不便な身体
不死の肉体のニーナは兎の攻撃を受けてもピンピン…してはいなかった。
「痛ーい!」
痛みはそれなりに感じるようで不便そうだった。
アキトは出てくる兎を着実に倒しつつニーナを気遣う。
「大丈夫かッ!?」
「うん、まだ戦える!」
ニーナは火の魔法を巣穴に続けて放ちアキトのサポートを続ける。そのままアキトと二人で仕事を続ける事数十分。
「やっと出てくる兎が居なくなったな」
「はぁ、疲れたー」
二人が焼け焦げた兎の巣穴を確認して埋め直して報告に行く。
小間使いはもう終わったのかと目を丸くして怯えながら兎の巣を確認する。そして死屍累々の光景に歓喜する。
「やったやった!あの兎たちが全滅だ!」
「兎肉使うか?」
「ん?あー、主様に聞いてみます」
ニーナは小首を傾げる。焼き肉パーティーだとアキトはニコッと笑い焼き肉と聞いてニーナは既に焼き肉状態と焼け野原を見つめるのだった。
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農家では不要な兎肉だと棄ててしまえとなりアキトが引き取る事にする。アキトは引き取った兎肉を一匹だけ貰い街の外で昼間にキャンプをしつつジビエ料理として捌き始める。
ニーナはアキトの慣れた手さばきに興味津々な様子だった。
「お肉、お肉ー」
「ちょっと待ってろ」
アキトは隠れて『不思議な旅行人』を発動して鞄から嫁が用意していた特製調合スパイスを取り出す。
それをサッと兎肉に掛けて焼き肉を始める。芳ばしい香りが広がりニーナは目を輝かせる。
「わー!美味しそう!」
「厳選したスパイスだ。美味いぞ」
アキトは焼き上がった骨付き肉をニーナに差し出す。
ニーナはバクッと大口を開いて齧り付いて可愛らしく唸る。
「んー!お肉焼いただけなのに!ピリッと美味しい!」
「焼き肉用スパイスだからな!満足してくれるなら調合しがいもあるってもんだ」
アキトは微笑み自分の分を焼き始める。
ニーナはもう食べ終えてしまいアキトの分をジーッと見つめる。
「じゅるり…」
「ああ?ダメだってこれは俺の!…まだ肉には余裕あるから待ってろって」
アキトのツッコミを受けて我慢すると涎を垂らしながら犬の様に待つニーナなのだった。
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キャンプを終えて依頼の報告をするアキトとニーナ。報告が遅くなったことを心配される。
「予定より遅かったのですが大丈夫でしたか?」
「ああ、ちょっとキャンプしてた」
「キャ、キャンプ…?」
当然困惑されてアキトは苦笑いしているとニーナはお肉美味しかったと無垢に答えてしまい受付嬢は「お肉?」と更に困惑する。
「兎肉!」
「答えんでいい…」
素直にボーパルバニーを食べたと言ってしまいドン引きされる。
話も程々にアキトは次の仕事を求めるが今は稼げる物は無さそうだと言われてアキトは次の拠点を目指す事を視野に入れる。
「ユカリの街かモモの街が此処からだと近いですね」
(紅から紫と桃となると桃のが中央に近付く感じなのかな?)
アキトが何となくイメージで考えると名前のイメージでニーナが挙手する。
「モモがいい!何となく甘そう」
「…食欲で選ぶのか」
「うん」
うんじゃない、とアキトは軽くチョップして少し考えて他の国を見るか更に中心地を目指すかとアキトも真剣に考える。
「取り敢えず馬を見て決めようか」
「はーい」
二人は相談しながら仲良く酒場を後にする。受付嬢からは変な二人組だったと思われるのであった。
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厩舎にて、御者に話をするアキト。
「ユカリかモモ…どっちかに行くのか」
「モモに行く予定だが…?乗ってくのかい?」
賊なんて出ないから護衛としても割引無しということでアキトは支払い乗せてもらうことにする。
「良かったなモモだそうだ」
「やった!」
子供のように喜ぶニーナと共に荷車に乗り込み日も高い内に出発する。
街を出て平和な街道を進みながら御者と会話をする。
「街まではどのぐらい掛かる?」
「宿場町挟んで翌日の昼頃かねぇ、休まなければ夜中には着く」
宿場町には寄るけどなと笑う御者にアキトは笑い返して平和らしいなと話する。
「賊なんていないんだってな」
「ああ、賊なんて湧こうもんならすぐに仕事が出るからな」
「モンスターは?」
御者は苦笑いしてモンスターは別と答える。
「奴らはいくら狩っても出てくるからな」
「出たら護衛するさ」
「助かりますよ旦那ぁ」
話題も程々にゴトゴトと石畳で舗装された道を進む。
宿場町までまだまだあって風景を堪能するアキト、ニーナは少し退屈そうにしているのでアキトは干しベリーを差し出す。
「それ酸っぱいやつ…」
「馬車に酔ったら食べろ。元気なさそうだから気になった」
「別に元気が無いわけじゃなくて暇なだけ」
外の景色が綺麗だぞとアキトは笑うがそこまで興味なさそうにして干しベリーを食べる。
「ヒャー。酸っぱ」
「無理して食わなくてもいいのに」
「暇だからこうでもしないとね」
アキトはこのまま非常食を全て食われそうな気がして荷物を自分の方へ寄せる。
「どうせ新しく買うなら全部食べるよ?」
「…確かに消費期限あるし…って全部はちょっと待て!」
御者は二人のやり取りに大笑いするのであった。
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宿場町に到着して馬車を降りて袋の中身を殆ど食べられてしまいアキトは半泣きする。
ニーナは全然足りない様子でニコニコする。
「お前全部栄養になるのか…?無に消えてない?」
「栄養は分からないけど魔力に変換してる…と思うよ?」
魔力に変換されているなら少しは役に立っているんだとアキトは自分に言い聞かせる。
取り敢えずアキトは保存食の補給をしに向かう。
ニーナは少しの間ならアキトと離れても大丈夫だと別に買い物に向かう。
(干しベリーと干し肉、野菜も取りたいけど野菜は難しいんだよなぁ、フリーズドライとか真空パックがあればなぁ…)
科学の力で何とかなる地球が素晴らしいなとアキトは改めて思うのであった。
(野菜は酒場飯で我慢するか…)
保存食の購入を終えてアキトは次は武具屋を確認する。
(宿場町とはいえこういうのもあるんだな)
ニーナが先に来ていてナイフコーナーを確認していた。
「ニーナ、何見てんだ?」
「ナイフ。ほら、アキトがサバイバルに使ったり投げるのに使ったりで…新しいのが必要かなって」
「コレクターじゃないんだが…良いものがあれば持ち替えるのはそうだが」
チラッと商品を見て鋳造ばかりで「違うな」と呟く。
「何が違うの?」
「鋳造品だな。鍛造、鍛えられたのナイフがあると良かったんだが…」
アキトの言葉を聞いて店主が大笑いする。
「ナイフで鍛造なんて手間かかるだけだからな!ちゃんと鍛えるなら剣など常時使うものじゃないとな、それとも高い金をナイフに払うのか?」
「そう言われるとそうなんだがな、良い物は良いから買うのであって…」
鍛造ナイフを一本持って多様しているとアキトは語る。店主はナイフを見せてもらい火の国の物と知って納得する。
「あそこは刃物なら何でも揃うからな、物好きもいるもんだな」
消耗品は消耗品と割り切る店主に新しく武具を入れ替える必要は無いなとアキトは肩を落とす。ニーナは一応サバイバル用に一本買っておくとアキトは無難な刃渡りのナイフを購入してあげるのであった。
宿に戻った二人は夕食を取ることにしてサラダのアキトに対してニーナはガッツリ食べる。
「食ったものは魔力になるって憑いてる俺からも魔力は食ってるんだよな?」
「んー、どうなんだろう。アキトから離れると霊体になっちゃうし…食べてると思うけど」
「不死なのに不便なのは勿体ないな」
ニーナは「だからこれからもよろしくね」と一生憑いていくと笑い、アキトは幽霊は苦手なんだと内心泣きたくなるのであった。




