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道化の在り方

リッチーとして死霊術師から解き放たれたジェスター、魔法と周囲の霊体から怨嗟(えんさ)の声を絞り取り悪意にしてぶつけようと力を溜め始める。

アキトが木刀を構える姿を見てレックスが冷や汗を垂らしながら質問する。


「ど、どうやって霊体を倒すんですか!?」


「知るか!俺の知人(いわ)く霊体は不滅だ!成仏させないと消えない!」


「それ大丈夫なんですか!?」


アキトの体調という意味では限界が近く殺気により必死に意識を(たも)っていられているようであった。

戦闘という意味では物理はほとんど無意味で頼みの綱はシシーの魔法のみといったところであった。


「ミラベルが目覚めるまで耐える。それが策だ!」


「アンタがミラを気絶させなきゃこうならなかったでしょうが!」


しかしそうしなければ館から脱出出来ないとアキトは自分の行いを悔いることは無かった。

口論しているアキト達を嘲笑うかのようにジェスターは口角を上げる。


『いいですねー、仲良しこよし!皆あの世に行くかワタクシが使役して差し上げますよ!』


「死ぬのはテメーだ!」


『もう死んでまーす!ヒャヒャヒャ!』


アキトの言葉にも笑って答えて火の玉をポイポイと火事になるのも気にせず投げ付けてくる。

四人は必死でそれを弾き返し消滅させる。

お上手とジェスターは手を叩いて褒めてくるが溜めていた恐怖の風を吹き付けてきてアキト以外の三人が足を(すく)めて顔色を悪くさせる。


『みーんないい感じに青褪(あおざ)めたねぇ!』


レックスが剣を杖に何とか立って感覚を実況する。


「っく、なんて冷たい風なんだ!さっきのミラのと同じ…いやもっと寒い…」


「そいつは死者の嘆きと悲しみの声だ。耳を貸すな!」


アキトの鼓舞に三人は頷きつつ立ち上がる。

ジェスターは戦いと言うよりもイジメを(たの)しむように手を叩いて応援してくる。


『もっともっと!ヒャヒャヒャ!彼らの嘆き!苦しみ!聞いて下さいよ!死者の言葉なんてそうそう聴けませんよ!?』


「今ウルサいのをたっぷり聞いてるよ」


皮肉を込めてアキトが言い返すと『そうでした』とジェスターは腹を抱えて笑う。


(半無敵か、ムカつくぜ)


お喋りな幽霊に対して恐怖より怒りが増してきてアキトが大きく溜め息をついて覚悟を決める。


「仕方ない。殺すか…不思議な旅行人(ワンダー・トラベラー)!」


『だから死んでますって!ヒャヒャ…ヒャ?!』


現れた旅行鞄にジェスターはおや?と目を丸くする。

鞄から飛び出てきたのは銀色の拳銃。この世界には無い銃という物にジェスターは首を傾げて仲間達も何だアレとなる。


「俺の世界じゃな、銀の弾丸(シルバーバレット)ってのがあってな…不死特効ってヤツだ」


『物理は効きませーん。よ?』


「俺は銃は好きじゃねえがウルサいのを黙らせるのには丁度いい」


避けようともしないジェスターに向けて一発、撃ち込む。乾いた破裂音が響き放たれた銀の弾丸がジェスターを貫く。

当たるわけ無いと高を括っていたジェスターは死んでいるはずの自分が神聖な魔力により腹部貫かれた事を自覚して苦しみだす。


『な、なんじゃこりゃぁ!不快感!圧倒的不快感!』


「言ったろ、不死特効。幽霊にも効くかは俺も知らなかったが…」


手動で排莢しながらアキトは余裕の顔を見せる。


『で、木偶の坊がぁ!』


道化を演じるのをヤメたのかジェスターは感情を(あら)わにして多種多様な魔法を放ってアキトを狙ってくる。

仲間を巻き込まないように回避し距離を取ってカウンターで射撃を当てていく。銃は好きではないと言いつつ外す事はなく適当な箇所に当てていく。

ジェスターは頑丈だったがもがき苦しみ当たる度に悲鳴を上げていた。


「どうしたよ?笑えよ」


『イキるなよビビリが!』


霊体をぶつけようと周囲の絞り(かす)を掴んでアキトへ向けて投げつけて来る。

アキトは憐れに思って一緒に成仏させてやると弾丸で貫く。聖なる力により苦しみから解放されながら霊体は成仏させられジェスターは地団駄踏む。


『ゴースト苦手なんじゃないのかよ!?』


「今は(たかぶ)ってて怖くもなんとも無いな!」


そうは言いつつ弾倉が空になってしまいアキトは反撃の手段を失いシシーに呼び掛ける。


「魔法はまだか!?」


「え、あ!聖なる矢(セイントアロー)!」


背中を向けているジェスターに向けてシシーは慌てて光の矢を放ちぶち当ててジェスターは何故か燃え上がる。


『ち、力が霧散する?!い、嫌だ!まだ消えたくない!』


やけくそ気味の火の玉を周囲にばら撒いて全員道連れだと館に火を放つ。


『これがワタクシの最期の技でござーい…』


「ヌルいな、来いネプチューン!」


指を鳴らすと旅行鞄から仕方ないと精霊が呼び出されて消化活動を開始する。

消え掛けのジェスターはカラ笑いしてアキトを指差して嗤う。


『ハハッ…アナタ、道化師に向いてますね…嘘つき…』


「悪いな俺は似非(エセ)道化だよ」


成仏とは違う形でジェスターは消滅して勝負が決するのだった。


ーーーーー


戦いを終えてアキト以外の三人がミラを心配し起こす。

ミラは自分の使役していた霊体達が大幅に減って弱っているのを感じ取りアキト達を突き放すがジェスターがやった事とアリスに説明されて自分が意識を失ってコントロールしていたリッチーが暴走したと知り愕然として座り込み消えていった家族とも呼べる霊体達に何度も謝っていた。

アキトはビビりながら館を見て回ってきて小さく溜め息をついてこれからどうするのかとミラに尋ねる。


「どうするつもりだ?この館に残るのか?生活は出来るだろうが…」


「ボクは…」


本当の家族からやり直そうと言われていることを知っているアキトは弱りきった霊体達を指差す。


「ここに残れば彼らを利用し更に苦しめる事になるかもな…汚れ仕事はジェスターがしたとして放棄してもいいんじゃないか?」


「そんな事…出来ない。ボクが居なくなれば物資補給要員に気付かれてお母さんが…」


(親父さんは別にいいのか…)


やっぱりまだ確執はあるんだなと握り潰された手紙を思い返しアキトはレックス達を見る。

レックス達は既に新しい友を受け入れる気満々でミラに手を差し伸べる。


「僕らと行こう。事が落ち着いたらお母さんと会えばいい」


「そうそう、補給要員?それはオッサンに任せればいいからさ!」


シシーが放った言葉にアキトは最初は頷くがハッとしてツッコむ。


「待て!それって俺はこの屋敷に暫く残るってことか!?嫌だぞ!幽霊屋敷なんて!」


「もうオバケは怖くないんでしょ?バチバチに戦えてたし…」


「それとこれは話が別だぁー!」


一人は嫌だと嘆きその時が来るまでここを拠点にしようとアキトが提案する。

レックス達は宿代が浮くかと少し考えてミラにそれを提案すると困惑されつつも頷いて四人は暫くの間生活の場を移すことになるのであった。


「幽霊が出る所なんて嫌だぁ!」


それでもアキトはゴネて若い面々から呆れられるのであった。


ギルドへの報告を済ませて二日後、調査団が屋敷に足を踏み入れる。

リッチーは消滅し屋敷内は人が生活できるとレックス達が使っていても問題無いとアピールし任務完了となる。

奥に隠れていたミラは調査団の中に居た補充要員を見て震えていた。


「ボクは死んだ事になったのかな…?」


「リッチーは倒した…つまり主であるキミが倒されたって事になるのかな?犯人はジェスターだったけど」


レックスが首を傾げミラは自由の身になったのかなとアキトに尋ねる。

アキトは少し考えてから自分の推論を語る。


「実家が暫く監視されるだろうがその後は好きに動けるだろうよ。それより教えてくれ。俺達…いや、勲章持ちを狙う指示したのはどこの卿なんだ?」


ミラは自分からは言えないと震えてしまいアキトは仕方なく押収していた魔法の鍵付き書簡を見せる。


「解除コードだけでいい…」


「そ、それ!無くなってた…!盗ったな?!」


ミラは強く睨みつけるがアキトの目を見てミラは軽く溜め息をついて呪文を唱え鍵を解除する。

後は好きにしろと口では言わなかったがそういう事だろうとアキトは納得して書簡を開く。


『勲章持ちがそちらへ向かう。手段は問わない確実に消せ。ケインズ卿より』


「名前を残しているのは…馬鹿なのか?」


アキトは鼻で笑い席を立つ。

どこへ行くのかとレックス達は心配するがアキトは笑って答える。


「この馬鹿の領地にお邪魔してくるとする。悪いが留守番頑張ってくれ」


今後お邪魔が現れるかもしれないと注意を残してアキトは一人ケインズ卿の領地を目指す事にするのであった。

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