暗き鉱山を征く
灯りの少ないトロッコレールの敷かれた鉱山の内部を進むアキト、熱気と湿気を肌で感じつつ巣にされているとされる深部へ向かう。
(電気なんてないもんな、松明の灯りが頼もし…くは無いな。暗い)
それでも照らせる範囲は狭く片手が塞がった上で死角が多いと自分の経験と勘を信じて進む。
先に入ったであろうレックス達は松明の用意していたのかと心配しながら進むと魔法で視界を確保しているのかピカーっと輝いていた。
(…魔法か、長い耳したエルフっぽかったし保つか?)
後方保護者面しながらゆっくり後を付けることにする。
レックス達は丁寧に見つけたモンスターを倒し順調に進んでいく。
危惧していた視界も鉱山としてしっかり切り拓かれた内部で不自然に穴が空いていればワームが潜んでいると分かって奇襲もされず楽勝ムードだった。
「思っていたより構造がシンプルで助かるね」
「ふふん、私の光魔法に感謝しなさい!」
「ハハッ大助かりだよ」
アリスも遠くに見えたゴブリンを射殺し額の汗を拭って親指立てる。
空気の悪さだけが問題だとシシーは軽く溜め息をついてダンジョンワームの巣穴に火を放ち堪らず出てきた所をレックスが断ち切る。
「まだ奥があるしトロッコのレールが途切れたところからが本番だ!」
まだまだ先があると長丁場を覚悟しながら進む三人、アキトは討ち漏らしのワームをしばき倒しながら進む。
(確かに坑道は整備されてるな…なんでモンスターなんかに占領されているのやら…)
根本原因を取り除かないと意味は無いと目線を変えて観察する。
巡回とも言えないゴブリンの存在、中腹まで既に虫食いが及んでいる辺りを見てアキトは可能性を考える。
(モンスターの巣になるには荒れ方に対して敵の増え方が異常…となると…巣穴を採掘で掘り当てたな?)
想像以上に奥が危険な事になっているとアキトは予測して前を行くレックス達が巣穴に突入する時にちゃんと合流する事にする。
暫く歩いていると道が上と下に別れているのをレックス達が見つけて相談を始める。
「こういう時は…下…だよね?」
レックスが自信無さげに道を確認する。シシーも光を暗い道に向けて「多分」と肯定する。
アリスはワームの虫食いが上に続いているのを見て二人に上の可能性があると伝える。
懐疑的な目をする二人だったが見兼ねたアキトが三人にようやっと接触する。
「よっ、道に迷ったか?」
シシーが露骨に嫌な顔をする。
「後つけてきて何か用?オッサン」
オッサン呼びは良くないとレックスがアキトに謝る。
「あ、えっと…すみませんアキトさん」
「いや、気にしなくていい。さて、上か下だが…先に上を確認して時間を見て下行くか判断しないか?多分鉱夫が巣穴を掘り当てた可能性があると思うんだ」
推測に上層は古いものじゃないのかとシシーは気にするがワームの数は上の方が多いとアリスから説明を受けて掃討するなら結局上からが楽になると全員で判断する。
「で、オッサンはドラゴン退治に行くんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだが巣穴あるって考えるとこっちも無視できないなってなってな」
余計なお世話と強者の余裕かとやっかみを呟いて前線を張れと文句を言ってアキトは快諾する。
確かに古い坑道のようで梁の木材は古く昔使われていたのかとアキトは感想を持つがそんなノスタルジックな思いを無碍にするようにワームが襲い掛かってきて溜め息混じりに最小限の動きで木刀によりグシャっと頭部を潰す。
「やれやれ、せっかく人が過去に思いを馳せてるっていうのに」
「いや、集中しなさいよ!」
背後からツッコミを受けて微妙な顔になるアキト、真面目にやるかと殺気を放って周囲の敵を刺激する。
背後の三人もアキトの気迫を受けてゴクリと生唾を飲み込み周囲から聞こえてくるカサカサ音に「うわっ」と身震いする。
モグラ叩きするようにワームをボコボコにするアキトの手際の良さに舌を巻く。
「手応えがないな、ボスいないかなぁ」
ちょっと図に乗っているアキトだったが過去のような下手な失態は出来ないと気を抜かない残心もしっかり決めて木刀についたワームの体液を振り払う。
「うーん、こう見ると虫を食う気にはならないな…素材は…甲殻そこまでだし駄目だな」
「なんで評価がなんか変な基準なんですか…サバイバル思考し過ぎです」
「あー、こっち(の世界)に来てからひもじい思いしかしてないから…かな?」
色んな世界を旅した経験から来る癖が抜けないとアキトは苦笑いし勘違いされて不器用な生き方するなよと女子はレックスにあれは悪い大人の見本だと注意する。
「強さに憧れてもああはならないでよ?」
「その日暮らしの悪い大人だよ」
アキトは何か文句あるのかと散々な言われように顔を顰める。元の世界でもよく言われていた扱いに人の癖は簡単には直らないと開き直るのだった。
四人は道中の敵を蹴散らしながら上層の奥まった場所に辿り着く。
特に巣穴を掘り当てたという形跡はないがダンジョンワームの親玉が鎮座しているのが見えてアキトは感嘆の声を漏らす。
「こりゃまたデケェな…」
「キング?クイーン?…多分そういうやつ?」
「ムカデか芋虫のクセに社会性持ってるのか?」
レックスが大物を前に震える手で剣を握り締める。後ろの女子二人はデカい虫に青ざめている。
「デカブツは初めてか?」
「こんなの居るなんて思ってませんでしたよ!」
「掃討作戦ってのは小物から親玉までだ。想定しとけ」
会話と明かりに目を覚ました親玉ワームはギチギチと音を鳴らしながら鎌首をもたげる。
仲間か子供かを蹴散らしてきた侵入者に尋常じゃない殺気を放ち鋭い顎をガチガチと鳴らす。
「人の領域に入っておいていっちょ前に威嚇してきやがる」
アキトは面白がってゲラゲラ笑うが若い三人は後退りするくらい怯えている。
その様子にやっぱり来て良かったとアキトは木刀を引き抜き仲間を鼓舞する。
「よし、訓練の時間だ!俺が正面で攻撃を防ぐ。お前ら側面からアイツを倒せ!」
「え、えぇ?!」
「いいか?お前らが倒すんだ。増援に気をつけろよ」
アキトは意気揚々とボスに向かって松明を掲げて大声を出してアピールしながら走り出す。
三人からは敵の視線が外れて無防備な側面が晒される。
レックスはアキトに言われた通り仲間を鼓舞しながらワームのデカい脇腹を攻める。
「流石に攻撃を開始したら僕らも狙われる。速攻勝負だ!」
当然易々とはやらせないと雑魚が沸いてくるがアリスが矢で仕留めていく。討ち漏らしはシシーが面倒臭そうに火の玉で焼き尽くし道を作る。
正面でアキトが挑発を繰り返しながら致命傷にならない程度に木刀でビシバシと反撃してくれているおかげでレックス達はボスからスルーされ接近に成功する。
「よし!Vスラッシュ!」
「ファイアボルト!」
「五月雨撃ち!」
三人が技名を叫んでいるのを聞いてアキトは「えぇ…」と困惑しながら横目に確認する。
言わなければ敵に気付かれないのにと思いつつ割とダメージは通っているのかワームは悲鳴を上げてのたうち回る。三人はすかさず技名を叫び追撃を入れてボスの胴体が千切れて絶命する。
戦いが終わって一応アキトは確認のツッコミをレックス達に入れる。
「なぁ?!それ言わなきゃ駄目なの!?敵にバレるぞ?」
「何ていうか気合い?が入って威力上がるんですよね。いや、本当に!」
アキトは信じられないと思いつつ今度自分も試してみようかなと考えるが知り合いのゲラゲラ笑う顔が脳裏にチラついてやっぱり止めておく事にするのであった。




