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遠い目的地

門を出て軽く伸びしてボソっと呟く。


「しまった、西って…どっちだ?」


天を仰いで恒星の位置を確認するが現在地の緯度と経度と地軸の向きが分からなきゃ方角も分からないと肩を落とす。

門番に聞こうとアキトは依頼書をひらひらさせて嫌な顔をしている門番に質問する。


「あの、西ってどっちですか?」


依頼書を受け取り目を細めて何度も顔を前後させて確認し門番はアキトに本気か?と質問して返事を待たずに説明を始める。


「ここは南門、西はあっちだ」


指差された方向を見ると地平線の彼方に薄っすら山が見える。

アキトは「遠くない?」と苦笑いして門番に聞く。


「ああ、向こうに着く頃には日付跨いでるだろうな」


「無一文なんですが?」


「俺がアンタの事情を知るかよ…」


冷たい態度で突っぱねる。しかし門番は流石に可哀想だと思ったのかアドバイスを出す。


「宿場町経由で鉱山街までの商人の使う馬車が西門にいるかもな?頼ってみろ」


後は自分で何とかしろと依頼書をアキトに返して詰所に戻って行くのであった。


ーーーーー


西門に赴いたアキトは荷を積み込んでいる馬車を見つけてチャンスと荷を運ぶ若い馬子(まご)へ声を掛ける。


「失礼、この馬車は西の山へ?」


「ええ、商家の依頼で物資の輸送を…貴方は?」


若い男性の馬子は額の汗を拭いアキトに対して笑顔で答える。

アキトは目的地まで護衛として馬車に乗せてもらえないかと依頼書を見せるとその内容に目を丸くされる。


「ええ!?コレって確か…いや、いいのだがオジさん戦えるのかい?」


オジさんと言われて少し傷付くが問題無いと木箱を一つ持ち上げて力はあるとアピールする。


「な、なるほど…?ステータスは極端に低いが…」


「すまんステータスって何なんだ…?俺には見えないんだよな」


アキトの言葉を逆に理解出来ないと言いたげに困惑される。これ以上変に思われて乗れなくなるのは困るとアキトは記憶喪失でよく覚えていないと身の上を話して誤魔化す。


「無一文で記憶喪失…それでこんな危険な依頼を?」


報酬金額を指差して馬子は説明をしてくれる。


「金貨千枚…国が支払うって凄い任務みたいだ」


「金額は…いや、普通の人の一日は幾らぐらい使うんだ?」


「銀貨50枚くらい?贅沢するなら金貨1枚は使うかな」


アキトは一年は遊んで暮らせると丁度いい仕事だとガッツポーズするがやっぱり変な人だと(いぶか)しがられる。

無一文の強欲者の憐れな末路を見るように同情的な視線を向けられてアキトは苦笑いしてまた誤魔化す。

積荷を手伝い予定より早く出発すると馬子がアキトに荷台に乗るように指示する。

馬が(いなな)くと同時に西門から若い剣を担いだ茶髪男性と魔法使い風の耳長女性、弓を背負った青髪軽装の女性が慌てた様子で手を振って馬子を止める。


「すみませーん!乗せてくださーい!」


馬子は慌ててストップを掛けて三人組のパーティはアキトに相席する形でオープンな馬車に乗り込む。


「いやぁ助かりました。僕はレックス。この魔法使いがシシー、弓師がアリスです。僕ら西の山の鉱山に出る魔物退治の依頼受けまして…」


社交辞令のようにペコペコと頭を下げるレックスと名乗った青年に馬子は笑い話をするようにアキトを紹介する。


「それってまさかこちらの旦那が言ってるドラゴン退治ですか?」


「まさか!勝てる訳ないですよ!」


女子二人もムリムリと笑うがアキトがその旦那と気付いて信じられないと嘲笑する。

レックスは笑う事はないと生真面目な性格を見せてアキトは何となく若い頃の自分を思い出して遠い目をする。しかし、やっぱり不安に思われたのかレベルについて言及してくる。


「でも…お兄さんレベルが…」


「どいつもこいつもレベルレベル、数字でしか物見れないのか?」


アキトもいい加減ツッコミたくて仕方なくなる。


「何だよ筋力って?!ええ!?80と1で80倍も力の差があるんですか!?じゃあ俺が木箱1個持ち上げるのが限界ならテメェは木箱80個持ち上げられるのかってんだ!おバカか!?」


突然キレるアキトに全員ビックリした顔をするがアキトは続ける。


「他にどんな能力表記あるか知らないが俺の数値が1で他のやつが数十倍だろうが俺は負ける気しないね!ドラゴンの一匹や二匹楽に狩ってやるよ。なんなら出てきたモンスター皆ぶっ殺してやるよ?!」


叫び終えて大きく溜め息をつく。

キョトンとしたままの乗り合わせたレックス達にアキトは大声出したことを謝る。

そして鋭い視線を正面の街道脇の大岩に向ける。


御者(ぎょしゃ)!止めろ、お客さんだ!」


「えぇ!?」


驚き馬子は馬を止める。レックス達も何事かとアキトの見た方向を確認する。

大岩から舌打ちしながらトゲトゲしたデザインの革鎧をした賊と思える連中が武器を持って現れる。


「あ、あわわ!ここらを縄張りにしているザザ盗賊団だ!い、命だけは!」


「その為の護衛だ、賞金首だったら金になるな」


アキトがパッと馬車から飛び降りてレックス者に馬車を守れと指示する。

無茶だと止められるがアキトは憂さ晴らしと木刀を抜いて盗賊団に向ける。


「痛い目見たくなかったら…金か賞金首おいてけ」


「それはこっちの台詞だ!ナメんなおっさん!」


剣や斧、鈍器など様々な武器を振り回す盗賊団にアキトは呆れながら障害など何一つ無いと言いたげに滑るように盗賊の間をすり抜けながら的確に後頭部に一撃入れていき次々と気絶させていく。

仲間がやられる姿を見て残っている盗賊は皆怖気づく。


「あ、当たらねぇ!相手は雑魚だぞ!?」


大見得を切っただけはあると馬車に乗っていた面々はアキトの動きを目に焼き付ける。

逃げ出そうとする賊もアキトに追い付かれて気絶させられる。

(いしゆみ)を構えた賊が見えてアキトは素早くコートの下に隠した酒場で貰ったナイフを投げ付けて額を撃ち抜く。


「あ、やべっ、殺しちまった…」


泡吹いて倒れている賊とは違いそこまでするつもりは無かったと口に手を当てるが仕方ないと頭をぐしぐしする。

一通り片付いたと賊の衣服を探って何か無いかと漁る。

レックス達は何しているんだと困惑するがアキトは苦笑いして答える。


「いやぁ、金無いからさ。ちょっとぐらいスカベンジしてもいいかなって…盗賊なら取られる覚悟もしてるだろうしさ…お、ちょうど良さそうなナイフ」


装備や金品を調達する豪胆な悪食(あくじき)っぷりに呆れるがその実力を目の当たりにしてもうレベルや能力で馬鹿に出来ないなと確信させるのであった。


ーーーーー


夕刻になり馬車は宿場町に到着する。

夜は危険が増すので進行は中断して休息を取る事になる。

馬子は冒険者達に明日の朝出発するから遅れないようにと宿への荷物を(おろ)して説明する。

レックス達がお腹空いたと宿へ入るのを確認してからアキトは盗賊から手に入れた小銭を馬子に見せる。


「これこの国の通貨で間違いないか?」


「ええ、王国銀貨ですね。…ホントに取ったんですか」


「勉強代として貰った…って事で一つ…な?」


今になって後ろめたくなったのかアキトは目を逸らす。

しめて銀貨40枚程、良い食事と宿は取れると説明されてアキトは小さくガッツポーズする。


「明日も乗ります?明日の夕刻には目的の鉱山街に着くと思います」


「…つまり歩くともっと掛かるって事だよな?無一文で数日歩かせるつもり満々だったってことか…鬼畜か!ほれ、賃金」


アキトは銀貨10枚を馬子に渡して明日も頼むと依頼してまずは飯だとお腹を擦って美味そうな匂いのする酒場へ向かうのであった。

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