ハザマとの取引
翌日、早朝からスカイタワーの様子見をしに行くアキト。
警備は相変わらず厳重で一般人は立ち入り禁止にされていた。
(入れないか…ハザマはどうするつもりだ…?)
今はまだ何も出来ないとアキトは引き下がるしか無かった。
協会に戻りスカイタワーについての事を聞く。
「一般開放の予定はございません」
「丸一日報告無しなのは気になる」
「我々には情報は来ていません」
冷たい言葉で突き放される。アキトは食い下がる事無く今日の攻略を予定立てる。
(午前郊外を一本、午後都心部を一本…)
アキトは地図を確認して予約を入れてさっさと攻略してこようとすぐに行動に移す。
郊外に移動したアキトは商業施設の魔窟に入る。午後の事も考えて早めに攻略しにかかる。
(特筆するべき事はないな)
魔窟内の事は基本同じで話を流すことにするのだった。
ーーーーー
郊外で食事をしようとアキトは大衆食堂でカレーを食べていた。
(家庭的で素朴な味、こういうのでいいんだよ!)
もぐもぐと食べ進めているとニュースが流れていてアキトはチラッと目をやる。
スカイタワーの一件が報道されていて丁度草加達が何とか帰還した事が報じられていた。
『今回は我々の算段が甘かった…そもそもこの進度では攻略がいつになるか分からない…ここは完全に未知の魔窟だ。入る度に形が変わる…我々は攻略を諦めないが時間は想定以上に掛かるだろう』
「生きて帰ってきたか…未知の魔窟か…草加達と会話出来ないかな…」
カレーを食べ終えてそんな事を考える。しかし連絡先は知らないので協会に戻る事にするのであった。
「ご馳走さんでした」
ーーーーー
協会に帰還し報告をするアキト、ついでに草加達ハザマの面々に会えるかと質問する。
「我々が個人の連絡先を教えるという事は…」
「ハザマ宛でも?」
「企業への連絡先はご自分でネットで検索してください」
それもそうかとアキトは謝って休憩室に向かいネットで調べてハザマの連絡先を確認する。
調べた結果覚醒者用問い合わせが存在してアキトはちゃっちゃと連絡する。
通話してみると新規メンバー受け付けに回されてしまいアキトは少し考えて取り敢えず行ってみる事にするのだった。
『では本日の夕方六時頃にハザマ大東ビルにてお待ちしております』
アキトは約束を取り付けて午後の予約を入れずにミクに事の経緯を話すことにする。
午後になりミクがやって来てアキトの説明を聞いて目を丸くする。
「ええー!ハザマの覚醒者に応募するぅー?!わ、私は!?」
声が大きいとアキトは口元に指を当てて説明を続ける。
「あくまでも話を聞くためだ。所属するつもりはない」
「ホントですか?私もマネージャーとして行きますからね?!」
ミクは身を乗り出してアキトが裏切らないか心配するのであった。
ーーーーー
約束の時間、ハザマ財閥の所有する大東ビルに向かい受け付けに挨拶する。
「どうもこんばんは。えーっと東雲秋斗さんと進藤美紅さん…ですね」
ミクは名前を呼ばれてちょっと驚くがアキトが気を利かせたのかと考えて何も言わなかった。
「こちらへどうぞ」
案内された先は上階の会議室、アキトはミクと共に席について待っていると優雅な立ち振る舞いの女性が草加を連れてやってくる。
「間 白亜です。よろしくお願いしますね」
温和な言葉のトーンで話す女性の名前を聞いてアキトは驚く。
「ハザマ…お偉いさんか、まさか直接…」
「黒コートさんならば直接お会いしないとと思いまして」
草化にはアキトの偽名を伝えていたからすぐに対応が決まっているとニコニコした顔をしていた。
「話したい事は想像できますわ。スカイタワー…ですよね?」
アキトはその通りと頷く。
ミクも置いていかれまいとウンウンと続く。
「状況は草加が説明しますわ」
草加が席を立ち資料を手に取り説明を始める。
「お嬢様に代わり私が状況の説明をします。現在我々が探索した範囲での階層について話します。我々が潜ったのは約40層まで」
「40!?」
ミクが驚きの声を上げて顰蹙を買う。アキトは想定していたと答えて予想を立てる。
「俺は少なくとも100は想定している…」
「やはりな…アキトさんは我々と同じ意見を持っているようだ」
「駆け抜ければ40は一日で突破できるか…ならば三日あれば…」
三日分の物資が問題だなとアキトは腕組して考える。草加達は次は荷物持ちを用意して挑むと話をしてアキトは頷く。
「あとは実力者を用意するだけだな」
「そこでアナタが来てくれた」
白亜はアキトを指差しこれは天命と喜ぶ。
ミクは待ったを掛ける。白亜は少し怪訝な顔をしてミクに何者なのかと尋ねる。
「アナタは何なのかしら?」
「アキトさんのマネージャー!シドミクチャンネルのオーナーよ!」
「…弱小ね」
何だとぉとミクは身を乗り出すがアキトに止められる。
「彼女はカメラマン兼荷物持ちのプロさ」
「成る程、荷物持ちとして参加させたいと…」
白亜は溜め息混じりにミクを見て元気の良さだけは良いかと呟き草加に確認を取る。
「正直スカイタワーは余り儲けが出ないから外部の協力者を募集するのもやぶさかでない…という状況だから彼らを使うなら許可を出すわ」
「お嬢様、分かりました。お二人もそれで良いですか?」
草加の言葉にアキトは強く頷くがミクは学校があると少し困り顔になる。
「そこは頷いとけ、俺に考えがある」
「考え…?」
白亜も草加もアキトの言葉に首を傾げる。
アキトは指を鳴らして旅行鞄を呼び出して神鳴を呼ぶ。
「神鳴、出てこい」
「呼び方!来てください、でしょう?」
旅行鞄から赤い着物の金髪碧眼の女子が出てきて白亜も草加も目を丸くする。
「あ、神様」
ミクは小さく手を振って挨拶する。神鳴も返事を返しつつ不機嫌そうにアキトを睨む。
「で、何?」
「魔窟に中継地点を作れないか?」
「試してみないと分かんない」
アキトと神鳴のやり取りに草加は待て待てと驚きストップを掛ける。
「一体その子は…!」
「大型新人の神鳴ちゃんよ!シドミクチャンネル見てない?」
「あ…いや…」
見てないのねと神鳴は少し憤慨するが話を進めろとアキトが注意すると腰に手を当てて神鳴は話を進める。
「私は神鳴、時と空間を司る神様よ!」
神様というトンデモ発言に二人は顔を見合わせるが登場の仕方などからちょっとは信じてみると話す。
「信じなくてもいいわよ、力をチョチョイと使えばここを別の場所に繋げるわよ?それと同じ事を魔窟でも使う、そういう事」
「成る程…それが出来れば100層だって休みながら行ける訳だ」
「そういう事。どう?私もチームに組み込む?」
神鳴の力を使わない手はないと全員理解して頷く。白亜は「決まりね」と手を打つ。
「明日の早朝、出発するわ。ハザマとして所属してもらいますよ?」
アキトは頷いてミクに指示を出す。
「分かった。進藤、君はバックアップ要員だ協会にて待機してくれ」
「えーっと…つまり?」
「夕刻のカメラマンとしての同行、物資の用意しといてくれ」
物資の用意と言われて困り顔になるが何とかするとミクは頑張る旨を伝える。
これにて作戦会議は終わり白亜は手を打ってアキト達をもう一度見る。
「ウチにずっと付く気はないかしら?」
「悪いな、俺はスカイタワーの件が気になって来ただけなんだ」
「そう、残念。すごく残念」
原初の覚醒者の黒コートが入れば大きな宣伝になるのにと白亜は呟き口惜しそうにするのであった。
翌日の正確な集合時間を決めて解散する。
アキトはミクとの合流時間も決めてコンビニでおにぎりとパンと飲み物を買ってくるようお金を渡して頼む。
「物資って…そういう…?」
「まぁそういうもんだ」
神鳴はスイーツもと主張するのであった。




