必殺技炸裂
昼食後、食料の配給が減っているのを危惧しアキトは立ち上がる。とは言っても輸送距離というものがあり馬車も台車もまだない。なので移動しながら旅行鞄と対話する。
「神鳴、鞄に死体って入るか?」
道具は入るが死体は入れたこと無いとアキトは事前に確認を取る。勿論答えは『嫌だ』。
ノーとは言わないあたり可能ではあるとアキトは判断し狩りは行うことにする。
荒野まで一気に駆け抜けていき日も高い内に群れている牛鬼を見つける。
「群れか…一匹相手にしたらゾロゾロとやって来そうではあるが…」
何匹も相手したら勿体ないと思いつつピンと頭の上の電球が点く。
(なら誘導すればいいんじゃないか!)
走って来た帰りをコイツら連れて帰る。単純明快の解答にアキトは呼吸を整えて一匹に木刀で襲い掛かる。
わざと声を上げてモンスターからの注目を集める。一斉に顔を上げてアキトを睨みつける牛鬼達、鼻息も荒く角を直ぐ様アキトへ向ける。狙い通りとアキトは逃げ腰を見せて背を向ける。
先頭の一鳴きを合図に走り出すアキトと牛鬼。
(キタキター!このまま平野を…丘ギリギリまで誘導して殲滅してやるぜ!)
ちょっと気分も昂揚しているアキトはテンション高く牛鬼と付かず離れずの距離で逃げる。追う牛鬼、順調に平野を踏み均しながら真っ直ぐ駆け抜けていく。
平野で採取中の冒険者達も何事だと目を丸くしその光景を遠巻きに眺める。
目的地周辺、アキトは一気に反転し木刀一本で奥義を放つ構えを取る。
「行くぞ!久々の奥義見せてやる!」
居合の構えからアキトは集中し一匹目が自分に到達すると同時に大きく、目にも止まらぬ速度で全力で振り抜く。
激しい真空波が敵を襲い後ろから向かってきた全ての敵を衝撃波で薙ぎ払う。
「そうだな、こっちの世界に倣って名付けるとして…空を絶つ…『絶空』!なーんつって…」
広範囲を薙ぎ払ったことで地面にも深々と抉られた跡を残す程の威力で前方は絶命、後ろの方の牛鬼は気絶している。
大量だとアキトは鼻で笑いガッツポーズも小さく決める。
丘の向こうから騒ぎを聞き付けて冒険者と開拓民達がやって来てその光景を目に焼き付けてとんでもない事が起こったと理解する。
アキトも大勢に自分の実力を見せ付けてやってコレで新参者に馬鹿にされないぞと枕を高くして眠れると胸を張るのであった。
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その日は大盛況の夕食となるアキトが狩った牛鬼の絶命したものからガンガン調理が進み牛肉パーティーとなる。
いきなりこんな贅沢できるなんてと喜ぶ既存の面々とゲテモノ食いなのかと呆れる新参者達。しかし食欲を刺激する確かな香りと味に食わず嫌いを改める事となる。
おかわりも許される程に余る食材、アキトは少しやり過ぎたと思いつつ群れを一掃した確かな手腕を買われる事となる。
牛丼大盛りを頼むアキトの隣にタロスが座り話し掛けて来る。
「まさか牛鬼の群れ問題を一人で解決するとはな…」
「まだ群れ全部を消したわけじゃない。グループ一つ狩っただけだ…自分の為に…」
「自分の?」
ただ今の食の状況に不満があったからと小声でタロスに伝えるとタロスは大笑いする。
「君は昼食が減っただけでこの祭りを起こしたと言うのかい?!傑作だな!」
「言葉にするなよ…恥ずかしい…」
自分のやった行動が突飛で他に出来る者がいないことを承知で欲の為にやったなんてルール違反にならないか不安な程であった。神様の手は借りなかったが全力に近い事したのは失敗だったとアキトも頬を掻く。
「君の実力は拠点一なんだ、これからも最高戦力として頑張ってくれ。俺も楽になる」
「他人の楽の為だけには俺は働かないからな?」
アキトはあくまでも食欲の為にやったと答えてまたタロスに笑われるのであった。
タロスが去ったあと納得のいかない様子でアキトに接触してくるマックス。
「お前、ドラゴン退治はでっち上げして逃げたものだと思ったが事実だったようだな」
(でっち上げして逃げたんだよなぁ…)
見逃して文化的な生活をさせようとした事は絶対に他言できないとアキトは冷や汗ダラダラで口を紡ぐ。
「ステーキ今回のはしっかり味を噛み締めさせて貰ったぞ…」
「ああ、うん。美味かったなら良かった」
「美味くない!悔しさと塩辛さが俺の舌を焼いてくれたわ!」
勝手にライバル視されて迷惑だなと思いつつアキトはもっと美味く作れるように頼むとわざと見当違いな返事をしてマックスをあしらおうとする。
「逃げるなよ!?俺だって貴様に美味いものを食わせてギャフンと言わせてやる!」
(やっぱり美味かったんじゃないか…)
ツッコミは諦めて鼻を鳴らして去っていくマックスをアキトは見送るのであった。
次にレインがやって来てアキトが勝手に一人でやった事を怒る。
「なんで私も呼んでくれなかったんですか?!特訓したいのにぃ」
「今回はちょっと俺一人じゃないと無理だったというか…」
レックス達と組手してたから完全に忘れてたとアキトは言えず実際自分一人だから出来た技と考え直して言い訳する。
「うー、アキトさま強すぎるんです!私達にもう少し合わせて下さい!」
「合わせろ…か。素手の方がいいか?」
右手をグーパーしてアピールする。
そういう問題じゃないと思うとレインはアキトの素の力を危惧する。
「特訓の時みたいな調整出来ないのですか?」
「普段はしてる。たまーにタガが外れる」
本当に調整しているのかと微妙な顔をされるがアキトは至って真面目にしてると答える。
「本当にヤバい時は外す」
「今回はヤバい時だったと?」
「…あ、ああ。うん」
分かりやすく目を逸らして返事をする。当然レインにはバレバレで怒られる。
「荒野まで昼から一気に行けるわけ無いんですよ?ウソつかない!」
「はい、ちょっとご飯に文句あって本気出しました」
「よろし…え?ご飯に?」
配給の少なさに文句があったとアキトは語りレインは難しい顔をする。食道楽として通していい話か悩み確かにと納得してもいる。
「ご飯の為なら…確かに本気になっても…?」
揺れるレインの気持ちにアキトはちょっとくらいならな?と説得するのであった。
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牛肉パーティーは夜通し続いて大盛況で終わる。
翌朝、アキトは次は熊でも狩ろうかなと森に行く予定を立てる。今回は水の採取と偽りながらレインを連れて行く。
「ちゃんと必要分は取りましょうね?」
樽一つ分と転がしながら向かう二人。虫が出るから一人は嫌だがアキトとなら行くとレインも久しぶりの森に気合いが入る。
「熊でも何でも今の私なら勝てる!」
「熊は強かったろ?相性悪いし」
「精霊が居ますから!」
そんなに成長したのかとアキトは感心しながら小川まで進む。伐採が進みだいぶ入り口区間は整備されて採取も安全に出来るようになっていた。
「結局水源までは辿り着けてないみたいですね」
「あー、なら今日は目指してみるか?」
巨大蜘蛛のモンスターに邪魔された事からアキト達は諦めてたが他もそうなら自分達が目指すのが最善とレインに提案する。
「虫は嫌ですよ?」
「熊か虫の二択だ」
「えぇ…やだなぁ」
わがまま言わないとアキトは樽に水を入れながら注意する。
ガサガサと草むらが揺れて二人の前に虫型モンスターが現れてレインが目を瞑りながら素早く退治する。
「何も見ていない、私は何も知らない!」
「速いな…すごい成長だ」
「そんなの褒め言葉になりませんよ」
虫なんて居なかったとレインは目を背けて水の溜まった樽に蓋をする。
「…あのー私コレ持ち帰るのでアキトさまは水源探すというのは?」
「まぁ、それでもいいが…成長見せつけてくれるんじゃなかったのか?」
「う、うう…」
レインは葛藤しながら褒めてもらえること認めてもらえることを期待して樽を入り口まで運び自分達は上流を目指すことを渋々承諾するのだった。




