スパイ
盗賊団頭領ガルド、その『頑強』というスキルの前にアキトは木刀で戦うのは少々相性が悪いと微妙な顔をする。
周囲の盗賊達は武器を構えるが攻めかかって来る様子は無くまるで一騎討ちで見せしめを楽しむようなニタニタ顔をしている。
(俺だけトゲ網デスマッチってか?舐められてるな…いやレベル1のおかげか?)
頭の上にあるであろう数値のおかげで敵が舐め腐っていると気付いてアキトは頭を掻く。
「別に本気で全員で攻めてきてもいいんだぜ?」
自分の有利を崩す様な挑発をするがガルドは鼻で笑い手を広げて余裕な態度を見せる。
「テメェから来いよ。俺様が受けた喧嘩だ。全員手出しすんなよ!?」
一発試してみろと木刀を見て嗤う敵にアキトは軽く溜め息を付いて構えを取りグッと足に力を込めて勢い付けて袈裟斬りする様にガルドの左肩に激しく撃ち込む。
「ぐ、ぐぅ!」
流石のスキルでも受けた衝撃から左膝が地面に付いて痛そうに呻く。
素早くアキトは木刀を振り上げて今度は右肩に木刀を振り下ろし両膝付けさせて丁度いい高さになった首を木刀で激しく打ち付ける。
普通なら首が折れるか千切れるかで死ぬだろというレベルで攻撃を放った筈だが耐えきって軽い脳震盪レベルで呻き声を漏らしてなんとか立ち上がろうとする。
「おいおい、嘘だろ…?ドラゴンですら殺せる勢いのつもりだったが?」
「…ふっ、はは!俺様はドラゴンよりタフということだ!」
すっかり調子を取り戻しアザが少し付いている程度で元の構えを取り直す。
アキトは知り合いを思い出して自分はこういうのばっかり相手しているなと呆れ顔になる。
「まあいいか、続けるぞ」
「サービスタイムは終了だ、こちらからも行くぞ!」
ガルドは背中の大剣を引き抜いてアキトを迎え撃つ。
しかし頑丈なだけで技量も速度もアキトに追い付くことが出来ず脇腹、二の腕、脛、顎と次々木刀を打ち付けられまた膝を付いてフィニッシュに頭をまともに食らい遂に地面に倒れ込む。
流石にレベル1の存在じゃないと気付いた盗賊達にも困惑が広がり一人また一人とアキトにジリジリと詰め寄る。
「動いていいのか?まだ終わってねぇぞ?」
「…そ、そうだ俺様は負けてねぇ!負けねぇ!」
ヨロヨロと立ち上がるガルドにアキトは真面目に相手をする覚悟を示す。
攻撃が当たりさえすればとガルドも大剣を持ち上げ鼻息荒く咆哮する。
「うおおお!クソがぁ!」
我武者羅に振り回す大剣、それが近づいて来てアキトは少しずつ後ろへ下がる。しかし背面には盗賊達がナイフや剣を構えてアキトが近付けば反応して攻撃してくる。
攻めるにしても逃げるにしても練度の低い刃の嵐が待っているとアキトは力量の差を見せつけてやると木刀を構える。
「死ねぇ!」
「おいおい、俺は死んだんだろ?」
最初の啖呵をネタにしてアキトは戯けながら木刀で大剣の腹を打ち付けて武器を弾き返しガルドの技を止める。
流石に力負けした事にガルドは目を丸くしてすぐに体勢を立て直そうとするがアキトの股間への振り上げが見事に炸裂してガルドは白眼を向いて倒れる。
頑強のスキルでも流石に耐えきれなかったようで周囲の盗賊達は全員股間を押さえて小さく「痛そう」と呟く。
「お前らまだやるか?相手してやるぜ?」
アキトの余裕のある表情を見て盗賊達は我先にと逃走を始めて解散状態になる。
アキトは縄を用意してガルドを後ろ手に縛り上げて捕える事に成功する。
「これで壊滅ボーナスも出るかね?どう思う?」
痛みが続いているのかガルドは弱気な声で「はいぃ」と泣くように答えてホーンズ街まで連れて行こうとするが闇に紛れていた何者かがガルドの脳天に毒針を打ち込み口封じを行ってしまう。
「なっ!?しまった!」
頑強スキルは身体の表面強化だけ、軽く刺さりさえすれば毒が回れば助からない。
強力な毒だったようでガルドは泡を吹いて倒れそのまま絶命してしまった。
アキトは次いで自分も狙われると身構えるが追撃は無く死んでしまったガルドから協力者の情報を得られないと肩を落とすのであった。
ーーーーー
死体を簡素な棺桶に入れて引き摺って帰るアキト。
流石に組合や街の人間からはドン引きされるが壊滅させたと報告を認めざるおえない雰囲気になる。
「埋葬はこちらでします…うぇ…」
受付嬢も吐き気を訴える程に毒で青ざめている体色であった。
アキトもちょっと失敗したと暗殺の事は言わずに報告を済ませて報酬を受け取る。
「盗賊団の件でケインズ卿に報告したい事があるんだが会えますか?」
「はい?」
組合ではなく直接とアキトが願うと依頼達成者として仕方なさそうに会談の場を設けてくれることに漕ぎ着けた。
翌日、場所は領主の屋敷、アキトにとっては完全に敵地となる。
アキトが屋敷を尋ねるとメイドが現れて館の主の元へと案内される。
ケインズ卿の執務室、これといって目立った装飾品は無いが立派な部屋で蔵書も中々の量で博識そうな片眼鏡のアキトと同年代の男が机に着いていた。
「やぁ、君が盗賊団を討伐してくれた冒険者だね?」
「はい、その際に気になる事がありまして…」
「組合から聞いているよ。報告してくれ」
ケインズは腕を組みギラッとアキトを品定めするように睨む。
アキトは物怖じせずに盗賊団について答える。
「盗賊団の規模からして盗みだけで生計を立てるのは厳しいと思われます。つまり協力者がいたと思われます」
「ほう、どこの誰が?」
「それを聞く前に頭領は暗殺されちゃいましてね…」
背後から一瞬だけ殺気を感じ取りアキトはピクッと反応する。ケインズは一言「なるほど」と呟き調査団を送ると答える。
アキトは続けてビジネス的な話に移る。
「所で…今回の任務3箇所から発注されているようで…」
まるでそっちが本題かの様にアキトは語るのでケインズはにこやかになって喜ぶ。
「その通り、私は…見ての通り他の卿と違って家督を継いでばかりで未だ若輩。力を見せつける事が出来て本当に良かったよ」
親の事を聞こうか迷うが無意味そうなのでアキトは話を続ける。
「私兵として自分を雇いませんか?冒険者より実入り良さそうですし」
「君が?!レベルが…コホン、確か呪いがどうとか組合員が言っていたな…成る程その数値で周りを惑わしているな?」
「そこまで意図してないです」
流石のアキトもこれには困ってますと苦笑いで答えるとケインズは手を叩き笑い立ち上がる。
「同年代の同志か…友と呼べる仲になれるか…期待しているよ?」
ケインズ卿に握手を要求されてそれに笑顔で応じる。
軽く承諾されてアキトはホッとしつつもこれからが正念場と気合いを入れる。
「先程君を案内したメイドを目付けにしようか。レイン?」
「はい」
素早く現れるメイドにアキトは驚き一歩距離を取る。
(忍者か何かか?…いや、殺気の主か…多分だがガルドをヤッた暗殺者か…)
最初から全部自演だと踏んでいるアキトはレインと呼ばれたメイドの振る舞いを注意深く観察し自分の妻の一人を思い出して身震いする。
(寝首掻かれないようにしないと…な)
「ええと、アキトさま。よろしくお願いします」
「あー、うん。よろしく」
呼ばれ方も同じでアキトは狙われるのは嫌な感じだと冷や汗が吹き出る。
ケインズは早速仕事だと今件の報告に共をしろとアキトとレインを呼び付けて館を出て帝都へ向かう事にする。
「あっちこっち行かなくてはならないのは本当に面倒だと思わないか?でも冒険者のアキトに取っては苦でもないかな?」
「いや、馬車は嫌いだな、腰が痛くなる」
「ハハッ質の悪い御者だな。ウチのは優秀だ少し安心したまえ」
ケインズは気さくに馬車を見せる。しっかりとした人が乗る馬車にアキトは少し感動しながら帝都へ出戻りするのであった。




