美術館へ行こう
ミクの希望により美術館近くの魔窟に挑む事になったアキト、郊外にある美術館まで電車で移動する事になるのであった。
「美術館ねぇ、嫌な予感がするなぁ」
「大丈夫ですよ。いつも通りですよ」
楽観的なミクの発言に午前中魔窟の拡大に触れたアキトはそういう気持ちになれなかった。
「何か心配事ですか?苦手なものが出るとか?」
「いや、何でもない」
アキトは語るにはまだ早いと考えて話は流す事にするのであった。
暫く考え事で移動時間を潰して目的地まで辿り着く。
「さぁ!魔窟ですよ!行きますよー!」
カメラをセッティングして準備完了とミクは意気込み完璧であるがアキトはこれから待つ迷宮の可能性を考えて気分が落ち込んでいた。
(エッシャーの階段は美術作品…やりかねない…!)
取り敢えずアキトは半分諦めた顔をして魔窟へと歩みを進めるのであった。
ーーーーー
魔窟内部に入ると美術館の内部を模した場所に出る。
グニャグニャしたよくわからない展示物や壁には絵画が飾られていてミクは嬉しそうに激写していく。
「これが魔窟の美術館!撮れ高ぁー!」
「やれやれ、気をつけろ?動くかもしれないぞ」
「ははは、そんなまさか」
本当に展示物が動き出してアキトは慌てて木刀で応戦する。
「ゴーレムか?!進藤!気を付けろ!」
「ぴゃぁ!アキトさん頼みましたよ!?」
カメラはバッチリ構える姿勢にアキトは呆れつつもゴーレムをバッサリ破壊して撃破する。
「こりゃ絵画も動き出すかもな…」
「図書館の魔窟みたいに展示物が敵ですか!?」
「だろうな…厄介だぞ」
アキトは旅行鞄を呼び出してハンマーを手にする。
「トールハンマー!」
ミクはアキトの武器に見覚えがあり名前を呼ぶ。アキトは覚えられてる事に苦笑いする。
二人は急ぎ迷宮を突破しようと魔窟内を駆け巡る。
道中展示物が襲いかかってくるがアキトがハンマーで粉砕し事なきを得る。
「なんていうか罪悪感が凄いな」
「展示物ですからね…過激なテロリズムです」
「悪いのは動く方だから…」
言い訳をしつつアキト達は先へと歩みを進めて次への扉を見つけることが出来た。
「あ!扉ですよ!」
「油断するな、側にゴーレムがいる!」
動き出したゴーレムと絵画にアキトは投げナイフをしつつハンマーを振るう。
「ライトニングパイル!」
絵画は射落とされバチぃっと稲光を放ちゴーレムを粉砕する。アキトは他の場所から集結しつつあるモンスター達を見て急ぎ扉に入るように指示する。
「来てる?来てる!!」
ミクは慌てて扉に手をかけて開く。
「アキトさん!」
「おう!」
アキトも転がり込むように扉に入り一層目を突破するのであった。
次なるフィールドはエッシャーの階段の迷宮。アキトは見た瞬間に勘弁してくれと頭を痛める。
ミクは幻想的な風景にカメラで色んな所を収めていく。
「なん…ですか?この異質な空間は…」
「エッシャーの階段だ。次元重力全てが狂っている…気を付けろ?迷ったら最期だぞ」
アキトはメモ帳を手に取り現在地周辺をメモする。
「役に立ちますか?…それ」
「気休め程度だ」
「うえぇ…気を付けます…」
迷わないようにミクはアキトの背を追う。アキトはメモ書きをしながら階段や扉を幾つか潜る。
見えているものが信用できなくなる空間にミクは混乱しながらも何とか理解しようとする。
「さっきまで居た場所が逆さになってる…」
「そういう空間だ…モンスターは出ないが確実に脳味噌が狂う。長居は禁物だ」
長居したくなくても道に迷えば終わるとミクは震え上がるがアキトは二度目の空間だからとある程度見やすいメモ書きを残して着実に前に進むのであった。
「行き止まりか、少し前に戻るぞ」
「め、目が回ります…」
「…ほら食え」
酸味のあるベリーを手渡しミクはそれを噛み締めて口を窄める。
「気を紛らわせる事は出来るはずだ」
「酸っぱ!何なんですか今の」
「干しベリー」
よく分からないものを食べさせられてミクはアキトに怒りをぶつけるが大分混乱から回復していた。
アキトは少し引き返し別の道を辿ると何時もの次への扉が見つかりミクはガッツポーズする。
「よっしゃぁ!クリアですね!」
「油断するなよ?今日の傾向からまだ油断できない」
アキトの言葉通り次のフィールドは絵画の中のような中世の街並み。建物は油絵のような質感で入れそうに無かった。
「え?ボス部屋じゃないんですか…?」
「分からない。だが確実に魔窟が肥大化している…」
「肥大化…?」
魔窟の変化に取り乱しつつもカメラを回すことはやめないミクは深呼吸して周囲を映す。
「どの画角も絵画になりますね…私達だけが異物の様です」
「いい視点だ、ほら見ろ」
二人と同じ様に浮いた画質のゴブリンが闊歩していて敵なのがはっきりと伝わってくる。
「分かりやすい異物ですね」
アキトはハンマーを回転させながらゴブリン達に近づいてホームランする。
どこまでもゴブリンは飛んでいきこの空間の広さを実感させる。
(広い感じか…早くボスを倒したいのに…)
時間を気にするアキトはミクに駆け足になるように伝える。
「えー、走るんですかー?」
「階段で時間を使ったからな…夕食間に合わなくなるぞ?」
「そんなに時間経ってます?」
魔窟内での時間の感覚は少しズレるとアキトは言い訳して先を急ぐ。立ち塞がるモンスターは雑魚ばかりでアキトの敵では無かった。
「空間が異質なだけで敵はそうでもないですね」
ミクの言葉にアキトは「そうだな」と小さく頷くが警戒している様子だった。
「急にボスが出るかも知れないからな…」
「急に…それは嫌ですね…後ろも気を付けないと」
警戒する二人の前に有難いことに次への扉が出現してホッと一安心する。
扉の先はスポットライトに照らされた巨大な展示物がある円形状のフィールド。どう考えてもボスフロアでありミクは壁際に待機する。
「が、頑張ってください!」
「一層目のデカいバージョンだな。余裕だ」
ハンマーで手をトントンと打って気合いを入れる。
アキトがスポットライトの明かりに触れると同時に展示物が動き出してアキトを攻撃してくる。それに呼応するようにアキトも攻撃を放ち相打ちになる。ダメージは展示物の方が大きくピシッと軽くヒビが入るが瞬時にヒビが修正される。
「回復するのか…」
アキトはかったるそうにハンマーを構えて腕ごとグルグル回転させる。
「ハンマースマッシュ!」
その勢いを使って突進し美術品に一撃与える。ダメージは大きく敵は激しく怯む。
ミクはイケると応援を強める。
「やっちゃえー!」
「吼えろ!ライトニングパイル!」
伝家の宝刀を叩き込み真っ二つに破壊する。ガシャーンと崩壊するゴーレム、アキト達の勝利で美術館の魔窟は終わりを迎えるのであった。
宝箱の中身は大きめの筆と鉱石でありアキトは鉱石が入ってて良かったと安堵する。
「筆なんて武器に出来るやついるのかねぇ…」
「そもそも売れますかね?」
「売れないだろうな…だから鉱石がありがたい」
旅行鞄に取り敢えず放り込み二人は帰還する事にするのであった。
ーーーーー
協会に戻って精算をするアキト、やはり筆は買い取り不可でアキトは仕方ないと旅行鞄に戻す。
ミクは地図を見ながら魔窟が大分減った事に肩を落としていた。
「みんな攻略しちゃって…魔窟減ってますね」
「良いことだ。儲けは減るが平和な世の中になっている証拠だ」
「配信者としては取り合いになるのは困りものですよ」
特に学生だと朝からやられると順番が回ってこないかもしれないと不安そうにする。
「まぁ、まだ暫くは郊外があるからな」
「移動時間がねぇ…」
ネックになる箇所を愚痴るミクなのであった。




