敵を追え
反転して冒険者達が必死に猪達を抑え込んでいる所であり詰まっている後ろのモンスターからズバズバと声を上げて薙ぎ払いながら討伐していく。
「あ、アキトさまが帰ってきた」
精霊は使っていないようで冒険者の地力で何とかなったとアキトは知り捨てた物じゃないなと察する。
冒険者達は一人で何処かへ行っていたアキトを責めるが次の現場があるとアキトは「ここはもう大丈夫」と宣言して薬の効果が残っている内に他の地点を目指す。
残されたレインは大きく溜め息をつき冒険者達は警戒を続けるとアキトに言うのであった。
タロスのチームが防衛している地点、既に同じ様に猪相手に応戦しているようでアキトが敵の集団の土手っ腹に特攻し敵の動きが乱される。
何が起こったと困惑する冒険者集団に目もくれずアキトは遠くに見えないがモンスターの召喚をする悪魔にターゲットを絞る。
また何処かへ飛んでいく何者かを目視したのは指揮を取っていたタロスのみで目を丸くして「とんだ食わせ物だ」と親指を噛む。
アキトは先の悪魔に似た存在を探し道を直進し何かが迫って来たと慌てて逃げ出した敵を捕捉する。
木刀を構え猛追するアキトに逃げられないと悟った女性型の悪魔は反転し黒い雷撃を放つ。
「炎の次は雷か!」
「何!?炎だと!?貴様サーロンをどうした!」
どうやら先の悪魔はサーロンと言う名前だったらしい。
「名前を聞く前に倒しちまったよ!」
「ッ!?貴様ァ!」
雷撃を何度も放ちアキトを牽制するがそんな速度を上回っているアキトは軽いステップ感覚で回避し背後に回り込み足を打ち抜く。
膝から崩れ落ちる敵は何が起こったのかと激痛に顔を歪めながら倒れアキトに背中を踏みつけられる。
「誰の指示か語ってもらおうか?」
「クソがっ!殺せ!」
死を望む相手にアキトは頬を掻く。
「おいおい、喋ってからでもいいだろ?」
「誰が話すか!」
「さっきのと同じで忠誠心だけは凄いな」
アキトはトドメを指す素振りをして名前を尋ねる。
「死ぬ前に名前を聞いてやる。サーロンには悪かったって言っとけ」
「イス…、覚えとけ!貴様は必ず同胞が殺す!」
「やってみろ。楽しみにしてる」
首をへし折る一撃を放ちイスと名乗った敵を消滅させる。
まだレックス達の守備地点が残っているが薬の効能はもうほとんど残ってないとアキトは一息ついてタロス達が守っていた場所へ戻る事にする。
一仕事終えたのはタロス達も同じで負傷者も少なそうで何とか抑えきっていた。
タロスの部下は戻って来たアキトに突っ掛かる。
「お前どこから来た?!そっちは敵が来た方角だろ!」
「待て!ソイツとは俺が話す」
タロスが仲間を制止してアキトの前に立つ。
「邪魔してくれたな?」
「アレ使うと急に止まれないんだ」
服の土埃を叩いてアキトはヘラヘラと嘘で返答する。
「何故道の奥に行った?」
「召喚士が居るんだよ。俺の担当したルートには居たからここにも居るかなってな?実際居た」
「倒したのか?」
アキトは力強く頷いて「消えちまったが」と信用の無い言葉で説明するが納得してもらえるわけもなくタロスには呆れられて一度全員で街へ戻る事にすると仲間達に告げる。
アキトは雑談感覚でタロスのチームも意外とやるもんだと小馬鹿にしてたと謝る。
「もっと苦戦してると思ったよ」
「…俺の指揮スキルがあって初めて強くなれる奴等だ。だから俺はリーダーとして彼奴等を纏めてやっている」
「ただのならず者って馬鹿にしてたよ。謝る」
タロスは「ならず者だよ」と鼻で笑う。
「アンタの実力からしたら殆どが半端モンだろうが…クセぇやつだ」
「ハハッ、臭うか?悪いな…秘密が多いんだ」
アキトはわざとらしく鼻を鳴らして臭いを嗅いでおちゃらけるがタロスは無言で去ってしまい肩を竦めるのであった。
ーーーーー
三つ目のルートもレックス達が無事に抑え込んだようでアキト達に合流する。
「アキトさん!凄いですね精霊武器!」
「だろ?レンタルだから返却してもらうがな?」
「ええー!」
残念そうにするレックス達から武器を回収、疲れた顔のレインからも槍を回収し旅行鞄に戻す。
しかしシシーはニヤニヤして秘訣得たりと言いたげにアキトの脇を肘で突付く。
「どんなものか調べさせて貰っちゃったもんねー。おっさん敗れたり!」
「あちゃー、調べられちゃったかぁ…」
「な、何よそのわざとらしい反応!まるで私達にヒント与えたとかそんなつもり!?」
アキトはそんな他意は無かったがそれもまた道の一つと嬉しそうに頷く。
精霊を使う人が産まれて道が出来れば俺も楽出来ると考えていた。
和気藹々としているレックス達の保護者面しつつレインから一人で何かしてた件を追及される。
「何で一人で突っ走るんですかねぇ…」
「俺じゃないと追い付けなかったからな。因みに二体倒した」
「何を?」
アキトは猪の召喚士が居たことをポロッと語りそれを二体倒した事を伝えるとレックス達は唖然として自分達は倒してないと叫ぶ。
「まぁ追い付けないし見つけられない位置に居たしで仕方ない。次あったら倒す」
ズルいやつだとシシー達女子組から散々怒られるアキトなのであった。
ーーーーー
冒険者組合でチーム事でスズメの涙程の報酬を受け取ってレックス達と別れて外へ出ると兵隊達が誰かお偉方を出迎えているのが目に入る。
「マサ様!わざわざ御足労ありがとうございます!」
「次期マイルス当主直々に援軍に馳せ参じた。感謝しろ?フハハ!」
レインがアキトに耳打ちする。
「マサ・ライヒ・マイルス。マイルス卿の孫です。評判は…見ての通りですよ」
(ケインズよりも若くレックス達と同じくらいか?得意気な顔の割に勇士としては二流だな。ちょっとした兵隊を連れて援軍気取りか)
分析しつつアキトは次期当主するのはアイツのオヤジじゃないのかと疑問に思う。
「マイルス卿の御子息は既に他界しております。直系の子孫は彼になります」
「そりゃ御愁傷様だな…」
アキトが興味薄そうに去ろうとするがピタッと足を止める。
「マイルス卿か…」
「気になりますか?」
「まあな」
暗部の件もあり首を突っ込むのは憚られる。そう考えて忘れようとしていたがどうもこのタイミングで出てくる次期当主が気になって仕方が無かった。
しかし明日も作戦があるだろうからとレインは話は宿屋で、となるのであった。
宿屋の部屋に戻り部屋を交代で使い濡れタオルで身体を癒やす。お風呂が恋しいとレインは肩を落とす。
発生源を潰しているアキトは明日にでも帰れるさと気休め程度の話をする。
「追うための薬、皆使えたら証明にもなるんですけれどね…」
「生け捕りにして皆の前で処刑すれば…とかな?」
「何でそれしないんですか!」
早く帰れたし報酬も増えたかもと文句を言うレインにアキトはもう一人いるからとレックス達担当のルートを伝えると一日損したと呆れ返ってしまうレインなのであった。
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翌日、同じ様に集められた冒険者、今回はマサが指揮を取ると鼻に付く得意気な号令が響く。
アキトそれを冷めた目で見つめて疑いを持ち続けてルートについての説明に怪訝な顔をする。
「冒険者タロスと冒険者レックス、二グループに分けよう。後は俺がルート担当する」
昨日目ぼしい活躍した二人を代表させて自分と私兵だけで担当すると中々の豪胆さを見せて解散しアキトはレインを連れてマサへケインズ卿の使者として接触する。
「どうもケインズ卿の私兵として参加しているアキトとケインズの使用人のレインだ」
「何だ?レベル1風情が私兵?!っは!ケインズ卿も堕ちたな」
そうなるよなとアキトは考えつつマサに有力な情報があるとニヤけ顔で参加する旨を打ち明ける。
「…ふん、壁にされても文句言うなよ?」
「はい、勿論」
互いに打算的な事を考えつつ作戦二日目が始まるのだった。




