大移動
新たな依頼を探しているとニーナが自分の昇格はまだかと確認してくる。アキトは自分じゃなくて受付嬢に確認しろと苦笑いする。
「ニーナさんですね…えっと…ヒガナにて金貨10枚の仕事を?!…都市レベルのものとなると銅まで上がれますね」
「ホント?やった!」
青銅から飛び級して銅ランクになったニーナはアキトへVサインを送る。成長したものだとアキトも感慨深く頷く。
「金まで一緒に頑張ろうな」
「勿論!さぁお仕事は?!」
中央政府や教会からの直接の仕事は無く二人は落ち込む。受付嬢も困り顔で二人に謝る。
「常にある訳じゃないですからねえ…」
「そりゃそうだ。そんなに困ってたら国が傾いちまう。さてと、じゃあ細々とした仕事をしますかー」
アキトの言葉にニーナは軽い感じに返事をするのであった。
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近郊のモンスター退治や農地の防衛など慣れた仕事をする二人、そんな日々が数日続いていた。
そんなとある日、酒場が慌ただしくなっていた。
「大移動だとよ…」
「軍隊は招集掛けられてるが俺らには関係ねぇや…どうせ盾にされる」
「違いねえ」
冒険者達は依頼を見てもそっぽを向く様子で去っていく。
「ねぇスタンピード?ってなに?」
「モンスターの大移動の事らしいが…何が起きたのやら」
依頼書にはスタンピードの抑止としか書かれていなくてアキトも微妙な顔になるがニーナはそんなもの楽勝とアキトの腕を引きながら依頼を請け負う。
アキトは事情もわからないのにやるのかと乗り気じゃなかったがニーナは人の為とアキトの救世の任を理由に受けようと力説してアキトは根負けしたように「はいはい」と受け入れるのであった。
二人は早速教会の兵団を訪ねて依頼を受けて来たと伝える。
すると責任者なのか鎧が一際豪華な隊長らしき騎士がやって来て二人の階級をチェックする。
「銀と銅か、悪くないな」
冷たい雰囲気でアキト達に接する騎士は任務の概要を話す。
「対象はワイルドボア。土の国の国境付近で発生し農地を荒らしながら北東に侵攻、首都ヴァイスの農地もターゲットとされている」
「首都の農地を守れ…と?」
「そうだ」
ニーナが他の場所はどうなるのかと疑問を口にする。
「他は関係無い。我々は首都を守る事に注力するのだ」
情報共有はしているからそこで冒険者達が何とかしているだろうと無責任そうな事を言ってニーナは反感を向けようとするがアキトに止められる。
「今から行ってもやれることは無い。自分達に出来ることを精一杯やるのが仕事だ」
「分かっているじゃないか。では頼むぞ」
騎士は背を向けて去ろうとする。
「騎士は動かないのか?」
アキトはつい口走ってしまい余計な一言だと口を塞ぐ。
「いや、何でもない。警備引き続き頑張ってください」
「ふんっ」
去っていく騎士にニーナは舌を出して小馬鹿にする。アキトはやめなさいとやんわり注意するのだった。
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農地に足を運ぶアキトとニーナ、他の冒険者も数名スタンバイしていてアキト達も待機に加わる。
「少ないね…大丈夫かな?」
ニーナが酒場の人集りに比べて今いる人数が両手で数えられるくらいで心配になる。
アキトはこんなもんだと他の人の意識の低さは気にするなとニーナに言って欠伸をする。
「あー、アキトもやる気ない側だなー」
「ワイルドボアだからな…俺一人でふっ飛ばして猪鍋パーティーだよ」
「猪鍋…美味しそう」
食べ物の話題に切り替えるとニーナは呆けた顔をして涎を垂らすのであった。
「敵さん来るまで時間ありそうだし気張り過ぎずにゆっくり待つとしようや」
アキトの言葉に周囲のピリついた冒険者達はムッとする。
「後から来た分際で気の抜けた態度、なんなんだよ」
我慢できなくなったのか一人注意してきてアキトは軽い調子で謝る。
「すまんすまん、騎士たちも適当だったからつい…ね?」
「確かに奴らは適当…って言わせるな!」
ノリツッコミされてアキトは苦笑いしてまた謝るのであった。
暫く待っていると遠くから地鳴りが響いてきてひりついた空気になりアキトも「来たか」と腰を上げて木刀一本でのそのそと他の冒険者達を縫うように通り抜けて一番前に出る。
「おい、アンタ!何考えて…!」
「先頭は任せとけ、楽させてやる。討ち漏らすつもりは無いが抜けてきた奴らを頼む」
何言ってんだと抗議を受けるが地鳴りの正体の巨躯なワイルドボアの集団が見えて来て「どうなっても知らねぇからな」と見捨てられる。
木刀一本あれば十分と居合いの構えに入り絶空を放つ準備が整う。
「一撃で決める!奥義!絶空」
圧倒的多数の敵に対してアキトは正面切って絶空を放ち受け止めようとする。一撃目で数十匹のワイルドボアが吹き飛び引き裂かれるが群れはまだ止まらない。
「見せてやる秘奥義…絶空『二の太刀』!」
純粋な二発目の絶空だが溜めも少なく勢いに任せる奥義、弐撃決殺。突進を続けるワイルドボアの殆どを蹴散らし討ち漏らしの数匹が仲間の死体を越えてやって来て冒険者達が約束通りそれらを仕留める。
どんなもんだとアキトは鼻を鳴らし木刀を腰に戻す。
他の冒険者からはやっかみを受けつつも大口を叩くだけはあったと関心を寄せられるのであった。
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騎士達の出る幕もなくあっさりと大移動を片付けた冒険者達、しかしそのおかげか危機感は少なくスタンピードと銘打った者のメンツを潰してしまったようで報酬の引き下げが行われてしまった。
「頑張ったの俺なのに扱いひどくて嫌になっちまうなー」
「アキトが一人でやっちゃうからじゃない?」
ニーナに核心を触れられてアキトは渋い顔をする。
「そういう事言っちゃう?いや、まぁ…そうなんだけどさ…難しい事を難しいと理解する前に解決しちゃったら飛び抜けた怪物を認識する前に終わるってやつ?」
「怪物って自覚あるんだね」
「…例えの話だ」
アキトは目を逸らし規格外な人間として少し自粛というか自制しますと小声で謝る。
取り敢えずようやっと中央からの任務を終えてまた少し金に近づいたんじゃないかとアキトはウキウキするが道のりはまだまだであるとニーナはツッコミを入れるのであった。
「はぁ、金は遠いな…」
次の仕事は無いのかと見てみると土の国で何が起きているのか調査の護衛をする任務がありアキト達はそれを受けることにする。
教会へ顔を出すと丸メガネの学者風の男性が待っていた。
「今回の大移動の調査をしに行きます。護衛をお願いします」
「アキトだ、こいつは相棒のニーナ、俺が銀級でこいつは銅級、安心して任せて欲しい」
「ヤマトです。よろしくお願いします」
教会を出て早速先ほど終息した大移動について調査に向かいますとヤマトは語り用意された馬車に向かう。
「銀級とは…さぞかし凄い任を受けて来たんですね」
「ドラゴンスレイヤーってやつです」
騎士とは違い温和そうなヤマトはアキト達に気さくに話しかけて来る。アキトもそれに答えるように気軽に返答してニーナはニコニコしてアキトの他の偉業を話す。
「アキトは水の国で神様倒したしさっきのスタンピード?もアキトが殆ど倒したんだよ?」
「ええ?!そ、そんな事を!?」
メガネがズレる程驚いてアキトはニーナにそこまで語らなくていいと軽くチョップする。
「ビビらせる必要はない」
「でも知ってもらわないと金にはなれないよ?」
「そ、それはそうだが…彼には関係ないだろう?」
イチ学者に知ってもらったところで金級にはなれないとアキトは語ってとにかく仲良くやろうやとニーナとヤマトに微笑むのであった。




