不死身だった
アキトの挑発に乗るかのように猿達は次々と飛び掛かってくる。得意な状況に持ち込んだアキトは厳しく躾けるように木刀で打ちのめしていく。
しかし仲間がやられようが関係無しと敵の士気は未だに高くアキトはついに囲まれてしまう。
「閉所で大技使うのはなぁ…」
されど時間を掛けるのも得策ではないと仕方ないと構えを変える。
「疾風突き!」
一点突破し絶空の構えに移り周囲に集まっていた猿達を一撃で一掃する。坑道内は大きく揺れて天井が軋む。
「崩落してくれるなよ…?!」
崩落はしなかったが軋む音にジワッと冷や汗をかく。
猿達は絶空で吹き飛ばされ道が開かれていてアキトはボスへの挑戦だと意気込む。まばらにやってくる雑魚を蹴散らし坑道の最深部を目指す。
新たな敵として別個体なのか長い手足の猿も混じっているが特に問題なく処理する。
真っ直ぐな坑道だがノーム達の作った横穴が厄介な感じになっていてアキトはイライラさせられながら攻略していく。
手書きの地図を作り満足気に行き止まりをメモする。
「そろそろ本命のルートを書きに行きますか」
残された太い道にペンをトントンと当ててニヤニヤしながら歩みを進めるのだった。
ーーーーー
そんなアキトの事などつゆ知らず…少し前の事、ニーナは身体を起こす。
そして自分の身体に起こってる変化に目を見張る。
「薄くなってるぅ!」
アキトから距離を離しすぎたのか半分霊体に戻っていて大慌てで書き置きを確認する。
そこには好きに飲み食いしてろとお金が置かれているがそれどころではないとパニックになる。
しかし幸いにもアキトの位置は昨日行った洞窟だと分かっていて何とかなる前に話さないとと大急ぎで荷物をまとめて出発するのであった。
ーーーーー
アキトは太い分岐点に戻ってきて更に深部へ続いている道を眺める。
モンスターは点在しているが問題無いと木刀を肩に担いで悠々と歩く。
ふと後方が騒がしくなり大慌てて追いかけて来たニーナと目が合う。
「アキトー!大変大変!」
「な、なんだぁ!?」
アキトもまさか追っかけてくるとは思っていなかったので目を丸くする。
「わ、私消えちゃうかも!」
「どうしたんだ一体…」
ニーナは自分の手を見せるがしっかり実体が戻っていて「アレ?」と首を傾げる。
「うーん、起きた時は半透明になってたのに…」
「見間違い…じゃないなら憑いてる俺と距離が離れたからか…」
アキトは冷静に状況を分析するが憑いてるという単語に軽くブルッとする。
なるほどとニーナは納得して一緒に行動すればいいんだとアキトの手を取り引っ張る。
「さっさとボス倒してご飯行こう!」
「食うことしか頭にねぇのかお前は!」
朝食抜いて来ているアキトも腹の虫に鳴かれて仕方なさそうに先を急ぐのであった。
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二人は坑道の奥にて一際大きい筋骨隆々な猿を見つける。ニーナは感嘆の声を漏らす。
「おお、デッカい」
「ボスザルって奴だな…賢そうな顔してないが…」
パワーだけで成り上がったタイプかとアキトは嘲笑する。その感情が伝わったのかボスザルはアキト達の存在に気付いて猿とは思えない叫び声を上げる。
「怪獣だな…」
「かい…じゅう?」
「生物の枠から外れた…まぁモンスターの中のモンスターってやつだ」
よくわからないとニーナにツッコまれてアキトはタジタジになるが兎に角目の前の敵は多少強敵という事だと伝えるとニーナは本気出すと魔法で先制攻撃を仕掛ける。
「ファイアボール!」
渾身の火の玉は腕でガードされてニーナは「おお」とまた感嘆する。アキトもそれを見て木刀じゃ厳しいかもなと思うのであった。
ボスザルは腕を振り上げて床をドンドンとドラミングする様に叩き周囲から仲間を文字通り叩き起こす。雑魚も一緒になってアキト達に襲い掛かる。
多少広い空間なら行けるとアキトはニーナを下がらせて絶空の姿勢に入る。
「雑魚チラシなら任せろ。絶空!」
風の刃が周囲を切り刻み洞窟内が鳴動する。その光景にニーナが三度目の感嘆。アキトの実力の高さを改めて知らされる。
「アキトってやっぱりスゴイんだね」
「ボスザルは…耐えたか」
腕をクロスさせてカマイタチから顔面を守りズタボロになりながらも立っている。アキトの疲れを見て取りニーナは任せてと水の魔法を放つ。
「アクアジェット!」
複数の水弾がボスザルを襲いボスザルは防戦一方の中でニーナは追撃に雷の魔法を放つ。
「ライトニングストーム!」
水と雷のシナジー魔法によりボスザルは身体を雷で貫かれて絶命する。
「どんなもんですか!」
「やるじゃないか」
アキトに褒められてニーナは照れながらどんなもんですかと鼻を高くするのであった。
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調査を終えてアキトは冒険者酒場で報告書作成をする。その横でニーナは酒場飯を堪能する。
「運動の後の刺激的な味は格別だね」
「俺の分残しとけよ?」
全部平らげそうな勢いのニーナを注意するが何処吹く風といった様子で美味しい美味しいと食べ進める。
(やれやれ怪物なのはコイツの胃袋も変わらないな…)
報告書を提出するアキトは報酬を受け取りボス退治の臨時収入も得るのであった。
この収入によりニーナは皮から青銅への昇級が認められてコレで少しは馬鹿にされないとニーナは喜ぶのであった。
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次の仕事を探すアキト、受付嬢から新たに発布しようとしている仕事について案内される。
「銀級のアキトさんが受けてくれると心強いのですが…」
「どれどれ…」
アキトはヒスィの街でもあった農地の防衛の依頼に眉間にシワが寄って指で眉間を押さえる。
「どうしたの?」
「ああ、兎狩り…」
「兎?」
ボーパルバニーの脅威をアキトはどう伝えるかと頭を悩ませる。
「その兎が厄介だがな…首切り兎って呼ばれててな」
「く、首切り!?」
ニーナはその単語に驚愕し受付嬢は知ってたかと微妙な顔をする。
「正直下手な雑魚なんかより厄介だぞ」
「ご存知なら辞めてもいいんですが…」
「他の奴がやったら怪我で済むか…というかヒスィでは誰も受けてなかったな」
アキトは受けるよと依頼書を受け取る。ニーナはちょっと怯えているようだが任せておけとアキトは親指を立てるのだった。
クレナイの街の中心地から少し離れた農家へ向かう。農家では兎に荒らされて困っていると伝えられてアキトはその兎がボーパルバニーではないかと質問する。
「そ、それは…」
農家の主は非常に気不味そうに言葉を濁しアキトは軽く溜め息をついてやってやると答える。ニーナはまだ首切りという単語にビビっていた。
実際の農地に移動した二人はビビっている小間使いの案内人の案内で兎の巣穴の位置まで向かう。
「む、下がっていろ」
小間使いは慌てて巣穴から離れる。急に飛び出してくる兎は鋭い歯と爪を振り回して小間使いの立っていた場所を攻撃する。
「ひぃ!」
「後は任せておけ」
アキトは案内人を逃がして木刀を使い飛び出た兎に一撃を与えて倒す。
「耐久は低い、ニーナ、巣穴に魔法を打ち込め」
「え?!は、はい!えーっとファイヤー!」
巣穴の入り口から火を放ち地下から巣穴を焼き尽くそうとする。燃やされてたまるかと次々と巣穴から飛び出てくる兎をアキトは迎え撃つ。
モグラ叩きの要領で戦えば苦労はしないと素早く討ち取っていく。
ニーナもそんなにコイツら恐ろしくないなと油断していると兎が一匹ぴょんと飛び出す。
「ニーナっ!」
アキトが叫ぶとニーナはハッとするがニーナはその鋭い歯を首に受けるが血が吹き出す事なく不死の肉体を発揮する。
「あれ、死んでない?!」
「…既に死んでいるからか…無敵か!?」
ニーナは襲ってきた兎にエイッと魔法をブツケて倒すのだった。




