最終日
この世界での最後の活動日、アキトは再びミクの技のトレーニングに赴く。
今回は阿良川が参加していて二人の面倒を見ることになる。
「昨日の動画でレクチャーは大体終わっているが…阿良川もいるしもう一度基礎トレするか」
アキトの指示のもと素振りをする二人。
暫く様子見していたところ、武器の種別が違う二人だが戦闘などをこなしていた阿良川は余裕そうな顔をしていたがミクは少し疲れた顔になっていた。
「せい!はっ!」
阿良川の威勢の声に比べてミクは少し声が落ちていた。その様子にアキトは休憩を切り出すタイミングをみていた。
「はぁ…はぁ…」
ミクの息切れを見てアキトは一旦ストップをかける。
「よし、休憩しようか。阿良川も」
「あ、はい。わかりました」
アキトが買ってきた水を二人に手渡す。
二人ともゴクゴク飲み干してしまいアキトは苦笑いする。
「素振りだけでいい汗かいてるな。今日は放てそうか?」
アキトはミクに質問するとミクは親指立ててやってみせると笑顔を見せる。
阿良川も思ってたよりも行けそうだと自信に満ちた顔をしていた。
「よし、じゃあやってみるか」
飲み終えたペットボトルを数メートル先に置いて昨日の続きをやらせる。
ミクは刃の先端に魔力を乗せる感覚を掴み、ナイフを振り抜きパシンと正面のペットボトルを倒す。
「よし、倒した!」
「倒すんじゃない、斬るんだ」
ミクはハッとして難しい顔をする。
「もっと鋭く?…難しい…」
阿良川もチャレンジしてみるがペットボトルは微動だにしない。
「あぁ…!思ってたよりも難しい!」
イメージ通り上手く行かず阿良川はイジらしそうに声を漏らす。
二人して上手く行かなかったのでアキトは続けるように言って二人の様子を確認する。
ミクは何度かペットボトルを飛ばす事は出来たが斬ることは出来なかった。
「風を起こしてるだけな気がしてきた」
「それをいかに鋭くするのが技だ」
その頃ようやく阿良川がペットボトルを軽く動かす事が出来てガッツポーズを取る。
「基礎の基が出来ました!よーしがんばるぞー」
二人とも躍起になって頑張り暫く様子見は大丈夫だなとアキトはアキトで刀を素振りするのであった。
ーーーーー
一時間後、アキトは息の上がった二人を見てまた休憩を切り出す。
「魔力の消耗が激しいと頭痛とかしてくるはずだが…どうだ?頭は痛むか?」
二人ともまだ大丈夫と呼吸を整えながら答える。
「そうか、違和感があったら無理せず言ってくれ。また水を出すから」
水で回復するのかと二人は目を丸くするがアキトは気休め程度だと答える。二人は休憩を終えるとすぐにまた振り抜きの練習を再開する。
やる気はあっても結果に中々繋がらず何かヒントを欲しがっている様子でアキトはちょっとだけアドバイスをする事にする。
「魔力制御にこれが正しいというやり方はない。人それぞれだからな。だが鋭くするイメージをするなら刃を実感するほうが早い」
アキトのアドバイスを聞いて二人は青ざめる。
「実感って…どういう…」
「まさか試しに切られろなんていいませんよね!?」
アキトは苦笑いしヒントを与える。
「切り傷を受けた事は?」
あるわけ無いと答えられてアキトは頬を掻く。
「そうだな…自分が切られたことなくても何かを切る時、料理で包丁握って調理する事は?」
それならあると答える二人にアキトは斬るイメージは忘れて実際に斬る事を意識しろと語る。
「実際に斬っている感覚で放ってみろ。空を斬る」
「空を…斬る…」
ミクはエイッと振り抜くとペットボトルが少しだけ切断される。
「あ!空を斬る…何となく分かりました!」
阿良川もイメージではなく実際に斬る事を意識する事でズバッと振り抜いてペットボトルを見事切断する。
「やった!出来た!」
「あー!ぐぬぬ…私だってあと一回やれば…」
スパーンと遠くの物を斬ることが出来るようになって二人は大喜びするのであった。
「あとは落ち着いてそれが常に放てるようになれば上出来だ」
アキトの言葉に二人は威勢よく返事をするのであった。
ーーーーー
そのまま魔窟を攻略し協会に戻り神鳴を呼ぶ。
「神鳴、諸々の引き継ぎだ。携帯と預金通帳とカードだ」
「ぐへへ、儲け儲けー好きに使っていいんでしょ?」
「二人を向こうに連れてく際の連絡とかに使え。金は必要な時にしか使うなよ?」
アキトはふと阿良川を見て何か思いついたようにポンと手を打つ。
「アパート借りてそこをワープポイントにするのも手だな。資金はあるし」
「え!私が借りるんですか?」
「俺はもう居なくなるし細かい事は任せた」
アキトは無責任に全て一任すると笑う。
残ったお金は神鳴と阿良川、そしてミクの三人で相談して好きに使えとアキトは色々と残して行くことにするのであった。
解散後最終日をホテルで過ごし翌朝ホテルの部屋を解約し精算完了し大きく伸びをする。
その後神鳴を呼び出して元の世界へ帰還するのであった。
ーーーーー
魔法学院の地に戻ってきたアキトは上機嫌に子供達の様子を見に行く。
シュメイラの私室の奥に育児部屋になっていてアキトが顔を覗かせるとシュメイラが手を振って挨拶してくる。
「みんな寝ちゃった所だよ」
「産まれて数ヶ月、無事すくすく育って…世話かけっぱなしですまないな」
「アキトくんは使命があるんだからね…仕方ないよ」
いそいそとアキトは子供達の寝顔を満足に見れずに部屋を出る。
「次の世界はいつ行くか決まってるのかい?」
「いや、まだだ。今回は大技使ってないからこれで一旦終わりの可能性もある。神鳴次第かな」
「そうかい、じゃあゆっくりしていくといいよ?焦る必要はないからね」
シュメイラは優しく微笑む。
アキトはその言葉に気持ちが楽になっていたのであった。
学院内を歩き回るアキトは掃除中のトウコとレインに出会う。
「あ、アキトさま。お戻りになってたんですね」
「お疲れ様です。ごゆっくりしていってください」
二人のメイドに見送られながらアキトは食堂を目指す。
食堂ではなぜか地球の知り合いが来ていて食事していた。
「黒鴉、なんでこっちにいるんだよ?社長業はどうした」
神藤財閥のトップの社長が異世界の食堂でパスタを食べていてアキトは目を丸くする。
黒鴉は微妙な顔をして答える。
「仕事は敏腕秘書に任せてるわよ。それよりも浜松と妹がイチャコラしてるからやり辛いったらないわ…」
「あー、それは大変だな…」
アキトは同情するように黒鴉を見て自分もカレーを食べようと厨房へ向かう。
カレーを持ってきて黒鴉の正面に座る。
「アンタはいつ帰ってきたのよ?」
「今朝、一つ仕事を終えてな」
黒鴉は興味なさそうに「そう」と呟いて食事を終えて去っていくのだった。
入れ替わりで神鳴が欠伸をしてやってくる。
「あれ黒鴉…行っちゃった」
「おはよう神鳴」
「あ、帰ってきてた。朝からカレー?すごいわね」
神鳴はジャムサンドを持ってきてパクパク食べ始める。
「で、受け入れるってどういう手順なのよ?」
「午後の時間に二人を迎えてトレーニングと授業、夜には二人を元の世界に戻せばいい」
「あら短いわね」
「向こうの土日は朝からとか相談しながらやっていってくれ」
やっぱり細かい事は任せるとしてアキトは神鳴に呆れられつつ次の世界について話をする。
「次はいつ行く?」
「数日は子育て手伝ってそれからにしようかな」
「あら子育てするなんて父性ってやつ?」
父性と言われると恥ずかしくなるアキトは頬を掻く。
神鳴は困っている世界はまだまだあるからとアキトに次はどんな世界が待っているのかとニヤニヤするのであった。




