技の会得
外からの影響とあるならばアキトは動かざるお得ないとヤマトに告げる。
「アキトさん、本当に外の世界からの侵略があり得るのでしょうか?」
「侵略か…彼らはそんな事考えてないんじゃないか?自分が主役で自分が世界の頂点という考えさ」
狼狽するヤマト、アキトはケラケラ笑って世界は玩具でしかないと語る。
「…そんな勝手な」
「勝手なもんさ、まあ今は気にしなさんな」
「気にするわ!」
そんな話しておいてとヤマトは激しくツッコミを入れるがアキトは笑うだけであった。
「まぁ何か怪しい情報入ったら教えてくれ、暫くはクララの鍛錬でヴァイスにいるからさ」
「自由人だねぇ…いや冒険者ってそういうものなのか?」
丁度クララがモンスター狩りから帰ってきてヤマトと目が会い手を振る。
「アキトさんって女性に興味ないんですか?」
唐突なヤマトからの言葉に水を吹き出すアキト。
「俺は既婚者だ!…外の世界でだが」
「ああ、そうなんですね。てっきり気がないのかと」
「あのなぁ!」
一矢報いた気分のヤマトは笑い返して見せてクララと話に行ってしまった。
「アイツ…余計な事言わないだろうな…?一回殴った方がいいか?」
ヤマトへの悪口が出掛けるアキトなのであった。
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クララが仕事を終えて嬉しそうに報告をしてきて小銭袋を見せ付けてくる。
「これで一週間は生活できます!」
「じゃあ一週間はトレーニングに集中できるな」
「ええー!筋トレですか?」
それだけじゃないとアキトは説明して鍛錬について語る。
「必要なら技を教えようと思う」
「技!本当ですか!?やったー」
可愛げのある喜び方をするクララにアキトは慈しむような目線を向ける。その視線が何とも言えず「何ですか?」と返す。
「いやぁ子供っぽいなぁ…って」
「酷いっ!」
「技を教えるんだ気を引き締めてけ」
クララはハッとして表情を引き締める。
ヤマトと話して気疲れしたアキトは今日は休んで明日からと伝えるのであった。
翌日、アキトはクララの外で特訓ついでに斬撃波を教える事にする。
体幹を鍛える特訓をしつつアキトに合わせて技を修行するクララ。
「真っすぐ立って…剣先に力を…」
クララは集中して技を会得しようとする。アキトはその集中した様子を見てわざと乱すように手を叩く。
「うわ、何するんですか師匠!」
「実戦で技を出すのにそんな悠長に溜められないぞ」
「そ、そうですけど!初めてなんですよ?!いきなり実戦級の技求めなくても!」
クララの言葉にアキトは仕方ないなと大人しく初撃を見てみることにする。
「いきます!ハァッ!」
剣先から斬撃の軌跡に合わせて風の刃を飛ばす。アキトの教えた通りの事をしてみせる。
「やった!出来た!」
ガッツポーズを取って技に成功したと歓喜するクララ、アキトは腕組してまあまあだなと評価する。
「それを無意識にでも発動出来るようにすれば技をモノにしたと言えるだろう」
「うぐっ、手厳しいですね…」
「中途半端はダメだぞ?さぁ撃てなくなるまで練習だ」
アキトの指示の下で無茶振りに近い連続での使用を求められ必死に放つクララなのであった。
「セイッ!ハァッ!やぁっ!」
朝から始めた特訓、夕刻には三回連続での発動がやっとで額に汗をかくクララ。
連続で出せるなら十分やれているとアキトからも評価されてクララは斬撃波を習得する。
「後は予備動作、溜め無しで使えるようになる事だな」
「課題点は残ってますね…」
演舞レベルだとアキトは辛口だが基礎訓練を受けて来ただけあって筋は良かった。
「師匠、斬撃波以外の技ってあるんですか!?」
「気が早い!まずは一つ極めろ!」
欲張りなクララはアキトから叱られながら何度も斬撃波の練習を日が暮れるまで続けるのであった。
翌日、朝早くからクララは素振りをしながら斬撃波の練習をしていた。
アキトが目を覚まし様子を見に来る頃には得意気な顔をして斬撃波を溜め動作無しで放てるようになったと報告してくる。
「二日で基本技を会得したか、やるじゃないか」
「師匠の弟子ですからね!当然です!」
「ほう、じゃあ型とか覚えていくか?」
流派がどうとかアキトには無いが自己流の剣の振るい方というのがあるとクララに教える。
「型!流派とか憧れちゃいます!」
「よし、じゃあカウンターの練習といくか」
アキトは得意とする受けの練習をクララに施す。
「受けとは汎ゆる攻撃に対応し的確に返す事で相手にカウンターをする事だ。守るだけじゃ勝てないからな」
説明を受けてもクララは頭の上に「?」が浮かんでいるので取り敢えず攻めてこいとアキトはクララに指示する。
クララは本気でいいと言われたので早速覚えたての斬撃波を牽制弾に斬りかかる。
アキトはその牽制弾を軽々と弾きクララの一撃もパリィしてクララの姿勢を崩す。
「あれっ!?」
攻めていたはずなのにいきなりドピンチになるクララは思わず声が漏れてしまう。
アキトはスッとクララの首筋に木刀を当てて「一本」と余裕めいたセリフを吐く。
「おっかしいな…体幹鍛えてしっかり打ち込んだのに…」
「太刀筋が直線的で丸見えだ。もう少し奇策を交えないと今みたいに返されるわけだ」
「な、成る程…」
自分の鍛え方が悪かったのかと悩むが今は受けの練習、今度はクララがアキトの攻撃を返す練習をする。
アキトは分かりやすく縦振りの攻撃を繰り出しクララはそれを弾き返す。
「えーっと…弾き返すっていうのは…こういう風に?」
「そうだ、相手の姿勢を崩すのが目的だ」
アキトは崩れた姿勢からも攻撃を繰り出しクララは慌ててそれも弾いてみせる。
「ええ、師匠!無茶な振り方しますね!」
「無茶かな?ほら次!」
崩れているようで芯は地に足ついているアキトの攻撃が続く。
「く、崩せない!」
四方八方からの攻撃に何とか受けの練習を繰り返すクララ。しかしアキトの攻撃姿勢を崩せずカウンターが出来ない。アキトは攻撃を止めて一歩下がる。
「よし、いいぞ、並の相手なら大半が今の返しで倒せるだろう」
「はぁ、はぁ…なんで倒れないんですか!」
「俺が倒れたら汎ゆる攻撃に応じられないだろ」
正論のような負けず嫌いなような言葉にクララは納得いかずという風に口を尖らせる。
「一本取る快感は?」
「一人前になってからだな。さ、続けるぞ」
朝から始まった受けの練習は昼まで続きクララは滝のような汗をかいてアキトの涼しい顔を羨む。
「ダメだ…崩せない…師匠インチキしてません?」
「してない、筋はいいし逆にそっちが崩れる事もない。後はコツを掴むだけだ」
「コツ…?」
アキトは教えてやると来い来いと手招きする。クララは剣を構えて実際に打ち込む。
アキトは単純に返すのではなく身体から手首に掛けて捻りを加えて相手に回転動作を送り込む。
「わっ!」
武器が大きく弾かれ構え直すより先にアキトの木刀がクララに届く。
「これがコツ、『回転送り』だ」
「思ってた数倍の威力で弾かれちゃいました…コレは会得難しそう…」
クララは貪欲に今の動きを思い返して実際に真似してみる。しかし、しっくり来ないのか首を傾げる。
「うーん、こう?違うなぁ…こう!…違うなぁ…」
「おーい、昼飯にするぞー」
アキトはキャンプ道具を持ち出して外で手料理を振る舞う。クララも料理の手伝いを行い慣れた手つきで野菜やら肉やらを捌いていく。
「別に街に戻って食べればいいのに…」
「たまには外での飯もまた格別に美味いんだよ。別に中央の飯が不味い訳じゃないからな?」
言い訳じみた事をいいつつコレも特訓に活かされるものだとアキトは宣うのであった。




