帝国の暗部
内情の視察を終えてアキトはレインともう屋敷に戻るかどうか話し合いしていた。
レインはもう少しアキトの強さの秘訣やらを調べたいと考えていた。
「マイルス領は隣です。行って調べるのもアリかと…」
「雇い主からの指示もなしにか?」
勝手に依頼の領分を越えるのは良くないとアキトは勇み足なレインを尤める。
レインもそれは承知の上で話していたとアキトが自分と同じ考えでは無いことに少し肩を落とす。
「気持ちは分かる。情報は新鮮な内に処理するのが一番だ。今回残党が捕らえられた事は向こうも把握するだろうし…だが動くのは早計だな」
アキトは指を立てて出向く必要は無いと笑う。
レインはアキトの余裕そうな顔に疑問を抱き何故かと問う。
「簡単な答えだ。奴らは黒幕を喋った。そして捕まって尋問されてまた喋る…となるとマイルス卿は立場が悪くなる」
「そうですね、卿同士で争えないから第三者を利用して弱体化を謀るなんて許されません」
「となると吐く前に…」
レインは「消される?」と疑問符付きで答えてアキトは正解と指で丸を作る。その知らせをアキトはジッと待つと答えた。
「待つ…本当に消しに来ますかね?」
「ガルドを消したなら情報握ってる部下も消すだろうよ。イチ冒険者の言葉でも不安視するのに当人らの言葉を通すと思うか?」
アキトも内心微妙と思いつつ理路整然と説明した事でレインは待つ事に同意しベッドに寝転ぶ。
「おーい、今日は俺がベッドだろー」
「知りませーん!疲れましたー」
交代でベッドを使おうと決めたがワガママ言うレインにやれやれとアキトは床のマットの上に寝転ぶ。
「良いんですよ?ベッドの上に来ても?」
「嫁達は嫉妬深いから同衾も駄目なんだよ」
「達って複数いるのに嫉妬深いんですね。よく生きてますね?」
矛盾していると言われてその通りだなとアキトは大笑いして自分が矢面に立ってるから成り立つと説明する。
頑丈なのか精力旺盛なのか分かりにくいとレインは呆れる。
「どっちもなんだよ」
「それ…物凄く溜まってるって事ないですか?」
「…聞くな」
ゴロンと背中を向けてアキトは話すのを辞めるのであった。
ーーーーー
翌日、アキトの目論見通り捕らわれた賊の半数が毒殺されるという事態に発展しアキト達は組合に顔を出す事になる。
トールがアキト達と同じ様に事情聴取のような形で呼び出されていた。
「やあ、功労者なのに現場に居なかったキミは問題無いと思うんだけど…」
「功労者?何の話だい?」
しらばっくれるアキトだったがトールは全部知っていると笑って情報スジからの報告でアキトが裏で全部やった事を話したと語り小袋にお金を入れて渡してくる。
「全部手柄にすればいいものを…わざわざ取ってたのか…」
「そうはいかない。嘘はつけないタチなんだよ僕は」
「品行方正か、俺とは真逆だね」
アキトは頭を掻いて事情聴取の順番待ちを見る。割と多いがどいつもこいつも普通で暗殺者という雰囲気は感じられず外部犯の可能性はとトールに尋ねる。
「僕もそうだと思ってる。全員知ってる人だからね…そんな卑劣な事する訳ないんだよ」
「冒険者組合の守護神が言うと説得力あるな」
「守護神だなんて…ハハハそんな凄いものじゃないよ」
皮肉も通じない程に真っ直ぐな男なトールにアキトは呆れてしまう。
レインもここには居ても仕方ないとアキトの服の裾を引っ張る。
アキトは確認したい事が一つだけあると受付嬢の所まで向かい仕事を探すフリをしながら雑談混じりに質問をする。
「大変な事になりましたね…毒殺?以前ケインズ領で報告した賊の任務でも毒殺でボス死んでるんですよね…もしかして死に方同じかも?」
「はぁ…あんな死人の顔色見たら気分も滅入りますよ…今日は午後休もうかな…」
体色の変色、間違いないとアキトは同じ毒が使われたのだと察して欲しい仕事は無かったとその場を後にする。
戻ってきたアキトの顔色を見てレインも状況を察してこれからどうするかと質問を投げ掛けてくる。
「この犯人探しする状態…目撃情報も無いだろう…鮮やかなお手並み、向こうの御膝元に行く前に判断を仰いだ方がいいだろう」
「戻る…と?」
「俺達だけ情報を握っていても仕方ない。ケインズ殿に報告が先だ」
レインは渋々承諾してレイズ領を馬車で後にするのであった。
ーーーーー
ケインズは報告を聞いて予想と違う展開だと少し考え込んでしまう。
「そうかマイルス卿が…私はてっきり…いや、よそう。帝国内で諍いになるなら暗殺組織が動いてもおかしくない二人が無事戻ってきてくれただけでも良しとしよう」
「なんだ、暗殺組織は帝国が動かしているのか…ならマイルス卿と関係は少なそうだな…」
アキトはまた少し想定と違う存在に目を細める。
「暗部というのは表向きは存在しない…だから説明も難しい…アキト、キミなら簡単に回避できるだろうがね」
(暗殺部隊…略して暗部…じゃねぇよな?…いや、話が逸れるな…真面目に回答しよう)
自分だけなら余裕だがあまり人を過信するなとレインを見てアキトは答える。
「マイルス卿への不信感は高まったが喧嘩をするつもりは無い。私達は今件とは正直無関係である」
レインは不服そうに「分かりました」と頷きアキトもそれがいいと国に逆らうつもりはないとお手上げとアピールする。
「レイズ卿をつい疑ってしまった私にも責はあるが…ところでレイン、彼との旅はどうだった?」
ニヤけ顔で質問するケインズ、レインは顔を赤らめて「何も無かった」と否定して残念がられる。
「くっついてくれればアキトを手元に残せるのだがね…」
「打算的過ぎるな…俺は妻帯者、メイド嫁は一人で十分だよ…」
嫉妬深い奥さん達の話をレインが面白がってケインズに語りケインズは爆笑するのであった。
その夜、私室で休むアキトは帝国の暗部について聞かされてアキトは自分が知って良かったのかと微妙な気持ちになりつつ卿はそれを皆知っているのかと取り越し苦労が多いと溜め息をつく。
(ガルドを殺ったのも残党を殺ったのも暗部か…って事は皇帝はマイルス卿が裏に居るの知ってるって事か?喧嘩紛いなことさせて人が悪いぜ…)
暗部を操ってる側の人間は全て知っている事になりアキトは帝国が何を考えているのか分からなくなり世界の危機はどこにあるのかとぼんやり考える。
(魔王とかそういうの居たら楽なんだけどなぁ…)
コンコンと部屋にノックが転がり込みアキトは面倒臭そうに対応しようと扉を開けるとレインがモジモジしながら立っていて嫌な予感を覚えて「要らん世話」と即答で扉を締めようとする。
「ち、違います!そういうんじゃないんです!」
「じゃあ何だ…?」
少しだけ扉を開けてアキトは怪訝そうに聞く。
レインは自分ももっと強くなりたいとアキトに稽古を付けて欲しいと願い出てアキトは少し悩んだ末に答える。
「明日言えばいいじゃん…何で今?」
「気が変わるかもしれないので!」
「変わらないって…いいよ、明日な?」
パタンと扉が閉められてレインはアタックに失敗したと軽く落ち込むのであった。
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翌朝、約束通りアキトはレインに稽古付けをしてやっていた。
「武器の特色を活かせ、まずは間合いに入れさせるな」
アキトの踏み込みを必死に牽制するように如意棒を振る。
棒を振り回すだけではアキトの攻めから身を守れないと短く持って両端を使う技も披露する。
踊りのように回転動作で迎撃されるアキト、手数が多いがアキトはすぐにその動きに慣れて木刀でタイミング合わせガチッと如意棒の芯を捉えられて弾かれレインはバランスを崩す。
「う、流石です…」
「悪くないんだが…槍術の方はどうなんだ?棒だと突きの動作を見せなかったが」
「棒術だと打撃の方が制圧力があると…」
突きも大事だぞと戦略は多岐に渡って極めるべきと説明されて成る程と納得するレインなのであった。




