金の条件
今日も今日とて仕事を探しているアキト、昨日の詐称の問題もあって訝しみながら内容を精査しながら仕事を選んでいると兵士が少し慌てた様子で依頼を発注しにやって来る。
「急募の仕事だ、鉄級以上で頼む!」
内容は急いでいて語られなかったが兵士からということは国からの仕事かとアキトはすぐに依頼を受ける事にする。
受付嬢はまだ依頼書の写しが作れていないということでもう少し待てと伝えてくる。
銀級の証を見せると兵士が驚きつつ毅然とした態度で概要を話し始める。
「川辺からサハギンが大量に出現して兵士詰め所を攻撃して負傷者多数、兵士だけでは抑えきれないと仕方なく…」
兵士にも結構なプライドがあるらしくすこし上から目線な言い方をする。
兎に角サハギンの侵攻を止めなくてはならないと物量のぶつかり合いに加勢してほしいということでアキトは大きく頷くと兵士は急いで酒場を飛び出して行った。
飲んだくれな他の冒険者達は兵士の依頼かと辟易しているようだったが急を要すると言われて仕方なく席を立つのが数人といったところだった。
少しして受付嬢が依頼の写しを魔法で作って参加者に配りだす。
内容は兵士の語った通りで劣勢な事が強調されていてアキトは急ぎ向かう事になる。
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川岸からやって来たサハギン達は門まで到達していて堀の川を利用して上手く立ち回っていた。
「堀の川を使われてるのか…面倒だな」
アキトは戦況を分析してみると拮抗しているようだった。
冒険者は兎に角門から前に出て対応してくれと使い捨ての駒扱いで傭兵らしく戦えと兵士達に言われてやっぱりなと言いたげな顔をする者多数であった。
(誰かがいかないと動かないな…ファーストペンギンってのになるしかないか)
アキトが一気に飛び出すと冒険者がまばらに飛び出していく。
堀からの魔法攻撃を回避しつつ待機している大群に突っ込んでいく。
他の冒険者はアキトの無謀な動きに付き合ってられないと流石に特攻はせずにじわじわと戦線を押し上げる様に戦闘を開始する。
アキトはどんどん深く斬り込んでいきサハギン側を一気に混乱させていく。
「オラオラァ!」
木刀でバシバシとサハギンをシバいていき集団内で無双する。サハギンも負けてられないと黒曜石の槍や短刀を振り回しアキトを狙ってくるが技量の差がハッキリ出て一撃も当てられずフルボッコにされていく。
アキトの活躍でサハギン側の勢いが無くなり戦線が崩壊し一気に攻勢に出る冒険者達。
兵士達は自分達が出来なかった事をやり始める冒険者達を苦々しい顔をして見つめてタイミングを見計らい攻勢に出る。
「行け行けー!押し返せ!」
堀に残ったサハギン達を倒しながら兵士達も戦況に参加し一気にサハギン側は壊滅して撤退が始まる。
アキトはこれ以上やる必要はないなと逃げ出すサハギンを追うことはせずに他の冒険者達と共に帰還するのだった。
圧倒的な速度で鎮圧した冒険者達を兵士達は労いの言葉で出迎える。
「よくやった。報酬は組合から受け取ってくれ」
たった数十分で事態が落ち着いて冒険者達は楽な仕事と歓喜しあっていた。
一番奮戦していたアキトは涼しい顔で報酬受け取りの列に並ぶ。冒険者の一人が最初に飛び出したアキトに気付いて声を掛けてくる。
「アンタ最初に切り込んで行った人だよな。無傷かよ?」
「あんなのボーパルバニーの群れに比べたら死線のレベルが違うな」
「ぼ、ボーパルバニーの群れ…」
冒険者はブルッと身震いしてアキトが常人離れしていると気付かされるのであった。
アキトはケラケラと笑ってサハギンなんて今まで相手してきた奴に比べたら楽だとちょっと調子に乗って武勇伝を語りそうになる。
「アンタ何者なんだよ…」
「ちょっとベテランな?冒険者?」
疑問形で済ませて銀の証は見せないようにして報酬の銀貨10枚を受け取る。
待機していた列が落ち着いてからアキトは受付嬢ととある事について会話する。
「冒険者証を金にしたいんだがどれぐらい国からの依頼を受ければいいんだ?」
「えっ!?金ですか!?…あの、すみません金は中央の依頼でないと昇級の辞令が出ないんです…各国は銀までしか承認できないんですよ」
なるほどとアキトは頷く。中央政府の任務を受けて認可してもらわないといけないと知り、そんな仕事普通にある訳がないとアキトは諦めて中央へ向かう算段を立て始める。
(金になる為には時間を掛けて中央を目指さないとダメか…厄介だな)
「あの、中央からのお仕事なら一応ありますよ」
「え?あるの?じゃあそれ受けます」
アキトは銀の証を見せて受付嬢に驚かれつつ依頼書を取り出される。
『逃げ出した死霊術師の捕縛』
「はい、こちらになります」
「おう、辞めていいか?」
死霊術師と聞いてアキトは一気に冷めた顔をする。
受付嬢はびっくりしながら「なんで!」とツッコミする。
「いや、いい思い出の無い話なんで…」
「受けて下さいよ、これ結構日付経ってるんで調査だけでも…」
アキトは懇願されて仕方なさそうに依頼書を受け取り調査だけならと結果に期待しないでくれよと目線で伝えるのであった。
アキトは依頼書の内容を再確認して居場所は分かってるのになんで誰一人向かわないんだ。と内心ツッコミを入れつつ準備を整える。
(一応ロザリオとか耐霊装備整えておこう)
ゴースト対策だけは抜かりなく行っておかないとどうしょうもないとアキトは雑貨屋を漁って聖水やロザリオ等を買い付けておくのであった。
準備は整ったとまだ日の高い内に目撃情報のあった廃墟の屋敷を目指す。廃墟に住み着いたモンスター討伐ついでに発見されたそうだが返り討ちに合ったそうだ。
夕刻になってその廃墟を前に到着しアキトはやっぱり朝から出発するべきだったと最悪なタイミングで到着した事を後悔する。
取り敢えず門戸を叩いてゆっくりと中に侵入する。
モンスターの気配はないが人が住み着いているのか埃は少なめで確実にまだ何者かがいることを予見させる。
(嫌な感じはする…警戒は怠るなよ…?)
自分に言い聞かせながら現場を調査し始める。
アキトはゆっくりと大きな音を立てないように動き右手沿いに進み扉をゆっくりと開ける。埃の積もった部屋、外れだとゆっくりと扉を閉じる。
背後に不意に気配を感じて鳥肌を立てながらバッと振り返る。しかし何も居ない。
(クソッ!調査だけで帰るんじゃなかったのか?なんで居るんだよ帰らせてくれ!)
未だに居着いている死霊術師に文句を呟きつつまた右手沿いに進む。
幾つかの部屋を調べた結果ダイニングとキッチンは使われた形跡はあるが一階は殆ど使われていない様子であった。
寝室や書斎のある二階が本命とアキトは日も落ちて灯りの少ない中で探索を続けなければならない事に深く溜め息をつくのであった。
二階に上り今度は左手沿いに調べて行くことにする。
相変わらず背後は気になるが下手に振り返るのも怖いとアキトは前だけ向くことにする。
ハズレの部屋を幾つか確認して書斎を見つける。どうやらココは使われているようで本が幾つか調べられた痕跡があった。
(死霊術師が読むような本ではないな…これは娯楽小説か?…いや暇だからってそんな事あるか?)
研究などする訳でもなく単純に暇だからと時間潰しな本が選ばれていてアキトは目を丸くする。
ガタンと扉の方から音がしてアキトはビクッとして木刀に手を当てる。
「な、何か用ですか…?」
長い黒紫な髪の女性が立っていてアキトの存在を怪訝そうに見つめてくるのであった。




