登山作戦
いつもの仕事を終えるアキト、道具が届くまで転送陣の監視も続ける。それは絶対に使うなとレインが睨みを効かせてアキトの仕事に付き従い勝手な事をしない様に監視する。
拠点で転送陣小屋を睨みつけるアキトをレインが睨む。
「じーっ…」
「そ、そんな見つめるなよ逃げないって…」
「いーえ!そんな言葉信じられませんからね…何度勝手に向こうに行ってるのか私の知らない出来事もあるでしょう?」
アキトを疑うレインの冷たい目に流石にたじたじになる。絶対に甘やかなさないと言われてアキトは監視をやめさせる事を諦める。
レインはアキトの奔放っぷりを愚痴る。
「アキトさまの奥様も大変でしょうね…勝手に動き回られるなんて」
「…うぐっ」
身に覚えがあり過ぎてアキトの背中にズシッと色々とのし掛かってきて苦い顔をする。
「言い訳出来ねぇ…マジで苦労かけてるからな…帰ったら謝らないとな」
「私には!?いえ、私だけじゃなく拠点の皆にですね」
迷惑を被ってるのは自分だけじゃないと言われてアキトはまたズシッと重荷がのし掛かってくる。
「アキトさま?ちゃんと事前の報告、連絡、相談はして下さいね?」
「はい、します」
素直な返事をするアキトなのだった。
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なんやかんやで港に発注していた道具が届く日、アキトはレインを連れて幹部会に参加する。
「俺は山を登る。危険は承知の上だ」
アキトの所信表明を受けてマックスは勝手にしろと言う態度だがタロスとレックスは無茶するアキトを心配する。
「キミがすぐ勝手な事するのは理解しているが無謀と知ってやるのは止めさせてもらいたいな」
「一人で登るんですか!?確か飛竜がいるんですよね?!」
アキトの報告を事前に受けていた一同はそれぞれの反応をする。レインも隣りにいてアキトを注意する。
「登るのは知ってますが一人は流石に無理ですよね?仲間を募集すべきですね」
「そうだな、レックス…背中を頼めるか?」
レックス達に背中を任せたいと伝える。
「ぼ、僕ですか!?…確かに皆で行けば…」
指名されたレックスの肩を叩き頑張れと応援する他人事なマックス。
「レックス君達なら実績もある。馬鹿を頼んだぞ?」
タロスはそれしかないかとレックスの実力を買っている様子だった。
「わ、分かりました。頑張ります」
こうしていつものメンバーで山を目指すことになるのであった。
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転送陣の先に罠があるかもしれないとアキトが先陣を切る。
荷物のまとめられた袋を背負い転送陣を通ると罠は無いが向こうから監視されていたのか椅子が置いてあって数日使わなかった事で監視が弱まっていた。
(使わなくて正解だったな…交代が来る前にちゃちゃっと移動しよう)
仲間を呼んで全員でそそくさと移動開始する。
山の周囲を警戒しているという事もなくアリスが怪訝な顔をする。
「気付かれてるのに警戒してない?変…」
「飛竜が飛び交ってて登るのを止めてるから…ってのもあるかもな」
アキトの言葉に空を確認して確かに邪魔過ぎる飛竜に登るのはやはり無謀ではという雰囲気になる。
道具はあっても登る最中に攻撃されれば無意味だと誰もが思う中アキトはまだ諦めていない様子であった。
「取り敢えず行けるところまで行く、援護を頼む」
「わ、分かりました」
レックスは頷きアキト達は飛び出しアキトは道具を使い山を登り始める。ピッケルと鎖と杭、ピッケルを引っ掛けて登りながら鎖を杭で山肌に打ち付けてそれを掴み足場にもする。
数メートル登ったところで飛竜がアキトを見付けて獲物が来たと騒ぎレックス達が戦闘態勢に入る。
「来た!来ましたよ!」
飛竜程度ならと悪い足場でアキトも可能な限り木刀で抗う。
(やっぱり思っていた通り…いやそれ以上に厳しいな…)
ここに魔族も交じるなら登ることなど叶わないとアキトは先を急ごうとする。自然とピッケルを握る手に緊張から力が籠もる。
「居たぞ!黒コートだ!」
しかし遂に上空から魔族の声がしてアキトは最悪な展開だと大きく舌打ちをして登ってきた坂を滑るように降りる。
「ッチ、魔族まで!」
「来ましたね…って何かアキトさん知られてません?黒コートって…」
知られているのは四天王のインを逃したことが原因とアキトは苦い顔をする。
今回は仲間が居ることで大分楽に戦えそうだと思ったところで相手もチームを組んで三人一組で地に降り立つ。
「ど、どうします?退きます?」
「倒してから撤退だな…付き合わせちまって悪いな」
「いえ、問題ありません!」
黒い煙と魔物の召喚を同時に行ってきてアキト達も煙に対応し人形を投げつける。
三人だった敵は魔物を呼んだことで一気に数が増してアキト達は乱戦を強いられる。
「ちょっとだけ時間を稼いで一箇所にまとめろ、俺が奥義で決める」
奥義と聞いてレックス達は喉をゴクリと鳴らし了解と散開する。
居合いの構え、アキトの正面に魔物が集められ魔族もその集団に混じりがら空きのアキトに目をつける。
「はっ!黒コートを狙え!」
一番厄介と聞いているアキトを狙うが集まってくれるのはアキトも望むところとほくそ笑みを浮かべ叫ぶ。
「奥義は声に出すもの!だったな!行くぜ『絶空』!」
振り抜いた壮絶な一閃の衝撃波が魔物と魔族を襲う。
近くの魔物はバラバラになり魔族達は吹き飛ばされ山肌にぶつけられる。まだ敵は生きているとアキトは黒コートの内側から投擲物を引き抜いて追撃の一撃で敵の額を撃ち抜き絶命させる。
その一連の自然な流れに協力したレックス達は目を丸くする。
「呆けてる場合じゃない、退くぞ!」
アキトの一声で全員が撤退し転送陣まで向かい撤退を完了させるのだった。
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戻ったアキトは悔しそうな顔をしつつ拠点側の転送陣を破棄する。
「い、いいんですか!?」
レインはアキトの行動に驚き声が上がる。
「物理的に登れないのが確定した…残念だが作戦の見直しが必要だ」
何日も掛けて実行したゴリ押しの作戦が失敗に終わりアキトは溜め息をついて腰を下ろす。
同情の声がレックスたちから掛けられるが今はそっとしておいて欲しいとアキトは天を仰ぐ。
「せっかく心配してやったのに…これだからおっさんは…」
シシーの相変わらずの悪態にレックスは宥めるように声を出す。
「まあまあ、アキトさんも疲れが溜まってるんですよ。レインさん。後よろしくお願いします」
レックス達は一仕事終えた感を出して去っていき残されたレインがアキトの肩を叩く。
「大丈夫ですか?」
「ああ、真っ向勝負が出来ないなら奥の手を探るだけさ…」
また無茶苦茶考えているなとレインはアキトのその様子に呆れるのであった。
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梟との取り引きを終えてアキトは険しい表情をしていた。その表情を見てレインはまた何か思いついたのかと呆れた顔をする。
「今日はもうお休みするのでしょう?…何を考えているのですか…」
「奥の手…思いついてさ…取り敢えず手紙書かないと」
灯りもないのにとレインに言われてアキトは苦笑いして「忘れる前に」とレインに頼み灯りを持ってもらう。
「どこへ手紙を…?」
「ん?秘密」
わざとらしい思わせ振りな言い方にレインはムッとしてアキトの頭に火を近付ける。「アチチ」と驚きアキトは仕方なく答える。
「王国の鉱山都市宛だ」
「まーた何か余計な買い物ですか!?」
「違うって!…知り合いを呼ぶんだよ」
アキトのやらかしの一つ、退治しなかったドラゴンに宛てて協力を要請する。呼べば確実に問題に鳴るだろうが今頼れる足は彼等しかいないとアキトは覚悟を決めるのであった。




