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郷愁、北へ

館へ戻り二日、アキトはケインズから指令を受け取る。


「北へ、亜人の国へ行ってもらいたい」


また随分唐突な、とアキトは思いつつも口には出さず理由を尋ねる。


「何かあったんですか?」


「マサが死去し奴隷の解放が行われその内の亜人が帰国し騒動が向こうの耳に入り多少動きがあった。君にはその動きが帝国に不利益になるか確認してきて欲しい」


「あー、成る…程?不利益にしかならないんじゃないッスかね」


アキトは面倒くさそうで抽象的な任務に嫌な予感を覚え気怠そうな反応を示す。ケインズもそれは重々承知の上での任務だと付け加える。


「君も暫く自由が欲しいんじゃないかと思ってね?帝国内は安泰だし。旅をしながら各地で情報収集に(はげ)んで欲しい」


気を使われたのか夫婦水入らずの時間が欲しいのか両方か、所属を無闇に変えずに放浪出来るならアキトも望む所ではあって内心ラッキーだなどと考える。


「という訳でまずは北から、である」


「任務了解。因みに経費は…?」


「まずは金貨二十枚、継続の見込みがあれば更に月二十」


少々少ない気もするがアキトには余裕があると安請け合いする。ケインズは「勿論重要な情報があれば上乗せを期待出来る」と力説しアキトのやる気を上げようとしてくれる。


(北か…防寒着とか足りるかなぁ…あ、いや逆に今が南半球で北が熱帯地域の可能性も十分ありえるか)


環境が気になりアキトは先に情報を求める。


「亜人の国は俺初めてでどういう土地柄なんですか?」


「そうだね、四季折々で美しい土地と聞いている。ただ人柄で言うと先の戦争の事もあり我々に排他的だったりする。対応には気を付けて欲しい」


「排他的か…当然だな。にしても四季折々か、今の季節はどんなです?」


ケインズは壁に掲げられたカレンダーを確認する。


「もう次期双子座(ジェミニ)…春の終わりだな」


「げぇ、暑くなるのかよぉ」


「君はその格好だからね。苦労を掛けるな」


この姿は正装で変える気はないアキトは肩を落としてさっさと任務終わらせようと意気込む。


「それじゃあいつも通り彼女を同行して早速出発してくれたまえ」


「へっ?彼女?」


「レインだよ。まだ護衛には未熟、暫くラーナもこの屋敷に残るしまだ不要だからね。まずは見聞を広めてきてくれ」


アキトは露骨に嫌な顔をして一人旅じゃないのかと落胆する。監視と定期報告を担っていると面倒事をしてくれると言われてアキトも渋々納得する。


「必ず定期的に組合に行って彼女に報告の手紙を出させてくれよ?」


「は、はーい…」


頑張ってくれと激励を受けるが猛アピールしてきた彼女と行動を共にして精神的に保つのかと不安になるのであった。


ーーーーー


屋敷を出ると待ってましたとレインが馬車を用意してメイド姿に旅行鞄を手にして立っていた。


「な、なんだぁ?その鞄は…」


「長期任務ですので着替えと道具袋を兼ねてます」


「戦闘時には使えないぞ?」


任務中ずっとコレは持ってませんよと鞄の中からアキトの持つ道具袋と同じ様な物を取り出して見せる。


「乾燥ベリーは嫌ですからね!」


「入れっぱなしにするなら日持ちする食料じゃないと駄目だからな?」


まさか弁当を詰め込む気じゃないだろうなとアキトに言われてレインは冷や汗ダラダラに露骨に否定する。

レインは誤魔化す様にアキトの背中を押して早速出発と拳を掲げて馬車に乗らせる。

アキトは小さく溜め息をついて冒険の心構えというものを馬車の中で説いてやるかと考えるのであった。


ゴトゴトと軽く揺れる馬車の中でアキトとレインはジッと見つめ合う。


「長期だからな?暫く帰れない。だから旅の心構えを教えてやろう」


「は、はい!」


レインは手に汗握る程に緊張している様子を見せる。


「いいか?まず一つ、我慢する事を覚えろ」


「我慢…?」


アキトは旅が常に予定通り行くわけじゃないと力説し忍耐、我慢、自制の三点を覚えろと話しレインはお腹を軽く撫でて難しい顔をする。

食欲、食道楽がどれだけ我慢出来るのかと自分に問う。結論は…


「ムーリー!ご飯は食べたい!」


「だろうな、となると…」


食い気味にレインは身を乗り出しアキトの答えを待つ。


「注意力を高めて計画に抜けがないか、イレギュラーの可能性を常に留意すること」


「いつもやってます!」


そらなら大丈夫と得意気な顔をするが予想の斜め上が来たらパニックになるだろうと指摘されてレインは「理不尽!」と反応する。


「その理不尽を想定することが出来なきゃ我慢するのを覚えろ」


「わ、分かりました…少しだけなら我慢します…でも!そんな状況にならない様にします!」


任務の監視役はそれぐらいがいいとアキトは頷いて外の風景を堪能し始めてレインは「それだけですか?」と気の抜けた顔をする。


「それだけ。あー、いや、楽しめ。旅を楽しむ心」


「楽しむ…心」


「お前は食道楽だから大丈夫だろう。つまりホームシック、郷愁(きょうしゅう)になるなって事」


レインは成る程と納得し同じく風景に目をやる。


「初めての土地ってのは不思議と自分の故郷と比較し故郷を思い出す。住み慣れた穏やかな日々、暖かい幼少期、そういうのが記憶にあると旅してると心が痛くなるのさ」


「自分に言い聞かせてます?」


「かもなー。ちょっと寝る」


アキトは寝心地悪そうに横になる。レインはその口振りからアキトの故郷がどのようなものなのだろうかと初めて考えさせられるのであった。


ーーーーー


夜になる前に中継拠点の宿場町へ到着する。

アキトは欠伸(あくび)混じりに身体を起こす。ジッと見つめているレインを不気味に思いつつ馬車を降りて今日の宿を取るぞと呼び付ける。


「何で俺を見てた…?」


「いえ、郷愁と言われてアキトさまの故郷はどの様な場所だったのかと思いまして…」


「ああ、そんな事か。俺には故郷が二つあってな…いや、長くなる先に飯と宿だ」


ご飯と聞いてレインも空腹を思い出していっぱい食べると宣言してアキトはレインと二人だと金貨二十なんてすぐに無くなりそうだと肩を落とし節制の二文字が早速頭の中に浮かぶのであった。


流石宿場町、人が多く行き交うということもあって飯は美味いとレインは舌鼓(したつづみ)を鳴らしアキトは質素な食事をしているのを見て一品差し出してくる。


「美味しいですよ!アキトさまもいっぱい食べましょうよ!」


「そ、そうだな…」


並べられた皿の数によく胃に入るなと感心しつつパンとスープと貰ったチキンを食べる。

レインは食欲が満たされた事でさっきの会話を思い出しアキトの故郷について尋ねる。

アキトは少し面倒臭そうに地球を何かに例えながら答える。


「そうだな、俺の故郷の一つは文明が進んで建物は城並みにどこもかしこも巨大で高層化、機械化ってのが進み馬車じゃなく鉄の塊が走ってる」


「よ、よく分からないですね…」


「そうだろうな。もう一個の方は分かりやすいぞ?」


分かりやすいと聞いてレインは目を輝かせる。


「六つの国からなる魔法の公的機関があってな。永世中立の学院として世界の均衡を担っている…」


「永世中立…魔法の学院…」


反芻しながらレインは「絵物語のよう」と口にしてアキトは大笑いする。


「絵物語!言い得て妙!その通り!…俺はその世界で教育者として働いてたんだよ」


「嘘じゃなくて?」


「マサとのやり取り聞いてなかったか?俺はこの世界の外から来たんだよ。そう、君の言う絵物語の登場人物さ」


レインは見惚れるような目をする。


「どこかの王子様?」


「ただのオッサン!あ、いや…ちょっと強いオッサン…じゃなくて!教育者!」


夢が無いとレインから呆れられながらツッコまれるのであった。

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