流水の如く
その日の夕刻、帰還した面々のうち平野の探索組が重苦しい空気になっていた。
アキトは魔族の出現かと心配するが違うようで一つの棺に接点の無い男性が入れられていてタロスが仲間の一人だと語る。
「油断してヴォーパルバニーにやられたようだ…」
首切り兎がここにも居るのかとアキトは群れと戦った時を思い出して辟易とした表情をする。
タロスは教会の面々に深々と頭を下げて死出の旅の安寧を祈ってもらい土葬しようとする。
「風土の事分からないし火葬の方がいいんじゃないか?」
アキトの言葉に研究者も多湿になり病気が蔓延する事を危惧し今回は火葬ということになる。
乾燥した気候の帝国の風習と違う事にタロスは死んだ仲間に申し訳無いと謝りながら薪を組んで火葬する。
「下らない事故は無くしたいものだ…」
タロスはボソッと明日は平野側に行くと復讐に燃えるのであった。
その日の夕食も昨日と同じ熊肉、レインは誇らしげに食すが同じのはとちょっと味変したいと愚痴が聞こえてきてアキトも香草等を探すのもありだなと語り平野組の目標が出来るのだった。
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夜、建てられた掘っ立て小屋は教会や研究者、開拓民が使い冒険者達は相変わらずテントと寝袋の生活。
そろそろ小屋が恋しいと方々から文句が出てくる。
アキトは問題ないと言う顔をするがレインはせめて濡れタオルが欲しいなと貼られたテントの天井を見つめ愚痴る。
「冒険って大変ですね…」
「…結構今更だな」
「だって今までは街から街…環境が整っていましたから…」
確かにその通りとアキトは笑い野宿も旅の一環だと今の状況にも慣れろと小声で答える。
「絶対に慣れません!私野生児じゃありませんから!文化的生活を望みます!」
「ま、楽しめる内に楽しめ」
「楽しめません!」
隣のテントから「うるせぇ!」と注意されレインは縮こまって「絶対に」と小声で鋼の意志を付け加えるのであった。
翌朝、仲間もやられ、夜に五月蝿くされたと鬱憤の溜まっているタロスの仲間達からレインは因縁を吹っ掛けられ険悪なムードが漂っていた。
閉じられたコミュニティでそろそろ起こるだろうとアキトはレインがどう動くか静観しようとするがすぐに渦中に引きずり込まれる。
「アキトさまが悪いです」
「俺かよ!」
喧嘩なんてする気のないアキトは怒っている面々に素直に頭を下げてその場を治めようとする。
「俺が夜中に下らない話したせいだ、すまなかった。彼女は許してやってほしい」
謝られた時の掲げた拳の下ろし方を知らないのかヒートアップしそうになる冒険者達にタロスが喝を入れる。
「今は喧嘩している時ではない。宿小屋が建った際にコイツらは最後にする。それぐらいの懲罰でいいだろう?」
アキトも異論無いと頷きようやっとその場が治まる。
朝食を済ませてそれぞれが持ち場に出発する中でレインはアキトに言い難そうに謝罪する。
「ごめんなさい、ちょっと感情的になってました…」
「船旅からずっと、今までと環境が異なってるからな。そろそろだと思ってたよ。謝るのが俺で良かった」
「そろそろ…?」
このように険悪なムードになると分かっていたのかとアキトを不思議そうに見つめる。
当然とアキトはスープを飲み干して笑う。
「生活の違い、周囲との軋轢、進展の遅さから来る焦り、仲間が死んだストレス。爆発するのは近かった。いや、まだ始まったばかりだ。次は渦中に入らないことに注意しろ?」
まだ鬱憤の矛先が向いて喧嘩になる可能性があるとアキトは伝えてレインはあまり目立たないようにと伝える。
「私は注意しろってどういう…アキトさまは良いと?」
「俺は謝れるし懲罰だって受ける覚悟はある。兎に角今は我慢の時だ」
ギスギスした空気なのは今暫く続くと言われてレインは少し元気を無くし肩を落とすのであった。
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今日も森に入る二人、今日こそは水源を確保したいと歩みを進める。
「アキトさま?今日は武器は?」
「横着禁止だとよ」
木刀を見せて苦笑いする。神鳴からはそれで頑張れという無茶振りが続く。
レインは自分が頑張らないとと意気込み両頬を叩いて気合いを入れ直す。
二人が昨日ウルフベアと戦闘した辺りに近寄ると小物の芋虫型モンスターが湧いていて早速レインは「無理!」とアキトに押し付ける。
この程度ならとアキトは素早く潰す。
「お前虫苦手なのか?」
「デッカイと気持ち悪くないですか?流石に…」
「気持ち悪いなら尚更討伐したくなるだろ?」
近付くのも嫌だとレインは首を大きく横に振る。
女子らしい一面を見せられてアキトは呆気に取られながらそういう事もあるかと納得する。
「だからといって逃げ回っても解決しないからな?」
「…アキトさまも幽霊相手に逃げ回りませんよね?」
アキトは痛いところを突かれて咳払いしつつその時はその時だと言い逃れしようとしてレインに言質を取られてしまうのであった。
二人が更に暫く歩くとアキトがハッとして耳を澄ませる。
チョロチョロと小さな小川の流れる音が聞こえたとアキトはレインに嬉しい報告をする。
二人は駆け足気味になりつつアキトの耳を頼りに進み見事清流を見つけるのであった。
二人は喜びハイタッチを交わしレインはハグまでしてきて歓喜する。
「やりましたね!コレで水不足問題にはなりませんね!?」
「いや、まだだ。水の流れが小さい…汲み取りすぎればすぐに枯れるかもしれない。あと生水は駄目だからな?」
すぐには飲めないと言われてレインはガクッと姿勢が崩れる。
何はなくとも煮沸消毒で済むのはありがたいとアキトは流れの元を辿ろうとなる。
「水源を探ろう。採取はいつでも出来る」
「そうですね、遅くならないように気をつけましょう」
二人は目印を立ててから小川に沿って上流へ向かうこととするのであった。
道中、虫型のモンスターが出るがアキトが素早く退治することでレインはホッとする。
懸念されていた熊型は出てこず代わりに道に大きな蜘蛛の巣が張られていた。
「うわ、蜘蛛!無理!デカいの無理!」
「蜘蛛は虫じゃないぞ?」
「何ですかそれ?!虫とか関係無いじゃないですか?!無理ですよ無理!」
レインが騒がしくするので巨大な蜘蛛がギチギチと関節を鳴らしながら降りてきてレインはまた悲鳴を上げる。
「むーりー!」
完全にアキトの存在に甘えている発言にいい加減に武器を持てとアキトも立腹する。
「お前も戦うんだよ馬鹿!」
蜘蛛は糸を尻から発射しアキトの木刀を絡め取ろうとする。
「ッチ、武器を絡め取るとか悪知恵働きやがる!レイン!」
レインは名前を呼ばれ破れかぶれになりながら如意棒を振り回しガンガン蜘蛛を殴り始める。
「ウーワァー!」
そのヤケクソパワーに蜘蛛脚が一本弾け飛ぶ。
自分でやったのにその絵面にまた悲鳴を上げながらガシガシと突きを交えてまた振り回す。
「イーヤー!」
アキトが蜘蛛の糸を何とかしている間に本体をボコボコのボコにするレイン、やれば出来るじゃないかとアキトはグイッと引っ張り蜘蛛を地面に引きずり下ろしひっくり返った蜘蛛をレインは思い切りぶっ叩く。
グシャッと腹を叩き切られ蜘蛛は絶命するが暴走したレインは止まらない。悲鳴を上げながら蜘蛛の巣も如意棒をぶんぶん振り回し除去しつつ蜘蛛の死体にオマケの一発を叩き込みやっと落ち着く。
「うぇー、気持ち悪」
「やれやれ、お前一人で全部やっちまったな…」
「や、やだ…この糸固い…取れない…」
二人は蜘蛛の糸から武器を解放するのに時間を取られて本日の探索は水の発見と言う形で報告することとするのであった。




