それは不要
(さて、組合はどこかなっと…)
新転地を散策するアキトは冒険者組合を探していたが露店に並ぶアクセサリ等に眼を引かれる。
出来のいい石細工が雪に模られた腕輪、シルバーの何かの紋章入りネックレス、多分偽物の金のイヤリング。
「土産に買っていこうかなぁ」
「お?旦那ぁ、目が利きやすねぇーお安くしときますぜ?」
まだドラゴン退治の報酬は残ってるしと奮発して三つ購入し旅行鞄を呼び出して転送する。
店主は「生きてるアイテムボックス!?」と珍しいものを見たと目を丸くし笑いオマケで大粒なガラス細工のカフスを渡してくる。
「お陰様で食いっぱぐれずに済みますわー」
「そんな売れ行き悪いのか?」
左右を確認して小声で最近不景気でと気まずそうに語り旅人はいいねぇとゲラゲラ笑う店主。
買い物ついでに組合の場所を聞いたアキトはまっすぐ向かいながらカフスはレインにでも渡すかと思うのであった。
組合に入るとすぐさま青年の冒険者が声を掛けてくる。
「冒険者組合へようこそ。僕はトール。何かお困り事かい?」
アキトは苦笑いしつつも冒険者証を見せて依頼人じゃないと答える。
「初心者さんだったか。これは失敬」
「初心者…まぁ初心者か」
自分はまだこの世界に一ヶ月も経っていないと思って頭を下げながら返事する。
トールはニコニコと笑って初心者にオススメと受付嬢でもないのに仕事を紹介し始める。
「農作業の手伝い、建築の資材運びなんて危険も少なくて力も付くよ!頭仕事なら図書の整理なんてのも!」
仕事の内容は確かに安全だが報酬は少なそうだとアキトは皮肉っぽく言うとトールは笑ってまずはその日暮らしで力と信用を身に着けなきゃと答える。
実際アキトは頭の上の数字のせいで他人からは小馬鹿にされているがハッキリと今は「呪い」と答えることにしていてトールは肩を落とす。
「もしかして相当なお節介だったかい?」
「いや、他では貴方みたいに優しい人居なかったからちょっと面食らって…」
優しい人と言われてトールは頭を掻いて恥ずかしがり今は中堅で適当に頑張ってるだけだと語る。
「昔はデッカイモンスター倒すんだなんて夢見てたけどやってるのは便利屋家業。スキルも悪くて現実見る年齢になっちゃって…同期のタロスは帝都でチームリーダーしてるって聞いて余計ね…」
あのタロスのとアキトは呟くと知っているのかと食い付いてくる。
呪いのせいで彼の部下と一悶着あったと答えるとトールは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ガラの悪い冒険者に絡まれただなんて…代表して謝るよ」
「別に貴方が謝る必要は…」
「冒険者崩れの賊が蔓延るのも…きっと僕ら中堅が燻ってるからなんだろうね」
何やら勝手に深刻そうな顔をするトール、アキトは首を傾げながら張り出されている任務を見る。
話していた通り農作業とその警備、賊に壊された家屋の修繕と資材の運搬。
警備は安全なのかとアキトは苦笑いしつつ次に目を移す。
その中で気になるものがあった。『賊の残党討伐』アキトが処理したはずの盗賊団の生き残りが離散し各地で悪事を働いているというのだ。
(一度道を外れたら真っ当な道には戻れないか…当然だったな…逃がしてケインズ卿の領以外で…これは俺がやらないとな)
アキトは依頼書に手を伸ばすがトールにストップを掛けられる。
「待った。それやるのかい?」
「ああ、中途半端は良くないからな」
「人を斬るんだよ?」
優しいというよりも甘ちゃんな奴なんだなとアキトはトールを評価し一言「慣れてる」と冷たい目をして答える。
「道を一度外れてチャンスはやった…それでも悪事をするならばそれはモンスターに変わり無い。そう思うべきだ」
「なんて冷たい目なんだ…」
「一回チャンスあるだけ優しいだろ?今回は裏目になったけどな」
不景気の理由の一つが賊の残党だと知ってアキトは気を引き締めて木刀の位置を直し姿勢を正し依頼書を受付嬢に渡す。
やり取りを見ていたようで受理は素早く済みアキトは目撃情報一覧を受け取る。
トールはアキトの言葉をようやく理解し盗賊団の頭領を倒したのかと遅い反応をする。
「さっきの言葉、まんま受け取るとそうなるけど…」
「そうだ。俺が取った」
トールは信じられないと目を丸くされるがアキトは意に介さず目撃情報のあった場所を回る為に組合を後にする。
自分の覚悟と知識や実力とは一線を画す存在に震えながら引退して農家にでもなろうかとトールは肩を落とすのであった。
ーーーーー
とりあえず日中回れそうな山側の襲撃ポイントを確認する。
被害の内容は強盗と家屋への被害もそれなりで別の依頼にあった修繕作業が執り行なわれていた。
(直ってきている…初日に襲われた感じか…)
建物の様子を眺めて同じところは襲わないだろうと次のポイントを目指す。
(尻尾を掴めば協力してた卿も分かる。必ず見つけ出す!)
アキトは信念を持って次々に情報が古い順に追っていき賊の導線を追う。
しかし導線を辿った所でターゲットと出会す事もなく潜伏先の推論立てをするくらいしか出来ず確証も得られなかった。
宿に戻るとレインが私服に着替えていて土産にカフスを渡すも険しい表情をしていた。
アキトがとりあえず部屋に入るとダブルベッドの一室で死んだ目をする。
「か、覚悟はできてますから」
「何の!?」
部屋をもう一室借りようとアキトは焦る。
「私は問題ありませんから!」
「何で?!俺は妻帯者だから問題あるの!というか主のメイドに手を出すのは普通に非常識だろ」
「…今はアキトさまのメイドですが?」
話が通じないとアキトは頭を抱える。とりあえず今はそういう話は無しと腕でバツを作る。
レインは少し恥ずかしそうに口に手を当ててショックを受ける。
「石鹸も贈った仲なのに!」
「いや、そんな習わし知らんから!」
帝国じゃそういう事を意味するのかと渡した時の赤面の意味を知りアキトは申し訳なさそうに違うからと説得する。
この調子だと親交を深めようとしてカフスまで貰ったのはミスだったなと後悔する。
「あのー、本当に部屋を分けるのですか?予算ありますか?空きの様子は?」
「分かった…俺は床で寝る」
「主を床で寝させるメイドが居ます?!」
旅行鞄がパッと出現してアキトの頭を直撃してしゃんとしろと注意してきて旅行鞄と喧嘩を始める。
「違うから!現地妻作るとかしてねぇから!そういう分別俺はつくから!…いや、見てるだろお前通して皆。嘘つくなよ?」
「あの…何の話ですか…?」
レインも困惑するやり取りにアキトは説明難しそうに言葉を選んで自分の役目を語る。
当然救世の英雄などありえない話に呆れられるが旅行鞄に意思がある事は信じるしかないと微妙な顔をされる。
喧嘩の結果はアキトの勝ち、過ちはしないとハッキリ断る事になる。
「つー訳で、俺が床、ベッド使っていいから」
「はぁ…ケインズさまが聞いたら爆笑しますよ」
「あのクールガイが?そりゃ見ものだな。さ、飯行くぞ?」
アキトに誘われて夕食を共に食べる事にして宿の名物をレインはお腹いっぱい食べる。普段から大食漢なのかとアキトは財布の心配をするのであった。
ーーーーー
翌日、また賊の襲撃があったと報が入りアキトはレインを連れて調査を開始する。
「食の為に人を襲う…許せないですね」
「お前昨日からよく喋るようになったな…」
アキトは感情を見せるようになったレインを不思議そうに見つめる。
色々あって吹っ切れたとレインは洗濯したメイド服姿で答える。
「最初アキトさまを警戒していましたがただの変人と分かり安心しました」
「それは安心…していいのか?」
珍妙な二人の捜査は続き有力な証言を求めるのであった。




