神を倒せ
海賊達と共に『海を荒らす者』と呼ばれる『海神様』を倒しに向かうアキト。
出航し隠し砦から出た船は波に揺られながらとある島を目指す。
「海神様ってのはどんなやつなんだ?」
アキトは船長に尋ねる。
「海竜だ、好き勝手暴れてくれて我々も港の連中も迷惑している」
「海竜…厄介だな…」
「そうだ、攻め手が少ない上に海の上では敵の優位が揺るがない」
だから根城に攻め込むと塒を攻めると語るがそう上手くはいかないだろうとアキトも船長自身も考えていた。
ニーナが魔法があるよと杖を振ってアピールする。魔法だけじゃ足りないなと船長は腕組して語る。
「大砲がダメージ軽微で済まされてしまう中で魔法も確実にダメージが出る確証はない…」
「そうかなぁ、全力は出すよ」
「全力出さなくては死ぬのは我々だからな」
死ぬと言われても不死的には問題ないが皆やられては困るとちょっとズレた解答するニーナに船長は訝しい顔をする。
「コイツちょっと他人と感性違うからさ」
アキトがフォローを入れて事なきを得る。
揺られること数時間、波が激しくなって海賊達も険しい顔になってきてそろそろかとアキトはニーナに準備をさせる。
「うん、大丈夫、ちょっとクラクラするけど魔法はいつでも撃てるよ」
「この波も海神様とやらが?」
白く波が立っているのを見てアキトは大シケだなと船長に船は保つのかと不安になる。
「問題無い、操舵能力は高い連中で固めている。だが奴が現れれば転覆も覚悟しろ」
「…これより荒れるのか…」
アキトは酔いどころではないなと白目になる。
船員が遠眼鏡を使い何かを見つけて叫ぶ。
「やつだ!来るぞぉ大砲用意!」
どうやら海神様を見つけたようで先制攻撃をしかける。
「ニーナ、こっちも魔法だ!」
アキトも木刀を手にニーナを呼ぶ。
準備が大慌てで進む中アキトは遠くに見える海竜の背に昂揚した表情を隠せないでいた。
(今度は海のドラゴン様の討伐か、やってやる!)
船頭に立ってどうやって攻撃してやるかと大きく揺られながら考える。
(斬撃波も絶空も海に逃げられたら仕方ない…使うか『不思議な旅行人』…)
神鳴なら今の状況を楽しみそうだと指を鳴らす。旅行鞄が現れてアキトは咄嗟に取っ手を掴み揺れに飛ばされないようにする。
「行けるか神鳴、大物だぜ!」
モチのロンと戦いを楽しむように反応を返す旅行鞄。アキトは鞄を開いてトライデントを手に取る。
「海の神には海の神!いくぞトリトーン!」
先制攻撃なら任せろとアキトは海の神の精霊の一柱を呼び出し技名を叫ぶ。
「海神の怒鉾!」
バリバリと雷で輝く三叉の鉾が精霊から放たれる。
海神様の背中に見事その鉾が突き刺さり飛び上がりその巨体が姿を表す。
「出たぞー!海神様だ!」
大砲が放たれニーナが雷魔法をその球に乗せる。
ズドーンと命中し大きく海蛇の身体が揺れる。
「命中!ドンドン撃ぇ!」
「効いている!いけぇ!」
大砲と魔法、一気に攻め立てた結果、海神様に反撃されること無く海神様は撤退を余儀なくされる。
「引いていく!冒険者!仕事だ!」
「よし来た、こっからが本番って訳だな!」
塒に逃げ帰る海神様の寝首をかく、アキト達に課せられた仕事を全うする為二人は島へ降り立つのだった。
ーーーーー
海神様の眠る洞窟へ向かう二人の前にゴブリンなどの雑魚がワラワラと湧いてきてアキトは木刀で蹴散らしていく。
旅行鞄は出しっぱなしでいつも通りの動きをしているとニーナが旅行鞄をつついて敵かどうか確認してくる。
「アキト、コレ何?」
「ん、あー、しまった!出しっぱなしだった」
出しっぱなしで悪いかと旅行鞄がアキトを突っつく。
「敵じゃない、俺の…能力的な?」
「なるほど?じゃあ仲間だね」
握手する様に取っ手を掴みフリフリする。
「回復される前に行くぞ」
「はーい」
呑気している暇はないぞとアキトはニーナを急かして足早に洞窟を進む。
どんなに急いでも邪魔は入るもので、海神様を守っているのか分からないがゴブリン、ホブゴブリンが出現してきては蹴散らされる。
「最深部まで一気に行くぞ」
やんややんやとニーナと旅行鞄は応援してくる。
「援護してくれよ」
「アキトだけで蹴散らしちゃってるもん、それに温存も大事」
「…うん、まぁ…そうだな」
ボスとの戦いとなると魔法は必須になるだろうとアキトも考えて温存はありだなと思うのであった。
ーーーーー
アキト達は遂に洞窟の深部、地底湖に到達してそこで休む海神様と対面する。
「でかーい」
海で見た時より大きく感じてニーナは呆ける。
『人間、何故我を攻撃するか!』
「うわ、喋った」
ニーナが逐一反応するがアキトは冷たく当たる。
「海を荒らされて困っている人々がいる」
『海は人のものではない!』
「それを決めるのはお前じゃない!」
アキトは木刀を抜いて戦う意志を見せる。ニーナも会話の内容に興味なさそうに杖を構える。
『愚か者め!』
海神様が怒りに震えるがアキトはビビらず絶空の構えを取る。
「悪いがその首、取るぜ」
絶空を放ちカマイタチを無数に放ちズタズタにしていく。
『ぐぁあ!』
「ライトニング!」
傷に塩を塗るようにニーナが雷魔法を放ち追撃する。
『がぁ!ま、待て!そちらの言い分を聞こう!』
「だって、どうする?」
ニーナは攻撃を止めて首を傾げる。
実際悪事を何処までやったのか不明であるがアキトにとっては邪魔者でしか無く言い分という上から目線の交渉に少し苛立つ。
「海を支配した気分で大シケにしたり荒らしたり、流通が滞っているんだよ。悪いが存在そのものが危険なんだ」
『決裂か!ならば仕方無し』
ザパーンと湖面を揺らし波を起こしアキト達に攻撃を仕掛けてくる。
「来い氷雨!」
旅行鞄から刀が飛び出し氷雨がアキトの傍らに出現し波を全てを一気に凍らせる。
『馬鹿な!?』
湖面まで氷始めて海神様が完全に封殺される。
「終わりだな…覚悟!」
アキトは刀で再び居合いの構えを取り絶空の姿勢に入る。ニーナと旅行鞄は一歩下がり最後の一撃を見送るのだった。
『やめろぉおー!』
「絶ッ空!」
ーーーーー
アキト達が元気な姿で海賊船に戻ってきて海賊達は大盛り上がりする。
「やったやった!本当にやりやがった!」
「よくやった。銀級というこは凄まじいな…」
船長は大笑いして出迎えられる。
アキトとニーナは腰を下ろして一息入れる。
「コレで二種目のドラゴンスレイヤーだな」
「うん、凄い凄い」
ニーナは手を叩いて笑う。
急に空気感が変わり海賊団から銃口を向けられる二人。
「何のつもりだ?もしかして今になって金貨が惜しくなったか?」
「アンタは危険だ…私がそう判断した」
「勘弁してくれよ、アンタら斬ったら無人島に置き去りじゃないか」
倒されても倒しても詰みとアキトは苦笑いし両手を上げて立ち上がる。
「こういう時に交渉もなんだが俺を殺したいならここに置き去りって手もあったんじゃないか?」
「今気が変わったって事もあるだろう?」
「所詮賊は賊か…互いにいいトコでやめようや」
両手を上げたままでもプレッシャーを放つアキトに海賊達の銃口が震える。
狙われているニーナは欠伸をして喧嘩は辞めておいた方がいいよと忠告する。
「アキト強いよ?辞めたほうがいいよ?」
「だからこそ討たねばならない、我々の未来の為に…!」
覚悟は決まっているようだが中々引き金を引く事が出来ない面々にアキトは溜め息をつく。
「撃ってみろ、暴発したら俺の勝ちだ」
「テメェ!」
一人の海賊がやってやると引き金を引く。途端銃口が爆発して銃を手放す。
「他に撃てるやつはいるか?」
全ての銃口に氷雨の氷が詰まっていて撃てば暴発する最初からアキトの勝つ賭けにもう乗る者はいなく船長が最後に引き金を引くがそれも爆発しアキトはニヤリと笑う。
「俺の勝ちだな。諦めな」
「っく、アンタの勝ちだよ。お前ら帰るぞ!」




