いざ賊狩り!
手にした情報を元に自分達を狙った御貴族様の身辺調査をしようとアキトは領地での依頼で信用を得ようと考える。
(悪い奴らは大体横の繋がりもあるし内部を調べれるようにした方が楽だものな)
冒険者組合にて依頼を受けようとするがいつも通り苦い顔をした受付嬢に対応される。
「いい加減俺がレベル1に見合わないスペックだって理解してほしいんだが?」
「一応単独攻略報告が採取だけじゃないですか」
アキトはそうだっけと頭を傾げる。レックス達が一緒にいた事を思い出して仕方ないと肩を落としつつ他の区域の情報を求める。
「他の帝国領地の仕事ない?」
「ありますけど…えーっとレイズ卿とケインズ卿、そしてマイルス卿の三つですね」
お目当てのお仕事があるとアキトは全部一応確認する。
どれも討伐令で同じ内容でありアキトは眉を顰める。
「同じターゲットだな、盗賊頭か…三つの領地は隣接してるのか?」
「はい、その接点近くに拠点があるらしいです」
「なんで全員任務を?」
受付嬢はアキトの無知さを呆れつつ説明する。
「ようは雇った傭兵が優秀で他の領地より慧眼だ戦力が優れていると誇りたいのです。つまりレベル1の貴方が頑張って志願で顔を出したも門前払いですよ?」
「そいつは困ったな…第四勢力が滅ぼしたなんてなったら御貴族様はメンツ丸潰れな訳だ?」
何をする気なのか察した受付嬢は依頼を見せた事を後悔したように小さく溜め息をついて首を横に振る。
「私は何も知りませんよ?何も話してません。どうなっても知りません」
保身だけはしっかりしているとアキトは笑いながらサッとケインズ卿からの依頼書を抜き取り懐にしまう。
受付嬢は小さく「あっ」と止めようとしたが依頼書はすぐ複製できるし全部持ってけとアキトの横着な性格を叱る。
別に何枚も要らないとテキトーな理由付けしてアキトは依頼書にあるケインズ卿の領地を目指す事にするのであった。
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馬車を確保して揺られる事一日、帝都程では無いが発展した街に到着する。
御者が昼寝しているアキトを起こす。
「旦那、着きましたぜ?ケインズ卿の御膝元『ホーンズ』でさぁ」
入口に掲げられた街の看板、鹿の角が目印のホーンズ。
(二本でも一対で単数形じゃないのか?)
ツッコミも程々に御者に運賃を払って馬車を降りてどの街にもあると聞いている冒険者組合へ向かう。
酒場に併設されている組合に顔を出すといつも通りの渋い反応と依頼書の内容に苦い顔をされる。
アキトは溜め息混じりに頭の上を指差す。
「あー、うん。そういう反応は飽きたから。これ呪い。実際は凄く強いから」
信じられないという顔をされるが一応と仕事の内容を確認される。
「三つの領地の境の山に居着いたガルド盗賊団、その首領の逮捕、討伐です。デッドオアアライブの任務で壊滅させられれば追加報酬が出ます。が、お一人ですか?」
「ん?一人じゃマズいのか?」
相手は盗賊団、当然集団戦になるのに一人は無謀だと心配される。
アキトは問題無いと余裕の表情を見せて酒場の昼間から呑んだくれている六人の男達から大笑いされる。
「あんちゃん!馬鹿言っちゃいけねぇよ!一人だなんてここにいるオレら相手に出来るかい?」
「出来る。そうだな…長くて一分」
ピリッと空気がヒリついて酔った男達が一斉にアキトを睨みつける。
大口叩くじゃないかと最初に話しかけてきた男が席を立ち2メートルはある巨体で威圧してくる。
アキトは物怖じせずに盗賊団について尋ねる。
「知ってるのか?盗賊団について」
「っは、同期が数人挑んで返り討ち。晒し首にされたよ」
「んでビビったのか?」
挑発したアキトに男が大笑いしながら一発殴り掛かる。
パシッとその拳を外に受け流し男はよろめいて片膝付いて頭を突き出す形になりその首元にアキトは木刀を当てる。
「少しは実力信じてもらえるか?」
「ッケ、挑んで死んでこいや」
少し調子に乗り過ぎたとアキトは謝り木刀を納めて受付嬢に確認する。
「生死問わず…だったな?仇、取ってきてやるよ」
地図を受け取りアキトは酒場を後にしてその場に居合わせた全員がとんでもない馬鹿が現れたと思うのであった。
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食料の調達をしてグルメを堪能してから行こうとアキトが食べ歩きをしようとすると旅行鞄が呼んでもいないのに現れる。
どうやら神鳴もグルメを食わせろと要求してきてアキトは仕方なく甘い物から惣菜まで旅行鞄と二人で食べ合う。
当然その動作は奇妙なもので変な目で見られるがすぐに出発するからいいかと切り替える。
夜襲でもしようと宿も取らずに徒歩で出発し地図を頼りに山道を進む。特に険しくは無く昔使われていた砦跡に賊が住み着いているらしい。
盗賊団となると見張りもいるだろうと夜目が利くように暗闇に目を慣らし進むと狙い通り松明を持った見張り番が欠伸をしながら雑談していた。
「かったりぃ…旅人や商人減ったなぁ…腹減った」
「そりゃ襲い過ぎて今や賞金首だもんな。来るのは貧乏な冒険者だぜ?」
自虐ネタのつもりだが悪辣な内容にアキトは顔を顰めてさっさと倒すかとコートの内側の投げナイフに手を掛けてサッと投擲して二人共ほぼ同時に仕留める。
松明は砦入口に掛けて死体から武器を回収し内側から見えない位置に引きずる。
(交代が来る前に中に入るか…それともここで待って大乱闘するか…いや、ボスが逃げたらマズイか)
内側に侵入するしか無いなとアキトは闇に紛れて深部を目指す。
孤立した敵だけしっかり仕留めて少しずつ敵の数を減らしていく。
上手く行っている隠密行動を自画自賛しつつ進んでいたが不意に敵襲を知らせる警鐘が鳴り響く。
『敵襲ぅ!敵襲だぁー!』
ざわざわと辺りから武器を手に次々と盗賊が湧いて出てきて物陰から見ていたアキトは目を丸くする。
(多いなぁ…コイツは維持も大変だろうな…ん?維持?)
見張りが空腹を訴えていたのを思い出してふと嫌な予感を覚える。
(これだけの部下、当然飯が足りなくなる…商人だけ襲っても仕方ない。となると…)
協力者がいるという結論にアキトは嫌な汗が出てくる。
悪い奴らは大体横の繋がりがある。自分で考えていた理論が脳内で反芻されてケインズ卿の自作自演という可能性に至る。
(どの道任務に成功したら鼻を高くするだろうし身内切りも平然としそうだな…やって損はないな)
アキトは木刀に手を当てて首領は何処かと人相書きを思い返しながら見渡す。
こういう時は大体高い所にいると目線を上げると装飾品ジャラジャラさせてる対象を見つけて呆れる。
素早く敵の少ない裏を移動し暗殺を続けながら上層へ進み控室なのか敵の数が増した所で隠密を諦める。
「キサマ!どこから!?」
「居たぞぉ!こっちだぁ!」
どよめき困惑して今から武器を手にする賊をアキトは素早く投擲で撃ち抜き撃破するが騒ぎが聞こえたのか人がドタドタと移動する音が聞こえてきてアキトは逃げる様に駆け抜けて首領が立っていた見張り台に飛び出す。
(居た!必殺!)
部下任せにしていた首領は背後から突進してきたアキトに頭を鷲掴みにされてそのまま見張り台から飛び降り顔面から広場の地面に叩き付けられる。
「トラァイ!」
ラグビーで得点を決めたかのように叫び一撃必殺とアキトは拳を掲げるが首領は呻きながらも身体を起こしてアキトに血走った眼を向ける。
「あら、頑丈。頭蓋粉砕したと思ったんだが」
「スキル『頑強』…テメェ死んだぞ!」
「面倒臭そうなスキルだな」
アキトは仕事が増えたと木刀を抜くと周囲から武器を手にした賊が次々と現れてアキトはすっかり囲まれてしまうのであった。




