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旅は道連れ

酒場でそれなりに豪遊するアキト、満腹になるまで食べながら悪くない味に地球で再現するならとちょっとしたメモを(したた)める。


(こんな場末でも美味いものは美味い。丁度いい道楽に土産話になるな)


ご馳走様と食材と料理人に感謝して翌日の旅に思いを馳せながら宿へ向かう。


「お客様の御予算ですと相部屋になってしまいますが…」


(足元見られてるか…ゴネても仕方ない。イビキが静かな相部屋だったらいいな…)


揉め事はよそうとアキトは承諾して銀貨を差し出して指示された部屋に入る。

そこはレックスと相部屋でアキトは苦い顔をしながら自分のベッドに腰掛ける。

レックスは盗賊を蹴散らしたアキトに興味津々な様子で話し掛けてくる。


「あの!おじ…お兄さんって凄く強いんですね!」


「アキトだ。世辞はいらない」


そういえば名乗ってなかったなとアキトは顎を触り生えかけている無精髭を気にする。

若いレックスはどうすればあんなに強く慣れるのかと目を輝かせて何かヒントを欲しがる。


「強さの秘訣か…そうだな。場馴れって言うのか、冷静に判断出来る様に…つまり経験だな」


「経験…アキトさんはどんな戦いを…?レベル上がってませんし…」


「そんな下らない数字の無い世界で戦って来たんだよ」


文字通り世界が違うと言いたいアキトの言葉はちゃんと伝わらずそんな訓練方法があるのかと感心しているレックス。

アキトはそんな若さに自分の子供達と同じ危うさを感じて注意する。


「いいか?焦らずじっくりだ。俺も若い頃は未熟だった。強くなるには時間が掛かるもんだ。焦りは寿命を減らすぞ」


命に関わると説明し中途半端に言葉を生唾と共に飲み込むレックス。時間があれば今にでも素振りを始めそうな雰囲気にアキトは付き合いきれないと横になる。

もう寝ちゃうのですか?とレックスは興奮していたが朝早いんだからとアキトは面倒臭そうに話を終えようとする。


「そんな!是非剣筋を見て欲しいのに!」


「悪いが俺は自己流でね、他人に指導できるような…」


異世界で指導員してたと思い返すがそこまで義理は無いなと背を向けて茶化して寝かし付けてやろうと話を変える。


「お前、他の二人とは相部屋にしないのか?」


「お、女の子と相部屋とか…!不純です!」


「今日会ったばかりの男はいいのか?…危ないから見知った仲で今後は組め。盗みとかあるだろうからな」


善意の忠告になるほどと仲間の顔を思い浮かべて顔を赤らめながらレックスも横になるのであった。


翌朝、朝早くから外の騒がしさでレックスは目を覚ます。

既にアキトは起きていて不機嫌な顔をしていた。


「どうかしたんですか?」


「お前のイビキがうるさいから寝付けなかったんだよ…」


「す、すみません」


アキトは改善案を出そうとするが外の音が激しくなりそれよりも外だなと仲間を起こして待機するように指示して一人外へ向かう。

外では盗賊の一味が他の冒険者達とバチバチにやり合っていてアキトは加勢しようかと木刀に手を当てると宿の主人に止められる。


「盗賊団が町を襲うなんて滅多にねぇ事だ!やめときなさいな!」


「数で負けてるなら黙って見てるって訳にもいかないだろ」


表の冒険者が負ければ町は荒らされ放題、そうなれば旅支度しているこっちの都合も悪くなると外へ出る。

アキトが外へ出た瞬間、頭目掛けて矢が飛んでくる。それを素早く指で挟んで止めながらいい腕してやがると射手を睨みつける。

射手はギョッとしつつもアキトの実力を見て間違いないと叫び一回り体躯のデカいリーダーに向かって叫ぶ。


「ザザ様!出ました!レベル1のバケモン!間違いないッス」


ザザと呼ばれた男は棍棒を振り回し冒険者達を一喝して端へ追いやる。

邪魔はさせまいと盗賊達は戦闘を止めて素早く壁になりアキトとザザの一騎討ちをさせようと立ち回る。


「退け雑魚ども!テメェだな?カワイイ仲間をぶっ殺してくれたのは?」


「俺は殺してな…あ、いや、一人手違いで仕留めたが…アレは向こうが悪い!」


「手違いだと!?気絶させて放置され魔物に喰い荒らされたんだぞ!」


それは俺の責任なのかとアキトは頬を掻いて困惑する。


「大体盗賊稼業してて返り討ちにあって逆恨みってのがお門違いだろ!家族愛が深いならそんなもん辞めて肉体労働でもやってろ!」


説教するようにアキトが言い返すと急にザザは泣き出して死んだ部下の名前を叫び他の盗賊団も泣き始める。

気味の悪い光景だとアキトはドン引きするがザザは急に泣き止み咆哮する。


「最期に虫の息だったガイヤの遺言だ!『レベル1のクソ野郎をぶっ殺してくれ』ってな!」


「やれやれ…逆恨みでよくやる。来いよ、朝メシ前のいい運動になる」


アキトは挑発して木刀を構える。

ザザは怒りで筋肉がはち切れんばかりに身体を膨らませて棍棒を振りかざす。

常人とは違う何かをアキトは感じ取りちょっと暢気していた自分に喝を入れる。


(魔法?!自己強化か!)


素早く振り下ろされた棍棒を避けるとさっきまで立っていた場所にクレーターが出来ていた。

ザザは初撃で決めるつもりだったのか外れたことに大きく舌打ちする。


「チィ、なるほど。レベル1の強さじゃねぇってのは確かみたいだなスキル持ちか」


「スキルぅ?…あー、もう嫌な単語だ。数字の次はソレか…」


また棍棒を振り上げて鼻息を荒くするザザ。避けてもいいが力の差を見せつけてやるとアキトは次は受けてやると来い来いと指を動かす。

もう一度筋肉を膨張させて勢いに任せて振り下ろされた棍棒をアキトは木刀一本で地面に足が軽くめり込みながら受け止める。


「馬鹿な!このオレサマの一撃を!?」


周囲もどよめき立ってざわざわする中でアキトは息を吐きながら棍棒を弾き返しパワー自慢のザザを褒める。


「まあまあだな。折れるかと思ったぜ」


怪物だと怯む盗賊達にザザは喝を入れる。


「まだ負けてねぇ!連打なら耐えられまい!」


「お前の速度ならもう見切った」


振り回される棍棒を掻い潜って背後に回り込み後頭部に一撃叩き込み気絶させる。

流石に敗北を悟った盗賊達は逃げ出そうとするが冒険者達が食い止めて全員アキトの相手はしたくないと降伏するのであった。


「全く人騒がせな連中だ、俺が報告に戻る時を狙えば良かったのに」


生き残った盗賊は全員縛られてこの後悲惨な末路を辿るんだろうなと思いつつアキトは朝食を取ろうと宿に戻る。

他の冒険者達に化け物を見るような怯えと勇者を見るような羨望の眼差しを受けつつ地味な朝食を食べるアキト、相席したレックス達は本当にドラゴンを倒せるかもしれないとおっかなびっくりした様子でアキトの食べるサラダを見る。


「何ていうか地味ですね…」


「金無いからな。スパイスのガツンと効いたカレーが食べたい」


聞き慣れない料理に興味を示されるが金が入ったら教えてやるよとアキトはご馳走様とそそくさと食事を済ませて馬と合流しに行くのであった。


馬小屋前で待っていた馬子に挨拶すると騒動を見ていたのか他の冒険者と同じ様な目を向けられる。


「い、いやぁ凄いですね旦那…この辺りを締めてる賊を壊滅ですよ?」


「ボスが馬鹿だっただけだ。普通仇討ちに町を襲うもんか…」


アキトは軽く溜め息をついて馬子にこの後の道中について確認する。


「夕刻までに鉱山街、お前そのあと荷(おろ)してすぐに王都へ?」


「ま、まぁ商家の旦那宛に報告書貰って一泊して…ですかね」


「一泊か、じゃあ帰りも乗れるな」


日帰り感覚でアキトは指折り数えるが馬子には大きく首を振って否定される。


「山は高いですから夕刻から登り始めて翌日戻るなんて無理ですよ!」


「そうか、じゃあ宿代と飯代と…クソッ路銀が足りねえ」


ザザ達から金巻き上げるんだったなと後悔していると騒動に参加していた冒険者の一人がアキトを見つけて声を掛けてくる。


「おう!アンタまだ居たか!ほれ」


恰幅(かっぷく)の良い男は小袋をアキトに投げ渡す。


「本来俺達が請け負ってた盗賊団の討伐の功労者だからな、少し分前渡さねえとな」


じゃらじゃらと金貨と銀貨の混じった中身にアキトはさっきまでの心配事が解決したと安堵して男に感謝しつつ注意をする。


「あー、頭捕まえて安堵してないで奴のアジトはちゃんと潰した方がいいかもな…残党とかいても困るだろ?あとお宝隠してるかもな」


「むむ、確かに。仲間達と相談しておくか。ありがとよ」


去っていく男と入れ替わりでレックス達が合流してきていよいよ出発だとアキトはホクホク顔で馬車に乗り込むのであった。

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