凄く今更
強力な助っ人を呼び込む作戦を取るため港に手紙を預けに来たアキトとレイン、正直卵が孵化しているかは賭けではあったし協力してくれるかも不明だが使える手段は全て使うと破れかぶれな作戦を取る。
(手紙が届くまで十日以上か…もっと早く保険で読んでおけばよかったな…)
郵便だの何だのの速度の限界があるのは理解しているがちょっと時間掛かりすぎと思うアキト。
(高速移動薬で海も山も飛び越せたらなぁ、それか夜の輸送もできるなら所要時間は半分になるのになぁ)
流石に薬でも海は越えられない、そして夜の危険性も下がらない世情に対しても苦々しい思いに顔が歪む。
さっきからずっと険しい表情のアキトにレインが湯浴みに誘う。
「さっぱりして少し気楽に行きましょう!」
「そうだな、さっぱりスッキリしとくか」
誘いにのって湯浴み屋へ訪れる。レインは慣れた様子で金銭を支払いアキトに男性風呂の方を指差す。
「道具一式は貸し出しありますので」
「慣れてるな…」
「女性の殆どは常連客ですよ?知らなかったんですか?」
初耳だし何処から金が出ているんだと呆れ顔になりつつ男性風呂に入る。
帝国の風呂の技術が使われていると言われている通り以前見た大衆浴場の小規模版といった様子で日本の銭湯の様になっていてなんだか懐かしい気持ちになる。
男性客は殆ど居ない時間帯でアキトは悠々自適な気持ちで風呂に浸かる。
天井の隙間からレインが向こうでも湯に浸かり気持ちよさそうな声を漏れてくる。
(あー、そういう所も銭湯なんだな)
今更隙間に気付いてアキトは軽く伸びをする。
(どの道暫くは動けない…悔しいが致し方無い)
自分の無謀な作戦の失敗を反省してアキトは軽く溜め息をつく。
それが向こうにも聞こえたのかレインが話しかけてくる。
「時間帯が時間帯ですのでお互い貸し切りでしょうか?溜め息なんて良くないですよ?」
「俺の無謀に皆を付き合わせて悪かったな…って反省してたんだよ」
「アキトさまが反省…雨でも降りそうですね」
強ち有り得る範囲の予想にアキトは思わず笑ってしまう。
「次の作戦は成功するんですか?」
「いい返事があるなら間違いなく」
「お友達のお返事次第ですか…」
友達かと言われると困る範囲だがアキトは色良い返事を期待するしかなかった。レインは寂しそうに呟き声を漏らす。
「成功したら…サヨナラが近付くんですよね…」
「お前…失敗してホッとしてたのか?」
ギクッとレインは小さく「うっ」と声を出して内心ではアキトとの別れを惜しむ自分がいる事を白状する。
「だってまだ…私本気ですよ?ケインズさまだってアキトさまを手元に残したいってお考えのはず…」
「それは叶わない夢だと…」
「知ってます…アキトさまには帰りたい場所がある…仕方のない事なのですから…」
アキトも深く関わり過ぎたとレインに謝罪する。それは違うとレインは叫ぶ。
「私が選んだんです!切っ掛けはケインズさまの為でしたが、自分がくっつけば手元に残るかと…でもそんな生易しい覚悟じゃ駄目だった…」
「今でも俺が必要か?」
「ここまで来たら意地でも!」
意地と言われてアキトは大笑いしてそろそろちゃんと答えるべきなのかなと時間の余裕から受け入れる覚悟を決めようと思う。しかし笑われたレインは憤慨する。
「笑うことないじゃないですか!」
「ああ、すまん。そんなつもりは無かった。意思を尊重するよ」
「意思を尊重って…そんな凄い意思じゃないのに…」
少し照れているのか誤魔化し笑いが聞こえてくるのだった。
ーーーーー
夕食は港で取ってから拠点に戻る。
毎度の仕事を二人ですることになるのある。
「せっかく気分を盛り上げていこうと思った矢先に夜勤ですか…」
「公私は分けてくれよ?」
「んあー!八つ当たりしちゃいますもんねー!」
監視の目を厳しくしてやるとレインは目を光らせて取水の監視に当たる。アキトは困り顔になりつつも柵の見回りをする。
(遺伝子を残すかぁ…生物としては正しいんだろうが俺は外来種だからなぁ…神鳴が許すのかねぇ?)
異世界の血を残すのは世界的に見て正しい事にはなり得ないとアキトは考えつつ口約束はしちゃったからなと頬を掻く。
旅行鞄を呼び出して聞いてもいいが奥様方から猛反発がありそうで申し訳無く思ってしまう。
「ま、取り敢えず聞くか。どうせ聞いてたんでしょう?神鳴さんや」
旅行鞄が出て来てアキトの前に仁王立ちする様に身体を逸らす。
「アイツラが反対するのは百も承知の上で…ホントの所どうなのよ?外来種は遺伝子残していいのか?」
呆れたように項垂れる鞄、ボディランゲージで何か伝えようとする。
「なになに…?い、ま、さ、ら…今更過ぎるって?確かに既に異世界の子供達がいるのか…」
息子とこれから生まれてくる子の事を思い出し確かにとアキトは大きく溜め息をつく。後は倫理的な問題とアキトの中での蟠り次第といったところ。
(気楽に行きたいよなぁー。遊び人にはなれないけど)
好きな事して生きていきたいと十分遊び人の考えで仕事を進める。
高めの丸太の防柵は特に虫食いなども無く問題なさそうではあったが調査している間にアキトは何者かの気配を感じ取り拠点の外へ足を運ぶ。
「黒コートめ…!」
「っち、魔族か…」
アキトの所在の情報は既に流れているようでアキト狙いの魔族の侵攻であった。魔物を引き連れてやってきた魔族はアキトを見て直ぐ様攻撃に移る。
「やれ!」
「判断の早さは感心するよ」
獣型の魔物が散開し正面と左右から攻めてくる。アキトは敵の動きを見極め迫って来る脚の早い個体から確実に木刀で仕留めていく。
手際良く手駒が蹴散らされて魔族は相手の力量が想像の遥か上を行っていると気付かされて苦し紛れの黒い靄散布で周囲の環境から手駒を増やそうとする。
「させるかよ!」
人形を投げ付けて靄を一点に集めて人形の魔物一体だけを生成させる。一人では勝てないと悟り逃げようとする魔族の脚を投擲で撃ち抜き動きを封じつつ残った魔物を蹴散らす。
「クソッ!」
「掃除は後でするか…大人しく逝け」
木刀で後頭部を打ち抜く直前に敵が誰かへの謝罪をする。
「時間稼ぎにも…申し訳…」
アキトはハッとして拠点を別方向から襲撃されているのかと気付いて急ぎ反転する。
ーーーーー
空からの奇襲で左腕を負傷させられたレインは必死に敵からの攻撃を受け止めていた。
「やるじゃない、黒コート狙いだったけどそれなりに強いのもいるのね」
(黒コート!?コイツ、アキトさまを狙って!)
レインが相対していたのは四天王イン、魔法をバカスカ打ち込んでレインを軽く追い詰める。
(騒ぎを聞き付ければ…)
「この騒ぎに仲間が来ると?甘いわね!他で手一杯だろうよ」
既に各方面から攻撃を開始して包囲されていると言われてレインは苦い顔をする。
「絶望の顔が見たいのに反抗的だね!」
「諦めません!」
「っは!すぐに大人しくさせてやるよ!」
火球を放ちレインの如意棒を弾き飛ばしインは高笑いする。しかしレインの目はまだ死んでおらず精霊に願いを託す。
「まだ死ねない!風よ!」
見えない風の刃に油断していたインは不意を突かれ回避するも頬に切り傷がつく。
「キサマっ!私の顔に傷がっ!もう遊びは終わりだ!」
人差し指に力を込めてレーザーでレインの胸を貫き勝利したと高笑いするがインの額と首と胴に深々とクナイが刺さる。
「ば、バカな…黒コート…!」
ギリギリ間に合わなかったアキトの一撃でインは討ち取られる。
アキトは倒れているレインに走って近付き懐から特性回復薬を取り出し傷に振り掛けつつ口に含み口移しで無理やり飲ませる。咳き込みながら息を吹き返したレインを見てアキトはホッとする。
「ゴホッゴホッ…アキトさま…?」
「間に合ったか…」
手間を取らせるなとアキトは憎まれ口を叩きながらレインをゆっくり休ませ残党処理に向かうのであった。




