私だけ…いえ、心は華の十代だから!」


騒いでいるのを聞きつけたアキトが大笑いしながら近付いてシシーを茶化す。


「人の事もうおっさんって言えないな、婆さんや」


(うるさ)ーい!おっさんはおっさんよ!あとババアって言うな!」


怒れるシシーを無視してアキトはレックス達が何故港にいるのか尋ねる。


「お前ら港で何探してんだ?」


「荒野に出掛けるのでキャンプ道具あるかなって…アキトさんみたいに用意してませんでしたから」


「そうか、やろうか?俺は暫く旅には出られないだろうからさ」


アキトは道具袋から自身のキャンプ道具を幾つか取り出す。


「寝袋とかは無いが飯作りには困らないだろうよ」


「助かります!ちょっと道具も見当たらなくて困ってたんですよ」


お下がりのキャンプ道具を受け取ったレックスは嬉しそうに目を輝かせ目的は達成したと去っていく。

レインはお気に入りの道具を渡してしまったアキトを心配する。


「良かったのですか?アレがあれば一人で遠くまで行けたのでしょう?」


「まぁそうだが後輩に託すのも面白いかなって…それに言っただろ?暫くは遠くへ行けない」


拠点の守りに重きを置いて活動する事になっている限りアキトは遠征の許可は降りないだろうと残念そうに呟く。


「冒険はしたいが人を、世界を守るのも仕事だ。(ないがし)ろには出来ないさ」


「救世…ですか。そういえば探し人は?」


「返事を含めてまだ来てなかったよ。さ、俺達も帰るとしようか」


二人は森の拠点の警備の為に帰路につくのであった。


ーーーーー


夕刻から警備の仕事についたアキトとレインの二人は拠点周囲の警戒にあたる。虫は嫌だがやらねばならないとレインは覚悟を決めて仕事に従事する。


「森のモンスターは虫が多くて本当に嫌になります…」


「その割にはイヤイヤ言いながら結構倒しているんだよなぁ」


「だって嫌なんですもの!嫌いなものは悲鳴上げながらでも駆除しますよ!」


秘められたパワーを発揮する理由が語られてアキトは自分の嫌とはちょっと違う勢いなんだなと、幽霊は基本物理的に倒せないから嫌いと物理的に倒せるけど生理的に受け付けないは別なんだなと理解する。


「気になったが虫は全部駄目なのか?」


「えーっとつまり?」


「蝶だとかも虫に分類されるが駄目なのか?」


レインは少し考えた上で確かにと目を丸くする。


「でっかいのは嫌ですがそこら辺を飛ぶチョウチョなら全然平気です!あれですね、嫌悪感を感じるのは全般無理ですね!駆除します」


嫌悪感と言われて芋虫やら蜘蛛やら黒いアレやらをアキトは思い浮かべて成る程と頷く。

すると目の前に大きなカマキリ型のモンスターが現れて二人の眼の前で木をバッサリ切り捨てる動きを披露して威嚇してくる。


「なぁ、カマキリなんてのはどうだ?」


「絶妙なデザインですね…嫌悪感が出るかと言われると…あ、でもデッカいから駆除します!」


キラーマンティスとアキトは命名したそれと対峙する二人、木をも楽々と切り裂く鎌には要注意とアキトが前衛を、レインは後方から精霊によるサポートを行う。

アキトが注意を引いて華麗に鎌を避けつつ木刀で着実にダメージを与えていく。レインはシルフを呼び出しアキトの攻撃している箇所を狙い風の刃で追撃する。


「このまま鎌を落とすぞ!」


カマキリなんて鎌を無くせばただの雑魚とアキトの言葉に反応してかカマキリが口をギチギチと動かしてアキトへ噛みつき攻撃を狙ってくる。


「うわ、キモ!」


口の動きにレインはそう言うとその顔面に風の刃をぶつけてしまいギロッと敵から目を付けられる。


「やっぱりキモいです!虫の口ってなんであんなギチギチ動くんですかね?」


「俺に聞くな!」


割と敵の動きに合わせることに必死なアキトは狙いがレインに変わりそうになり鎌を片方何とか打ち落とす。

悲鳴に似た咆哮のようなものが発せられてレインは冷静に如意棒を手に取りもう片方の鎌の付け根を激しく殴打する。


「血も出ないしやっぱり根本的に生物としては違うんですね!」


もう片方も落とされて遂に能無しにされたカマキリ。レインは腕を失い悶える敵の顔面を如意棒で貫き撃破する。


「ふぅ、気持ち悪い!やっぱり倒して正解ですね!」


「…虫に対しては無類の強さ発揮するよな」


レインの評価を少し改めるアキトであった。

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