水の国へ
水の国まで夜の休みを除きノンストップで進行する。
ヴァイスから出発しソラの街、グンジョーの街と移動し国境沿いまで五日と掛からず到達する。
ここでも銀の証にビックリされるがあまり気にせずアキトはサイジアの街について確認を取る。
「サイジア?水の国でも奥地の島だ海賊が出るから気をつけな」
島国な水の国は山賊より海賊が出没すると説明を受けてアキトは参ったなと頭を掻く。ニーナは何か問題がと小首を傾げる。
「船旅となると海賊からの攻撃を防ぐ手立てが少なくてな…」
「そーなんだ…じゃあ陸路?」
陸路と聞いて御者が笑う。
「お嬢さん、それは無理だ。海に隔たれている土地が多くて陸路は無いんだよ」
「橋もないの?」
「作っても海賊が壊すからねぇ…」
海賊許すまじとニーナは何故か憤慨する。
アキトは仕方ないと水の国の出入口のパンジの街で御者と別れるのであった。
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船旅になると早速アキトは港を訪れる。
「サイジア?無理無理、あそこ海賊被害で今悲惨だから行けないよ」
「少しでも近くの街まで…」
「長旅は無理だ、そうだな明日の朝に出る便があってそれなら首都ヒガナまでは送れる」
比較的パンジの街から近いと首都を提案されてアキトはそれに乗るのであった。
ニーナが酒場で魚料理に舌鼓を鳴らしている裏でアキトは調査を続ける。
(海賊被害か…鉱石の輸送どころか都市がやられるなんて相当な話だな…)
そんな重大な話が伝わって来ないのも問題があるとアキトはイライラしつつ海賊退治も考えないといけないと頭を悩ませるのであった。
翌朝約束の船にアキト達は乗り込み一気に首都まで向かうのであった。
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首都周りは流石に海賊被害は無く無事にヒガナまで辿り着いた二人は船から降り立ち軽く伸びをする。
「ユラユラして疲れる」
ニーナの言葉にアキトは地に足ついてる者の定めと笑う。
「霊体なら気にならない?」
「さぁな、俺は霊体にはなれないからな」
「私もなりたくてもなれないから意味ナイね」
下らない会話しながら取り敢えず冒険者組合酒場を目指すのであった。
「いらっしゃーい冒険者酒場へようこそ」
元気の良い声が響いて活気の良さを感じさせる。
船賃と生活費を稼ぐ為に任務を探す二人は取り敢えずいつも通り軽めの依頼を受ける。
内容は海岸沿いに出るモンスター退治。楽が出来るとアキトはニーナを連れて仕事へ向かうのであった。
海の水に触れるのは初めてのニーナは初めての海に大興奮。
「海だー」
「港や船の上からでも見ただろ」
「実際に触るのは初めてだからー。冷た!」
はしゃぐのもいいがモンスターに注意してくれとアキトは頭を悩ませる。
ターゲットはサハギンやしびれクラゲなど水棲のモンスターが殆どでアキトは安易に海水に触れるニーナにヒヤヒヤさせられる。
「アキト、敵が出たよ」
海に入ったまま沖を指差しサハギンの群れがこっちへやって来るのが見える。
「海から上がれ、水際は連中の戦場だ」
「はーい」
気の抜けそうな返事にアキトは苦笑いしつつやって来るサハギンに向けて構える。上陸してくるサハギン達は武器を手に今日の獲物だとグギャギャと鳴き声を上げる。
ニーナは杖を構えて嬉しそうに任せておけとアキトに言って雷の魔法を放つ。
「ライトニング!」
バリバリドーンと陸に上がってきたサハギンを一網打尽、全部吹っ飛ばす。その威力の高さにアキトは呆れるほどのパワーに目を丸くする。
「やったね」
「う、うむ…流石だな」
親指を立てるニーナにアキトは親指を立て返すのだった。
採取を実施する中でアキトは他のモンスターが居ないことに少し不思議そうな顔をする。
「なんだろうな、敵が少ないな」
「誰かさんみたいに何処かの誰かが頑張ったのかな?」
「嫌味か!」
そんなやり取りをしつつモンスターの素材を取り終えて二人は酒場へ戻るのであった。
精算を行う中でアキトは先ほど感じた疑問を口にする。
「サハギン以外のモンスターが見当たらなかったが…何かあったのか?」
「もしかしたら…」
受付嬢は少し言い淀みながら「海神様」と口にする。
「海神様…?」
「いえ、何でもないのです。はい、精算完了。また来てね」
銀貨を受け取りアキトはモヤモヤが残る中でニーナと合流する。
宿をニーナに任せてアキトは船を探す事にする。
「サイジアまで行きたいんだが」
「サイジア…?ダメダメ、今は時期が悪い」
「海賊か?」
船乗りはアキトの言葉に首を横に振る。
「海賊なんて些末な事じゃあねぇ…」
「海神様…」
「知ってんなら聞くなよな」
船乗りは不機嫌そうに鼻を鳴らすがアキトは海神について何なのか理解してないので深く探る事にする。
「詳しく知らないんだ。ちょっと名前を小耳に挟んだ程度で…」
「やれやれ、あんまり話すと祟られるぞ…?その名の通り海の神様さ。漁師の伝承に残って海や都市を荒らして回る…コレ以上言わせるな」
「分かった。そんなのが居るんだな…」
船乗りはクワバラクワバラと去っていきアキトは海を眺めてそんな危険なものが海を仕切っていると感じて何とか出来ないものかと考えるが思い浮かばず頭を掻くのであった。
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翌日、依頼書を確認するアキト。
足が見つからない以上はここで待ちぼうけとなる。生活費を何とか工面しながら待機するしかないと稼げる依頼を確認していると一つ気になる仕事があった。
「海を荒らす者の退治…海賊退治か?」
ニーナも覗き込んで依頼料に目を丸くする。
「金貨10枚…!?金貨だって!」
「陸地経由で海賊退治なら楽そうな仕事だな」
決まりだとアキトは受付嬢に紙を見せると海賊退治なんてあったかなと首を傾げられるが取り敢えずあるから承認と写しを受け取りアキト達は出発する。
街から海岸沿いに進むとぽっかり開いた穴があって海賊の隠し砦だとアキトは胸を高鳴らせる。
足を踏み入れるとチンピラ風のバンダナ巻いた海賊が数人立っていて部外者のアキト達を威嚇して来る。
「ここが何処か分かって来たのか?!」
アキトは依頼書を見せつける。
「海賊退治って丁寧に隠し砦の位置まで書いてくれて…」
「あぁ?!俺らが海を荒らす者だとぉ?!」
なんだか話が噛み合わないがアキトは木刀を構え喧嘩の姿勢を見せると舐められてたまるかと海賊達もカットラスを手に取る。
ニーナは温存でアキト一人で三人のカットラス持ちの海賊を軽く打ちのめす。
「こ、コイツ!つえぇ…」
「ボスに報告だ!」
アキトはさせるかと投げナイフに手を掛けるが「待て!」と声が聞こえて来て全員ピタッと止まる。
「その依頼書、私が出したものだ」
「はぁ?!海賊が依頼を?!」
アキトは敵意が無いのを見てナイフから手を離して会話の姿勢に入る。
「腕前は確かなようだな…」
「伊達に銀級でドラゴンスレイヤーしてないからな」
肩書きだけなら誰にも負ける気はしないとアキトは笑って依頼書をもう一度確認する。
「海を荒らす者…海賊じゃないとすると…まさか」
「海神様だ、討伐して欲しい」
「巷は罰当たりってビビってたのに、流石海賊怖い物知らずってか?」
少し挑発的に語るアキトに船長は真剣にアキトを見つめてくる。そして頭を下げる。
「この国にはアレに手出しする根性のあるものは居ない…頼む」
「コッチも足が手に入らなくて足止め食らってる。あんたらが協力してくれるならその海神様とやらをブチのめす手伝いくらいしてやる」
アキトに続いてニーナもウンウンと力強く頷く。
「助かる。では船まで案内しよう」
「あ、姉御ー」
下っ端達が船長を姉御呼びしてアキトは始めて目の前の人が女性だと気付く。
「女だったのか…これは失敬」
「気にするな、お前達、出航の準備だ!海戦だよ!」
部下達はワイワイと忙しなく動き出すのであった




