大討伐に向けて
訓練も一頻り終えて部屋に戻り濡れタオルで身体を拭いているとケインズが訪ねてくる。
半裸のアキトを見てケインズは目を瞑る。
「失敬、まだ準備出来ていなかったか」
「いえ、大丈夫です。準備…?急用ですか?」
着替えを待っているようでアキトはすぐに着替えを済ませて面と向かう。
ケインズは咳払いをしてから一枚の依頼書を見せる。
「会合の際に話題になったモンスターの大発生、どうやら派遣された帝国兵は都市の守りに回して討伐が遅れているようだ」
「守りに回ったのか…まぁ預かった兵を無闇に死なせたらそれこそ恥…というものか」
アキトはケインズの持つ依頼書が組合の物と気付いて自分も動くべきかと指示を仰ぐ。
同志が攻め滅ぼされるのを黙って見ている訳にもいかないと状況が芳しくないと伝えて動く許可が出される。
「レインも連れて行きなさい」
「それは命令…ですか?」
「彼女にはいずれラーナの護衛を任せるつもりだ…彼女もキミのように強くなってもらいたい」
ケインズの心情が吐露されアキトはそんな意図があるならと納得し連れて行く事にするのであった。
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目指すのはケインズ領から少し離れた領地、サイクス領。
会合の時は名前が出ていなかったがサイクス卿というケインズに次いで若手の領主の土地らしい。
ケインズの意図を知らず不服そうに付いてきたレインはアキトへ愚痴をこぼす。
「私メイドが本業のはずなんですけれど?アキトさまのお世話という訳じゃなさそうですよね?」
「ああ、ケインズ殿はお前に俺並みに強くなってもらいたいそうだ」
「えぇ…」
これから向かうのが戦地なのだと知っていてそこで鍛えられると聞いて困惑しつつも緊張した顔をするレイン。
到着まで時間は有り余っているとアキトは呑気に昼寝を決め込む姿勢になるがレインは緊張を紛らわせたく強さの秘訣を聞こうとする。
「俺言葉で伝えるの苦手なんだよね…論理的に言っても結局は身体が動かないと意味ないし?」
「その、つまり…?」
「軽く身体を動かしてろ」
筋トレのリフティングでもイメトレで素振りのマネでも何でもいいと言われて困惑するレインであったが気休めにはなると説明を受けて短くした如意棒を持ってイメトレを始めるのであった。
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翌日、早い段階で現地入りしたアキト一行は街内が厳戒態勢になっているのを見て険しい表情をする。
端から見てもアキトは「下手くそ」と呟く。
「な、何が下手なのですか?」
「外野から見ても何かヤバいことが起きてますって分かる空気に商人が逃げ出しちまう。近い将来物資不足でパニック起こすぞ?」
アキトの予測を聞いてレインは確かにと露店が既に閉まっているのが見えて手遅れかもと呟く。
「ケインズ殿の判断は正解だったな…組合に顔出すぞ?」
「は、はい!」
二人は移動を開始すると既に各地から集まった冒険者達が交流をしていてタロス達もその内に入っていた。
目敏くアキトを見つけると隣のメイドを口説きにやってくる。
「おや、お嬢さん。こんな男といるより我々と…」
「おい、領主のメイドだぞ?手を出すと死ぬぞ?」
「たかだかメイド一人で熱くなるなよ?…やれやれ」
アキトに追い払われたタロスは渋々引き下がる。
受付嬢に依頼書を見せて参加する意思を示すと相変わらずの反応をされるがいつもの様にそういうのいいからと流す。
「なんだ、キミも参加するのか。期待しているよ」
タロスがアキトに向け杯を掲げて健闘を祈ると嗤って周囲も同じ様に嗤う。
レインは不快そうな顔をするがアキトに気にするなと言われて組合を出る。
「何なんですか?冒険者ってああいうものなんですか?」
「どうだかな、俺はああいう落ちぶれた奴らは同志とは思わないからな」
二人は宿を取って街の外へ出る用意をする。
宿も兵団や外から来た冒険者が多く取っていて中々見つからず予算をオーバーした宿でようやっと見つけた。
「持っていける飯も無い。干しベリーだけだ」
「えぇ…酸っぱくて嫌いです…」
「酸味で唾液も出て水分補給も少なく済ませる優れモノだぞ?」
外の様子を見て夕食時に戻れれば飯にありつけるとアキトはレインを安心させて出発する。
モンスターの大発生と言われているが実際何がどの様にと情報は少なく街道を進み見つけた敵は手当たり次第倒すを繰り返す。
群れからはぐれたゴブリン、原生してたであろうスライムやダイアウルフ。
「なんだかなぁ、話に聞いてたほど脅威じゃないな…」
「そうですね。街道によく出るモンスターって感じです」
走る馬車は襲わなそうなモンスターに多分こういう話じゃないとアキトもレインも気付いて情報を整理しようとなる。
二人が向かい合うと少し離れた場所から何やら激しい地鳴りに似た足音が響いてきて二人はハッとして周囲を見渡す。
黒毛の大猪が大行進してアキト達の方向へ走ってくるのが見える。
「なんだありゃ!?」「なんですかあれ!?」
二人して同じ反応をして街道を直進してくるモンスターの姿に回避か応戦かの二択を迫られる。
「やるぞ!牡丹鍋にしてやる!」
「えぇ!?無理ですよあの数は!」
数十の群れにレインは逃げ腰だが逃げるには判断が遅すぎるとアキトは自分の背中に隠れてろとレインを引っ張り背中に密着させて《不思議な旅行人》を発動する。
偶に見せるアイテムボックスこと旅行鞄から氷雨が飛び出してきて氷の壁を作り出し猪の進行方向を逸らしつつ氷柱で攻撃を始める。
仲間が死んでもお構い無しに突進し続けるモンスター、不安そうに行く末を見守るレインは最後尾が氷の壁に逸らされ街から離れるルートに入るのを見届けて安堵する。
「あれが大発生したモンスター…?」
「かもな…」
踏んづけられグチャグチャになったモンスターの死体に「これは食えないなと」アキトは肩を落とすのであった。
去っていった敵もさる事ながらアキトの発想は理解出来ないとレインは呆れ返ってしまう。
氷雨はアキトに一応冷凍させるかどうか聞いてとりあえず腐敗するよりはマシだとまとめて氷で固める。
「なんて魔力…先程の壁も…今のも…」
氷雨はもっと褒めていいんだぞと胸を張る。
アキトは本気を出せたらとぶつぶつ文句を言いつつまとめた冷凍肉をどう街まで運ぶかレインに尋ねる。
「転がせばいいんじゃないですか?…そもそもなんで運ぶんですか?」
「参考になるかなーって…あと小遣いになるかな?」
疑問形な事を訝しみながらも冷凍肉を持ち帰る二人。
街ではレベル1が意味不明な事していてそれを奇異の目で見る兵士達がアキトを止める。
レインは少し離れて無関係を装う。
氷の塊とその中の変形した猪達を見て兵士達もそれが何か気付いて慌てた様子で上に報告を行う。
「どうなん?俺報酬出る?」
「…知るか、そんなもの街に持ち込むな!」
氷の球を兵士達に奪われてアキトはしょんぼりしながら猪肉パーティするなら呼んでくれ等と暢気な事を兵士達に言うが邪険にされて追い払われるのであった。
宿に戻りアキトは特段気にした様子もなくベッドに横になりレインは不思議そうにする。
「兵士達に手柄を横取りされてませんか?大丈夫なのですか?」
「ん?あー、お前さんあんなもの自分の手柄にするのか?アレを自分がやりましたって素直に報告出来るか?」
「い、言えません…あんな氷私は作れませんから」
アキトは笑ってそういう事と珍妙なやり方にはそれなりの意味があると答えて今日はもう休めと言い明日も面倒な仕事があるんだなとレインに自覚させるのであった。




