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外の魔術師

スフィンクスの地下魔術工房にてアキトは全て見なかったことにしようとする。


「うーん、ここを使っていたのは誰だろうな…」


「最近出た建築物なら最近オアシスを訪ねた人がいる?」


「もしくは砂漠を彷徨って干からびたか…」


嫌な表現だとクララは顔を(しか)める。


「まぁ慌てて飛び出したんじゃないか?資料をほっぽり出して…」


「整理整頓が出来ないだけじゃ…」


どっちとも取れる状況にアキトは苦笑いして整理されてない資料を確認する。

持ち帰るつもりは無いが覗くくらいなら問題ないだろうと分からない文字で書かれた資料をチェックする。


「翻訳出来なきゃ分からないな…俺の知識には無い文字だな」


「んー、この世界の言語じゃない…ですね」


やはり外の関係かとアキトは溜め息をついて他の手掛かりをチェックする。


「本もあるが…うーん、同じ文字か?持ち帰り調査すればいつかは翻訳出来るかもしれないが…」


「外の知識を中央に持ち込むのは危険?」


「そもそも転移の魔法事故だとするならここにあるのは転移魔法についてと考えるのが正しいだろう?つまり研究したら…」


厄介な事になるのは明白だとアキトは肩を落とす。クララは資料以外の本は使えないかと提案するがアキトはあまり乗り気になれないと答える。


「どちらにしても危険な物品だな」


「封印しちゃうんですよね…ちょっと勿体ない…」


二人は調査を終えて工房を出ようとした所で出口が砂に埋れかけているのに気づいて慌てて外へ飛び出すのであった。


自然に埋もれていく工房を見てこれで良かったんだとアキトは自分に言い聞かせる。クララは工房の主を探しましょうと次の事へ前向きになる。

そうだなとアキトも気持ちを切り替えてオアシスへ戻る事にするのであった。


オアシスへ戻ってきた二人は早速最近の事を調査する。

旅人だったり何だったりを調べてみると酒場にて数日前ふらっと魔術師っぽいのが立ち寄って去っていったと聞いてそれだとその魔術師の行方を追うことになる。


「いましたね怪しい人」


「さっさと帰る算段だったのにな…」


砂漠にてもう少し活動することになってアキトは黒コートを恨めしそうにパタパタさせる。

さっさとお尋ね人を捕まえようと行方の調査をする。


「金が無いなら冒険者組合で稼ぐのが楽だろうに…してないのか?ならオアシスから出るのは難しくないか」


アキトの意見にクララは首を捻る。


「他には店番や魔法使いならそれっぽいことして稼ぐとか?」


「成る程、魔法使いの魔法のお仕事ね…」


取り敢えず手分けしてオアシス内で足取りを追うことにする。

暫く調査しているとアキトは早速雑貨屋で情報を得る。


「あー、色んな魔道具を買い取って欲しいと言われて珍しいもんだから買い取ったな」


「何か他に言ってましたか?」


「さぁ?慌てた様子だったけど他は特に…」


お金は出にしたようだが他は分からず仕舞いであった。

宿を調べようとすると別行動していたクララと合流してしまう。


「やっぱり宿ですよね」


「何かそっちは分かったか?こっちは雑貨屋に魔道具を降ろしたってのは分かった」


「魔道具を…成る程、私の方は食事に来ていたのは確認しました」


何で食事処を調べたのかと思ったら先に自分の食事を済ませていたようで口の端にクリームが残っていてアキトは呆れながら指摘するとクララは恥ずかしそうにそれを舐め取るのであった。


宿を調査すると目的の人物がまだ滞在していると知って二人は顔を見合わせてその人物と会いたいと願い出て暫く待つように言われてお茶をして待つことになる。

寝起きで不機嫌そうな肌は褐色で銀の短髪の男が頭をポリポリしながら現れる。


「何?あんたら…」


「この世界の中央政府からの使いだ」


「中央?政府…?げっ!」


ボーッとしていた男が自分の素性についてバレたのだと気づいて露骨に嫌な顔をする。


「安心しろ、俺も外の人間だ。アキトだよろしく」


「私はクララ、現地人で別だけどね?」


クララは余計な一言を付け加えるがアキトが自分と同じような存在だと言われて男は少し安心し溜め息を吐く。


「まぁ少し話をしよう。茶飲むか?」


「ああ、くれ」


不遜な口調な男は席に座りアキトとクララを何度か見比べる。


「オレンジにホワイトか…」


「種族の呼び方か?」


「ああ、土地柄関係なく多種多様なのが居て混乱するが顔立ちや肌色は常に特徴を押さえているもんだな」


男はお茶をズズッと飲み中央の使いというアキトの顔をジッと見つめる。


「外からの人間がなんで政府に?」


「まぁ腐れ縁だ。ほれ」


アキトは金の冒険者証を見せる。


「金?ああ、冒険者して稼いでいるのか」


「今や中央御用達の調査員だ」


「なんでオレ…あー、そうかアレか…」


スフィンクスの事を思い出した男は頬を掻く。


「オレはエイブラムス、錬金術を学ぶ魔術師だ」


「スフィンクスの魔術工房はアンタのか?」


エイブラムスは頷いて苦笑いする。


「実験の失敗でうっかり世界線を超えちまった…お陰様で無一文さ」


アキトは冒険者証を見せてこれで稼げと話すが力仕事は嫌いだとエイブラムスは答える。


「どうする?中央まで連行するのも視野だが…」


クララが工房はどうするのかとアキトに質問する。


「師匠、持ち主分かったなら資料は持ち帰るべきじゃない?」


「同じ事故やられたら堪らないし…正直中央で拘束されるべきではあるが…」


拘束と聞いてエイブラムスは青ざめる。


「冗談じゃない!オレは…!」


「安心しろ、有用かどうかは技研が決めるだろう」


「技研…?研究施設があるのか?」


興味があるのかエイブラムスは技研に食らいつく。


「ああ。魔法や科学について日夜研究しているらしい」


「連れてけ、オレの錬金術の知識、魔術知識が活かせるかもしれないんだろ?」


(単純なヤツだな)


アキトはお目当ての人物を確保したとして土の国にての調査を終えるとクララに言いつけ帰路に着こうとする。


「所で金は残ってるのか?」


「も、もう殆ど無い…」


エイブラムスは恥ずかしそうに答えるとアキトは仕方ないと中央までは路銀を出そうと財布を確認する。

クララは自分の分はと犬のように目を輝かせるがアキトは厳しく自分で出せと突き放すのであった。


翌日、ラクダに乗って一行は砂漠を越える。


「いいね、ラクダ」


エイブラムスはラクダを撫でてニコニコする。


「前の世界にもいたのか?」


「似たようなのはな。コイツラは静かでいい…捕食者に見つからずに済む」


面倒臭い話だがそれでもデスワームには見つかる時は見つかるとアキトは笑う。


「勘弁してくれよ?戦闘は苦手なんだ」


「似たような事言ってまぁまぁ強い奴を知ってるからなぁ」


ヤマトと似ているとアキトは笑うが「一緒にするな!」と怒られる。

デスワームとの遭遇は無くそのまま中央に入ることが出来たのは幸いであった。


馬車に乗り換えてゴトゴトと揺られる一行。エイブラムスは不便そうな顔をする。


「車は無いのか?」


「無いな…作る技術を提供してくれるなら万々歳だ」


「作り方や原理など知るものか」


残念とアキトとクララは肩を落とすが御者は大笑いして暫くは廃業しなくて済みそうだと話すのであった。


ヴァイスまで辿り着いた一行、エイブラムスは大きな教会というものを見て荘厳(そうごん)さに目を見張る。


「コイツは中々…デカいな…」


「だろう?中央の権威ってやつだな、んで奥の建物が技術研究所だ」


技研に近づくとヤマトが出てきてアキト達を出迎える。


「外の要人の確保してくれるなんて!進歩の可能性を感じるよ!」


「話は…酒場でするか」


エイブラムスはヤマトと目が合って小さく会釈するのだった。

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