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スタンピード

夜、アキトが見張り番をしていると夜明けでもないのに地平線、視界の遠くに光が見えて地鳴りも聞こえてくる。


(ありゃ…なんだ?明かり?いやそれよりも)


地鳴り、大挙して何かが動くそれにアキトは目を丸くする。

思い出すのは帝国で戦った猪の群れ、しかしそれとは性質が異なる空気感にアキトは軽く身構える。

まだ距離はあるし逸れる可能性もあるが嫌な予感がする時は大概当たると寝たばかりのレインを起こす。


「な、何事ですかぁ…?」


寝惚けているレインだが遠くから響く地鳴りに目を(こす)り目を細める。

ようやっと何かが起きていると気付いてハッとする。


「なんですかアレ?!」


「わからん、調べてこようと思う」


「ええ?!なんか凄く危険な予感がしますが…」


レインの言う通り明かりもあって何かが意図的にこの大移動を引き起こしているとアキトは予測する。それを調査するのも今の仕事だとアキトは立ち上がるが自分一人残されるのは怖いとレインは泣き付く。


「無茶が過ぎます!遠くから見るだけで良いと思います!」


「こっちに来てたらどうする?」


「逃げます!」


仕方ないとアキトは岩の上に登り目を凝らして『何か』を観測してレインに解説する。


「あの明かり…浮遊の仕方…虫か何かだな」


「虫ぃ?!」


「足音の正体は…何のモンスターだ?暗くて良く見えねぇ」


明かりの正体は何となく見えたが他は上から見ても判断付かないとアキトは説明しレインも岩の上に来るように手を伸ばし引き上げる。


「自然現象か分からないがあんな大挙して動かれたら狩りもままならないな」


「昼間虫しか居なかったのはアレが理由でしょうか?」


「かもな、まぁ捕食者が非捕食者を追う…そんな構図に見えるな」


とんだ環境だとアキトは呟きレインは夜風に身を震わせる。


「寒いか?布地取ってくる」


テントの余った生地を取ってきたアキトはレインに包まるように指示して向かってくる足音に備えるように二人共に身を低くする。

足音と一緒に鳴き声も聞こえてきてアキトは耳を澄ませる。


「牛のような鳴き声、平野にいた牛のモンスターと同種か?」


「あー、美味しかったあの?」


「光る虫は火虫(ひむし)と名付けるとして、あの牛には角が鋭く額にもあったな…牛鬼(うしおに)とでも名付けようか」


ネーミングセンスの悪さは相変わらずのアキトにレインが微妙な顔をする。


「オニってなんですか…」


「ジャパニーズオーガとかそういうやつ?」


「ジャパニーズってなんですか…」


ツッコミが追い付かないレインにアキトは説明するのは後だと眼前に迫る大移動(スタンピード)に備えろと注意する。

地鳴りも激しくなり二人がキャンプしていた大岩を前に火虫の群れは急カーブをして牛鬼の大群もそれに合わせて曲がる。

二人はその統率の取れた見事な動きに「おお」と感嘆の声を漏らす。


「訓練された騎兵でもあそこまで綺麗に曲がれるか怪しいですね…」


「これが所謂(いわゆる)一糸乱れぬ動き…ってやつか…」


大移動を見送る二人、何とか自分達は襲われずに済んだがアキトはこの調子だと荒野に拠点を作るのは危険だなと判断するのであった。


ーーーーー


日が昇りまともに休息を取れなかった二人は大きく欠伸(あくび)をして軽く伸びもする。

キャンプ道具は無事でアキトは一安心しながら拠点に報告する為のメモ書きを書き足し帰り支度を始める。

後は来た道を戻るだけと余裕の様子を見せるが気配を感じて手を止める。


「レイン、片付けを頼む。ちょっと周り見てくる」


「えっ!サボりたいだけじゃないですよね?!」


「馬鹿言うな、殺気を感じた。お前も警戒しろ」


殺気と言われてレインにも緊張が走り露骨に岩壁に背を預ける。

アキトはその様子に苦笑いしつつ木刀の位置を調整しながらその場を離れる。


飛竜の羽ばたく音が聞こえ何処かへ飛び去るのが見えてアキトは夜通し見られていたのかと魔族の動向に面食らう。


(何故攻撃しなかった…加護も無いのに…)


アキトはレインの元に戻ると魔族が来ていたとそのまま伝える。

レインは目を丸くして何も無いかアキトを心配する。


「まぁ、逃げるというか去っていってるのが見えただけだ」


「はい?去る…?何ででしょう?」


二人は疑問に思いつつ片付けを続け、来た道を何とか辿りながら荒野を後にするのだった。


ーーーーー


平野を歩く二人、道に慣れた様子で進み昼食前には拠点に戻れると知り朝食は乾燥ベリーで済ませた二人は早くご飯にありつきたいと足早になる。


「アキトさま、ご飯食べたいのは分かりますが少し早足過ぎません?!」


遅れが出たレインがそう言って待ったを掛ける。

アキトは足の勢いを弱めてレインを振り返り疑問を口にする。


「誰も居ないのは…変だと思わないか?」


丘は見えているが朝から人が見当たらないのはおかしいとアキトは語りレインもハッとする。


「何かあった!?」


「かもしれない」


レインも心做(こころな)しか急ぎ足になり二人は焦りの表情で丘を登る。

丘から見えた拠点は外側に被害が出ていて復旧中の様子が見て取れた。


「良かった…全滅してない」


レインはホッとするがアキトは坂を滑り降りるように拠点へ入り自分はタロスをレインにはレックスを探すように伝える。

建物の復旧をしていた冒険者にタロスの居場所を聞いて中央の研究者のいる(とう)へ入る。


研究者と教会関係者と何か話しているタロスの元へ近づいてアキトは帰還の報告と状況の確認を行う。


「君か、もう見てくれたと思うが昨日魔物の群れによる襲撃が発生した」


「魔物…!で魔族は?!」


タロスは首を横に振り研究者は前代未聞の事態だと喚く。


「加護があるのに魔物の襲撃だなんて!」


「モンスターと魔物は違う…という事か」


タロスの言葉に教会サイドのジェレミーは「有り得ない」と叫ぶ。


「聖女の加護は完璧だ!敵意あるものは近付けやしない!」


アキトは理の外からの視点を語る。


「もしも命令された場合はその加護も超えてくるとしたら?現に帝国ではモンスターの群れがスタンピードを起こしただろ?」


悪魔の命令で召喚された猪のモンスターは加護を無視した突進を行っていたとアキトは説明しすっかり自信を失っていたエレインがハッとする。


「命令…そうですか、敵意あるものの命令なら通る…かもしれませんね」


「となると今後も同じ様な襲撃が…?」


研究者の結論に全員沈黙してしまう。

アキトが弱気になっている面々を鼓舞する。


「魔族にだって魔物を用意する期間が必要のはず、すぐには攻めてこれないだろう。それに調査を続けてこちらのテリトリーを広げれば早期発見も可能だ」


ここで折れてはいけないと説得を受けて早く拠点を大きくしようとなる。

アキトは荒野の調査報告を提出してタロスと共に研究棟を出る。


アキトは悔しそうに歯を食いしばり自分が不在の時を狙われた事を恨めしそうに語る。


「俺が不在を狙うとは狡猾だな…」


「はっ、普通じゃないか?魔族の大将は慎重な性格何だろうよ」


敵は慎重と言われてアキトは心当たりがあるのかと不思議そうな顔をする。

タロスはキョトンとしながら自覚が無いのかとアキトの所業を語る。


「対魔族の知恵者で実力者、そんなのと普通渡り合おうなんて思わないだろ?俺だって敵に自分を対策してくる奴が居たら戦闘は敬遠する」


自分が魔族から逃げられる理由にアキトは気付いていなかったようで「あっ」と初歩的な事を気付かされる。

タロスは鼻で笑いアキトの間抜けなところがいつか足を引っ張らなければいいがと心配してくれる。


(間抜け…か、前の世界じゃ散々それで敗北してるし…いや、これは言わないでおこう。兎に角次の襲撃に備えなければ!)


アキトはタロスと別れてレックス達を探すことにするのであった。

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