一期一会
キングを討ち倒しアキトはゴブリンの残党に俺の勝ちと拳を掲げてアピールするが伝わる訳もなく仇討ちと言わんばかりにゴブリン達は武器を掲げて襲い掛かる。
「ですよねぇ!こいつら薩摩隼人か!?」
大将の首を取り戻せと言わんばかりの怒涛のなだれ込みをアキトは必死の形相でちぎっては投げちぎっては投げで蹴散らしていく。
「ちょ、ちょっとは手伝ってくれよ!」
レックス達は坑道側から来る少量を相手にして手が離せない様子が見えて「やれやれ」とアキトは指をパチンッと鳴らす。
「ちょっと時短させてもらう。覚悟しろ!不思議な旅行人!」
アキトの前に旅行鞄が出現する。ゴブリン達は何かが変わったと警戒し距離を取りアキトの周囲を囲むように展開する。
旅行鞄がちゃんと出現した事にアキトは「出るんだ」と小声で武装没収された過去から意外そうにしつつ旅行鞄の口を開ける。
「全力は出さない。何が出るかな」
宙に浮いた旅行鞄の口から剣が飛び出す。アキトはしっかりと柄を掴み自身の腰に携えてゆっくり拭く。
「お前か、ちょっと暴れるには狭いが…行くぞ!電雷鳥!」
激しい雷撃を巻き起こしながら蒼銀の巨鳥の姿の精霊がアキトの頭上に出現して剣を振るう前に周囲に展開していたゴブリン達が稲妻で黒焦げにされ一掃される。
逃げ出そうとするゴブリンに電雷鳥から放たれた電撃が感電するように貫いて撃破される。
周囲に獲物が居ないと感じ取った精霊はスゥーっと消えて剣に戻っていき旅行鞄がアキトから武器を吸って没収してアカンベーとするかの様に鞄の口を動かし消えていく。
(神鳴め、武器を手元に残させる気はないか…)
自分に厄介な救世の依頼を出したクセにケチだなとアキトは肩を落としちょっと焦げ臭いキングの死体に近付く。
(討伐した証とか必要か?…あいつらまだ戦ってるか?)
ふとレックス達の方を確認すると一連の戦いを見ていたのか三人共腰を抜かしていた。
アキトはしまったと内心思いつつも三人を呼びつけてゴブリンキングの首級を持ち帰る事を提案する。
周囲の感電死しているゴブリン達をレックスは突っつきながらアキトにあれは何だったのかと尋ねる。
「あの魔法?なんなんですか?!」
魔法使いとしてあれは魔法じゃないとシシーが不機嫌そうにアキトを睨む。
「オッサン、召喚魔術使えるとか聞いてない。それ使ってさっさと倒しちゃってよ?」
「本来は使うつもりの無い技だ。楽を覚えちゃ駄目だぞ?ほら、キングの首でも持ち帰れ」
首を本当に持ち帰るのかと青ざめるレックスとシシーを置いてアリスがナイフを抜いて骨の装飾品を切り取って「コレでいい」と鞄に納める。
「首は持って行ってもドン引きされるし…何か持って帰ってこの現場を確認してもらえばいい」
「よし、帰るか。あ、さっきの技は見なかった事にしといてくれよ?神の御業ってやつで乱用厳禁だからさ」
雑魚の群れ相手に使うのは乱用ではないのかとジト目をされるがアキトはお腹空いたとガッツリ食べたいと笑って言い訳するのであった。
酒場まで戻りアキトは食事を取るその少し先で現地で任務完了の報告をする三人、こんな若者三人が一日で攻略出来るほど簡単だったのかと依頼人の商家の旦那が横柄な態度で報酬の引き下げをごね始める。
「っは!こんな子供が終わらせられる仕事なら鉱夫らは減給だな!楽な任務なら報酬も引き下げだな!」
「そ、そんな!おかしくないですか!?」
レックスが受付嬢に助けを求めるが商家の権力は強いようで難しい顔をしていて素知らぬ顔していたアキトに女子二人が声を掛けてくる。
正直人間関係位は自分達で何とかして欲しかったアキトは商家の旦那にチラッと目を向ける。
(うわ、耳障りだと思ったが昨日揉めた男じゃん…鉱山の管理人でもあるのか…そりゃ街の人間は頭上がらないわな…)
「オッサン、何か言ってやってよ!」
まだ食べてる途中とアキトは食事を指差すがそんなもの御構い無しと商人がアキトに近寄ってくる。
「キサマ昨日の…!まだ街に居たのか!消えろと言ったはずだが?」
「アンタが目の前に現れたんじゃないか。それよりいいのか?依頼内容を終えてから変えちまって?信用は商人の一番大事なところだろ?」
「この街は私の街だ!何をしようが貴様に関係あるか!?」
アキトは呆れたと肩を竦めて忠告する。
「彼らは王都から来た冒険者、ドケチの商人の噂が広まったらこの街も終わりだな」
「脅す気か?」
「いや?俺は無関係、彼らがどう思うかの問題だろ?」
話は終わりとアキトは料理に戻ろうとするが商人は怒り心頭とテーブルをぶっ叩き顔を真っ赤にする。
アキトはスープが溢れるとすかさず持ち上げ怒るのは良くないと飄々とする。
「冒険者の一人や二人…キサマも入れて四人か?そんな小物の言葉なぞ…」
「ん?ゴブリンの巣を潰してダンジョンワームの親玉も倒したのに?小物?冒険者見くびってるねぇ」
報告は聞いてたよと耳たぶを叩いてアキトは余裕の表情をする。
商人は子供が倒した程度の敵と鼻で笑うがアキトも笑い返す。
「その目で現場見てきたら?ああ、地下は酷い事になってるからそこの魔法使いから地図貰った方がいいぞ?」
まるで見てきたかのような口振りと受付嬢は目を丸くするが商人は鉱山の中が惨状と聞いて青ざめる。
「魔法使い!本当か!?」
「ええ、ゴブリンとワームがたくさん穴開けてたわよ?」
「…っ!報酬は全額支払う!地図と引き換えだ!受付ぇ!地図を後で持って来い!」
自分の大事な商材が荒らされたと知って慌てた様子で調査部隊を作らねばと商人はドタバタと酒場を後にする。
三人は報酬がちゃんと支払われるとホッとした様子でアキトに一礼するのだった。
食事を終えたアキトは自分の依頼書をヒラヒラさせながら受付嬢に見せる。
「悪ぃんだけどこのターゲットどこに居るかここら辺の地図とかあったら教えてくれない?」
レベル1の男が持って来るには不釣り合いの任務に何度もアキトと依頼書を見比べてドン引きする。
「えぇ!?これ…えぇ?!」
「あー、うん、もうそういう反応は飽きたから場所だけ教えて?」
アキトの言葉に恐る恐る周辺の地図を持ってきて見せる。
「ドラゴンはこの鉱山から少し離れた山頂付近の洞窟を塒にしているそうです。一説ではゴブリン達はこのドラゴンによって追いやられてこの鉱山に住み着いたなんて言われてまして…」
「なるほど、人とモンスターの生活圏がぶつかったのはそれが原因か…」
アキトは考え事をして小声で「巣穴の先辿れば…」とターゲットに接敵出来たかもしれなかったと後悔を呟く。
受付嬢は本当に行くのかと念押しで確認してきてアキトは勿論と笑って答える。
「既に何人も挑んで…敗北しても帰ってこれたのは数名、それも大怪我で冒険者は引退せざる負えない程、あなたが行っても死にますよ?」
「頭持って帰ってきたら倍額支払い、賭けてみる?」
無茶苦茶な賭けを持ち掛けるが首を横にブンブンと振る受付嬢。
「冗談だよ、重くて持って帰るのは困難そうだしな。さて、今からだと日帰り出来ないし…どうすっかなぁ」
今日は準備して明日行くかと宣言してアキトは武器屋へ向かう事にする。
武器屋につくなり今朝調達した武器をもっと寄越せと店主に迫る。
「旦那ぁ、無茶言いますよ!」
「はっは、全部使っちまったわ。また頼む」
「全部…?使った…?何に!?」
多くは語らず買い取ってなかった分の棒手裏剣と投げナイフを購入して準備は整ったと店を出ると報酬を受け取った三人に出会う。
三人はアキトに深々とお礼をもう一度してシシーは依頼人の酷さに愚痴を漏らす。
「ひっどいオヤジだったわ…助かったわオッサン」
「シシー、オッサンはやめよう?アキトさん。報酬の分け前を…」
レックスが銭袋を開こうとしてアキトは止める。
「あれはお前達の仕事、全部お前らが頑張った事。あ、でも教訓は覚えとけよ?」
親指立てて格好つけるがアリスが袋から格好つけるなと金貨1枚取り出して投げつけてくる。
「まだ一泊するならそれで生活して、私達は先に王都へ帰る」
「ええ!?ドラゴン退治に協力は!?」
レックスが驚くが女子二人は足手まといとレックスの頭を殴って正気にさせる。
三人はアキトの健闘を祈ると別れを告げて馬屋の方へ向かう。
(おう、これからも頑張れよ)
所詮は一期一会の旅とアキトは三人のこれからの健闘と武運を祈るのだった。




