二つの偶然
幹部と思しき男はアキトをまじまじと見て指名手配されていた男だと気付いて少し引いているようだった。
「アンタまさか…!?アキト!?」
「へぇ、知られてるのか」
「要注意賞金首にされてた男…」
そんな大層な扱いだったのかとアキトは苦笑いしてしまいながらも幹部に話しかける。
「どんな教義か分からないがゴーストは危険だぞ?」
「我々はこのローブを着ることで攻撃されないのです」
「へぇ、そんなルールあったのか」
アキトは腕組しゴーストについての知識に頷く。
「世界の滅びにホーリーゴーストに従うものだけが助かるのです」
「滅びとはまた飛躍した話しだな…いや、待てよ…その滅びについて詳しく」
自分自身の使命に関係して滅びの運命を潰す必要があるのではないかとアキトは考えて情報を引き出す。
「人の世が混沌とした時、我々の神『ナイアルラ』様が降臨し混沌を無秩序へと返し全てをゼロにリセットなさるのです」
「思いっきり邪神じゃねぇか!」
ついツッコんでしまい顰蹙を買うが邪神を崇める邪教に変わりはないなとアキトは鼻で笑う。
「ナイアルラ様は全てを漂白するのです。邪神などではありません!」
ツッコミしたくなるアキトは言葉を噛み砕く。
「うん、漂白するって表現がもうね…んで、そのナイアルラ様はどこにいる?」
「混沌が極まりし時にご降臨なさるのです」
「いねぇんじゃねぇか!」
我慢できずツッコミを入れる。
信者達はざわつくが幹部は毅然としている。
「野蛮な人にはわからないのですよ」
「神様と手合わせしたかったが…存在しないんじゃなぁ?」
存在しない神に価値は無いとアキトは吐き捨て背を向ける。
「貴様、必ず痛い目を見せてやる!」
捨て台詞を聞きながらアキトは裏路地を去るのであった。
ーーーーー
夕刻、戻って来たヤマトとクララの二人と合流しアキトは聞いてきたドルーガ教のやり方を話す。
ヤマトは難しい顔をする。
「存在しない神を信仰する…か。後はゴーストさえ居なくなったら自然に消えそう…なのか?」
難しい話になりそうでクララは呑気しながら報酬の小銭袋を指でクルクルさせる。
「そもそもなんでそんな邪教をみんな信じてるんだろうね?」
アキトは穿った目をして偏った意見を呟く。
「宗教なんざ心に傷負ったりしている人の弱みにつけ込み救いだの何だのというのが宗教さ」
「アキトさん、まるで宗教全てが悪だと言いたそうですね…」
「おっとすまん、宗教なんて信仰してもお金の匂いしかしないって考えだからな…」
正教に対しても悪意ある目線を向けているとしてヤマトやクララから冷たい目線を受けて謝るがアキトはそれでも宗教嫌いが滲み出る。
「…いやさ、俺宗教関係で過去に嫌な目にあってるからさ…」
「それは知りませんけど…いえ、大変な目にあったというのなら…?」
ヤマトは困惑しつつも気持ちはわかるかもしれないと自分も技研で苦労してきた過去を思い返す。
クララだけは正教の信徒として宗教を目の敵にするアキトを信じられないと言う目を向けるのだった。
「師匠って神様とか信じないタイプ?」
「厄介な神様に憑かれてるからなんとも言えないな…信じる信じないじゃなくて…」
「…?」
アキトの言葉に首を捻るクララ、ヤマトは神はいないとはっきり言い捨てる。
「科学者として神は偶像であり抽象的な存在である…それが見解です」
クララは難しい言葉に頭を抱える。
「ぐ、偶像…、抽象的…」
アキトはその言葉に苦笑いして自分の知る神と信仰される神とは色々と違うんだなと思い知る。
(あいつらは信仰とは無関係だな)
話をドルーガ教に戻して問題点を語り合う。
クララは険しい顔をして敵の存在について言及する。
「そのナイアルラ様が出てくるとなったら?」
「神は偶像、存在しないんですって…!」
ヤマトは否定するがアキトは可能性があると神に言及する。
「邪悪な神様なら現実に存在する可能性はあるぞ?海神様とかな」
「海神様…?」
「水の国で信仰というか恐れられた神様だな、ぶっ倒したが」
その神様をぶっ倒したと聞いてヤマトもクララも「はい?」とキョトンとされる。
「正体はモンスターだったよ。つまりモンスターが神様なら存在し倒せる」
「…そ、そういう事なら確かにありえる…か?」
ヤマトは納得しつつそれが本当なら大変な事になると気付く。
「それが本当なら世界を滅ぼす神様はそれだけの力を持つモンスター!?」
「ええ!?それって大変な事じゃないですか!」
とてつもなく強い敵が現れるとなって二人は慌てふためく。アキトは欠伸をして余裕余裕と二人の大袈裟な反応だと笑うのであった。
「それよりもその神様が出てこないようにする事が大前提なんじゃないのか?」
アキトは二人に慌てることは無いと説明する。
「そ、そうでした!…取り敢えずゴースト退治しないとですね」
「ええ?ゴースト退治ですかぁ?」
ドルーガ教にとって神聖なゴーストを失えば瓦解するんじゃないかとヤマトは話す。
アキトもそれは考えたと同意しながら問題点を語る。
「問題は減らないこと何だよな…」
「やっぱりマンダリンさんと話をつけるしかないのかな…」
死の秘宝が関係しているのかどうか確証はないが疑わしさを考えてレモの街に戻るかどうか話し合う。
クララは他人事のように忙しい二人を笑う。
「あっちへ行ってこっちへ行って、大変ですねー」
「お前も行くんだよ」
アキトのツッコミにクララは諦めた顔をしているのであった。
ーーーーー
グレブの街からレモの街に戻る一行。
マンダリンの屋敷を訪ねると目の下にクマを作ったマンダリンが居た。
「戻って来たのか…」
「どうしたんですか!?」
ヤマトが驚いた顔をしてマンダリンを気遣う。
マンダリンは深い溜め息をついて説明を始める。
「中央にもゴーストが出始めたと苦情が届いてな…死の秘宝を私が持っているから何かしたのではないかと疑われて…」
「いや事実でしょう?加工しようとして…」
ヤマトはガクッと肩を落としてツッコミを入れる。
眉唾物の呪いが関係しているなんてとマンダリンはまた大きく溜め息をつく。
「この事態の全責任を背負うなんて無理だろう」
「そりゃそうだが…というかまだ加工が原因とは…」
アキトがフォローを入れようとする。しかし状況証拠はタイミングが一致している加工が原因としか言いようがないとヤマトが語る。
「タイミングが…ねぇ…」
取り敢えず再出現したのを退治しようとアキトは話して屋敷を後にするのだった。
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クララと共に裏路地の掃除を行う。
「師匠は何か別に原因があると考えているんですか?」
「まあな、怪しいと思うのが二点、ヤマトの言うタイミングが重なっている事とドルーガ教の出現タイミングが一緒なことが気になってな」
「一緒だから確定的なんじゃ…」
クララはアキトの言葉の意味に首を傾げる。
「一つなら偶然、二つなら必然、三つなら運命ってな」
「じゃあ必然…」
「マンダリンのした加工が必然に見えるか?」
クララは難しい顔をしてその話に出てくる必然性とはと考え込んでしまう。
「師匠、それって…なんか…」
「つまりだ!論理的に考えてタイミングが合いすぎている。ドルーガ教が生まれるのはもう少し後になる筈なんだと言う事」
強引にアキトは結論を述べる。クララはポカンとして思考を進めて「確かに」となる。
「二つの偶然で考えるより偶然一つと一つの必然で考える方が合点がいくというもの」
「それがドルーガ教の設立…」
「ゴーストの出現が必然、そしてマンダリンの宝石加工が偶然ってこと」
アキトの説明にクララは手をポンと叩くのだった。




