死の館?
討伐任務で庭に足を踏み入れた一行、手入れのされていない雑草が足元の石畳を覆い隠してしまっていた。
アキトは実力から先頭を任されるがオバケ怖さに情けない顔をして一人では無理とレックスに泣き付く。気持ち悪いしダラシないと呆れられながらもレックスと並び二列になって歩く事にする。
四人破歩く中で横の茂みからヒソヒソと話し声のようなものが聞こえてきて肝を冷やす。
「…お、きゃ…くぅ…」
「…ひと…だ…」
聞き取りづらい小さな声と聞こえた単語をくっつけてシシーがビクッと反応する。
「食べる?人を食べるって言ってたわよ?!…私はエルフよ!食べるなら…オッサンにしなさい!」
「はぁ!?おいおいオッサンの肉なんてマズいぞ!」
ツッコミ場所はそこなのかと獲物の押し付け合いが始まるが騒がしくし過ぎたのか声は聞こえなくなり代わりに骨の犬が飛び出して来る。
ボーンドッグかとアキトは少し考えてから敵を指差して確認する。
「なぁ、アレは物理的に倒せると思うか?」
「た、多分?骨…だし…?」
「そうか、なら大丈夫」
基準が分からないとレックスは微妙な顔をしてしまう。
「ほれ、ほーれ」
アキトは子犬をあやすかのように木刀を左右に振って興味を惹く。ボーンドッグも頭を下げて左右に合わせて揺れて狙いを定め早く投げろと尻尾を振っている。
アキトはニヤッとして「取ってみろー」と投げ付けて頭部に直撃させて撃破する。
「酷い!」「外道!」「動物虐待!」
仲間からは散々な言われようでアキトは何故敵に同情してるんだと白目になりショックを受ける。
動物の動きそのままの敵を敵とは思えないと三人は語り甘い奴らだとアキトは注意する。しかし、自分も情で敵を見逃した事が直近であってなんとも言えない気持ちになりながら木刀を拾う。
その瞬間頭上から戯けた声が響いてくる。
『あー!なぁんて酷いお方だー我が家のパピーちゃんが!いや、マロンちゃん?あー!ペロちゃんがー!』
半透明の道化師の幽霊がアキトの頭の上に降りてきて三人が慄いてアキトは小さく悲鳴を上げてカチコチに固まる。
道化師はアキトの頭上でぴょこぴょこ跳ねてゲラゲラ笑う。
『これは失礼、ワタクシはジェスター!しがない道化師で御座います!』
「名前からしてそういう運命付けられてるな!」
意識は希薄ながらアキトは本能的にツッコミを入れてしまう。
ジェスターはまたゲラゲラ笑いアキトの頭上から下りて倒れたボーンドッグを軽く撫でる。
『ご心配なさらずー。どうせ死んでますからー!でーも?すぐに蘇りますよ!?アンデッドですからー。あーはっは!』
クルクルと饒舌に語る道化に若者達は呆気に取られながらもイラッとしていた。
『おや?勲章、さながら騎士様達かな?これは愉快、近頃の騎士様は青臭いですねー、魔法使いも?これはこれは狩人も?そしてこっちの木偶の坊はなんですかな?』
ベラベラと意味の無い言葉のサラダを四人の周りを踊り狂いながら話し混乱させてくる。道化が語り終えてアキトがようやっと平静を取り戻し呼吸も整う。
「で、宮廷道化師様がなんでオバケになっているんだ?」
『宮廷だなんて!名前が負けているだけで単なる道化で御座いますよ!?なんで?なんででしょーね?あぁ哀しいぽっくり死んだからで御座います!』
ピタッと踊るのを止めて道化は館の方を見て『分かりました』と呟き四人を案内する姿勢になる。
『お客様達はめくるめく死の祝祭へご招待、とご主人様は申しております。ええ!はい!』
怪しいとシシーが睨みつけるがどの道中に入る事には変わり無いとレックスが案内を受けようと困惑しているアキトの背中を叩く。
「オバケが苦手でもなんとかなりますって!」
「もう帰りたい…」
泣き言をボヤいてももう遅いと女子達に盾にされるように押されて館へ向かう一行。
ジェスターはニヤニヤして見送った後に奥からやってくる男二人を見て険しい顔をする。
『ムッフッフ、さーて招待状を持たない招かれざる悪い子にはオシオキが必要ダヨネ?』
前日レックス達を狙っていたペイジとトッドは死霊達の鮮烈な歓迎を受ける事になるのであった。
ーーーーー
館の中に入ると銀の装飾の付いた黒いローブを纏った小柄の人物がいて自己紹介を始める。
「こんにちは、皇帝直々に討伐令を出すとは驚いちゃったね」
どうやらターゲットのリッチーらしいがどうにも威厳が無いとアキトは周囲の観察をする。
館内は暗いがキチンと清掃の行き届いた外に比べて廃屋に見えない様相にターゲットは死霊ではないと推理する。
「お前死霊術師だな?」
「そのとおり、ご明察だね」
「なんでリッチーだなんて情報が流れたんだ?」
アキトの言葉にレックス達はどんな違いがあるのかと疑問に思うがアキトは簡潔に説明する。
「死霊術師は人間、リッチーは死霊術師のゴーストみたいなもんだ」
つまり生きているか、モンスターかどうかの違いと理解し対話出来るじゃないかと城の人間の調査不足を呆れる。
レックス達はどうすれば良いのかと頭を悩ませる。その答えをアキトが答える。
「人間が相手だと報告すれば良いだろう。とりあえずここで俺達が頭抱えても仕方の無い話しだ」
話が進むに連れて疑問も湧くがとりあえず置いておくことにして帰ろうとなる。しかし扉は固く閉ざされアキト達を帰すつもりはないようであった。
死霊術師はフードを外してニタニタと不気味な笑顔を見せる。
「キミ達を帰す訳にはいかないんだよね…」
ボサボサのネイビーな色の髪に病気を疑う程に青白い肌と長耳、眼の下のクマの女性で全員が体調の安否を気にしだす。
「大丈夫か?お前、栄養取ってるか?俺の知り合いに似た顔してるやついるがそこまで肌は白くないぞ?」
「ちゃんと眠れてますか?眼の下のクマが酷いですよ?」
「ってか髪の毛ヤバいってちゃんと湯浴みしなよ」
アリスがウンウンと最後にトドメを刺すように頷いてダメージを受ける死霊術師はぐぬぬと悔しがる。
「こんなにカワイイボクを…」
「いや、可愛くは無い。鏡見ろ、酷い顔色だぞ」
「そ、そんな!」
アキトはチャンスだ、精神攻撃だと追撃する。
「帝都には大衆浴場があるくらい風呂好きが多いんだぜ?ちょっとコイツ風呂入れようぜ?おい、風呂あるんだろ?」
「ふぇ!?」
ガシッと死霊術師の肩を掴みアキトが鼻で笑いながら仲間達に提案をする。
「はぁ!?アンタ男でしょ!私達が入れるわよ!」
シシーとアリスが「待て待て」と死霊術師が慌てるが力押しに負けて連れていかれる。
残されたアキトとレックスは今のうちに調査と館の中を探る事にする。
「離れるなよ?」
いつもの調子に戻っているアキトだったがレックスが二階のテラスを指差して「あ、幽霊」と口にしてアキトがビビり弱気モードに入る。
「頼む、離れないでくれよ?」
「急に威厳無くなりますよね…」
「苦手な物は苦手なの!物理が通らないなんて非現実的過ぎる!」
二人で玄関口から移動を開始してレックスは何を探すのかと尋ねる。
アキトは死霊術師の語り口と依頼の内容から城の人間を怪しみ何か手掛かりがあるはずだと答える。
「城の人間…?どういう意味ですか…?」
「この依頼は罠って事。城内の不都合な真実を知っている俺達を消そうって魂胆だろうな」
自分が狙われていると知ってレックスはショックを受けるが胸の勲章を指差して自分達は悪い事をしていないと訴える。
「狙っていた皇女様を運良く救って連れ帰って暗殺計画を台無しに…逆恨みされても間違いは無いだろ?城の人間に勲章持ちは消せないが外部犯なら…?ってな」
「そ、そんなことが…」
「深く考えてる時間はねぇ…さっさと漁るぞ」
今は俺達をどこの卿が狙っているかの指示書が残っていないかと探れとアキトが話すと正義感にレックスは燃え上がるのであった。




