二回目の賊退治
闇夜の平原を駆けるアキト、狙いの賊は少し先の山の廃砦を塒にしているとの話。
(駆け抜けるだけなら加速も便利だな)
夜行性のモンスター達等には目もくれず一気に移動する。
普段なら一日程掛けて移動するであろう道のり、急いでいるアキトは一時間にまで短縮する加速を見せるのであった。
山の麓まで到達し目当ての廃砦には灯りが灯っていて夜もしっかり警備していると分かりアキトはゆっくりと近付くとこにする。
死角を利用して壁伝いにゆっくりと裏の塀から侵入する算段を立てる。
アキトは土手から軽くジャンプして塀に手を掛けて暗がりから侵入する。
(失礼しますよっと…大暴れしてもいいけど逃げられたら無意味だしな)
物陰からこっそり守備の様子を確認する。
見張り兵は見える範囲で数人、厳重とまではいかないが多めに見える。
(何かあったのか…?警備が固めな気がするな…こんなもんか?)
少し聴き耳を立ててみることにする。
「腹ぁ減ったなぁ…」
「馬車襲うのしくじらなきゃなぁ…」
愚痴が聞こえてきて最近馬車を襲って失敗したらしい。
(策に失敗して賊の討伐令が発布される事を見越しての警備か、飯のタネ潰されて少し士気も下がり気味って所か)
分析完了とアキトは警備の薄そうな所を縫うように進み兵糧に火を付ける事にする。
(悪いがもっと飢えて貰おうか…)
灯りの松明を使い事故を装い火事を起こす。やることが小悪党のそれだがまずは心を攻める事にする。
アキトはやることやったら一旦隠れることにして様子を窺う。
「火事だー!」
「水!水持って来い!」
貴重な水と飯を失う賊にとっては最悪の状況で怒号が飛び交う。
管理と警備は何してたとリーダーと思しき男が叫び見せしめに一人身内を斬り殺す。
(結構過激なリーダーだな、苛立ってるからか?…まぁ大将首がわかれば後は狩るだけ…)
もう少し行く末を見守っても良かったが仕事をしないとなとアキトは騒ぎが落ち着くのを見守りボスがどこへ行くのかを見送る。
(あの高い建物が根城か…)
砦内の見晴らしの良い棟がボスの根城と確認してアキトはそこを何とか目指そうとする。だが警備が更に強化されアキトは正面突破を考え始める。
(別に強くないだろうしそろそろ暴れるのも一考…)
スニーキングで警備隊を倒していってもいいが木刀振り回したい欲も出てきて二律背反の気持ちに揺れる。取り敢えず近くに来ていた一人を投擲で仕留め大暴れするかと意気揚々と駆け出す。
その早さたるや警鐘を鳴らす間もなく見張り兵を次々に気絶させていき広場に出てようやく敵襲の警鐘が鳴らされる。
「何だぁ!?火事の次は…いや、テメェが犯人か!」
ボスが大鉈を振り回して棟から出てきてアキトに有無を言わさず攻撃してくる。
アキトはサッと避けてカウンターを叩き込むが頑強なのか硬さに木刀を持つ手が痺れる。
「骨折る勢いだったはずだが…かてぇな」
「テメェもそれなりにやるようだがギフト『頑強』の前じゃ無意味だって知りな!」
「なに?前にもそんな奴いたな…毒で死んだが。前世がソイツって事ある?」
ギフト、ようはスキルや特殊能力持ち。数多の世界を旅したアキトにとっては面倒臭くて嫌いな要素の一つである。
眼の前の男は頑丈さが取り柄の木偶の坊だとアキトは溜め息をつく。当然挑発と捉えられ敵は逆上する。
「テメェ!ぶっ殺す!」
大鉈を振り回し周りの物をズタズタにしながらアキトに襲い掛かるが避けに徹するアキトには掠りもしない。
「もう息が上がってるぞ?鍛錬不足だな」
「ゼェゼェ…馬鹿な!ギフト持ちか!?」
「お前が攻撃下手くそなだけだ」
アキトが息切れしている敵の大将の顎を木刀でかち上げる。大きく仰け反りはするがダメージは浅いようでアキトはまた溜め息をつく。
周りの一般山賊達がボスが一方的にやられてるのを見て加勢に入るがアキトは雑魚は引っ込んでろと顔面に一撃打ち込み昏倒させていく。
「面倒臭いから一騎討ちにさせてくれよな…」
「ナメやがってぇ!」
また大鉈を振り回す攻撃、昏倒していた仲間ごとアキトを切り裂こうとする。
「あーあ、仲間ごとやっちゃって…」
「黙れぇ!」
速度でも力でも圧倒している事を見せつけてやるとアキトは大鉈を木刀で弾き返す。
「なっ!?」
武器が弾かれ身体が仰け反った山賊大将は目を見開く。アキトはすかさず首に木刀を一突きし大将の呼吸を潰す。
「コヒュ…」
「幾ら頑丈でも鍛えられない箇所ってのはあってな…例えば内臓を晒してる…」
アキトは大将の防具の上から金的に一撃かまし膝を付かせる。さらに関節部位に激しく木刀を打ち付ける。
「筋肉が薄くて骨も外れている関節部!」
「クハッ…」
牙突の構えをしてアキトは顔面を狙う。
「眼球ってのもあるぜ」
突きはギリギリで顔を逸らし眼球から狙いが外れる。
ボスが負けそうだとなって秘策なのか飼っているモンスター達を解き放ち一緒になってアキトを攻撃してくる。
(ダイアウルフ?!あー、もしかして先日の賊はここの一味?)
何となく横の繋がりを感じてアキトはモンスターの相手をする。
「仕方ないな…ちょっと奥義を見せるか…」
流石に数が数だとアキトは木刀を居合の構えに呼吸を整える。一斉に攻めてくる賊とモンスターを一網打尽にする必殺技を放つ。
「絶空!」
凄まじい突風とカマイタチがアキトの正面に発生しモンスターと賊はズタズタに引き裂かれてしまう。
その様子をみた大将はズタボロな自分の身体を引きずって逃げ出そうとする。
「おいおい逃げ出すのかよ?お前らは俺が目をつけた時点で終わりなんだよ。逃がすかよ」
「ま、待て!金も物資もやる!い、命だけは!」
「それが大将の吐くセリフか?ダサいにも程があるぞ」
すでに壊滅状態の山賊団、アキトは木刀を大将に向ける。
「デッドオアアライブ…生死を問わず…賞金首のアンタに掛けられてる条件だ」
「ひ、ひぃ!」
逃げ出そうとする大将の後頭部に大きく一打を打ち込む。
「ああ、後、脳味噌も鍛えられないんだったな」
大将はそのまま脳震盪を起こし地に伏すのであった。
アキトはそこら辺の縄で大将をグルグルの簀巻きにして持ち帰る準備をする。
(物資なんかは…まぁ取ってもそんなに使えそうな物は無さそうだし放置するか…それにどうせ盗品だし)
山賊の抱え込んだ物資なんかには手を付けずアキトは大将首だけ連れて帰る事にするのであった。
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夜明け前にカハクの街に帰ってきてアキトは門番に簀巻きの山賊大将を見せつけて親指を立てて狩ったと伝える。
「え。あ…一人で?」
「一人、いやぁギフト持ちとか言っても小物だった」
門番は一人で山賊団を壊滅させたアキトに戦々恐々とした顔をして取り敢えず身柄の受け取りを行うのであった。
「討伐してきましたよ」
「へっ?!半日ですよ?!どうやって移動したんですか!?」
「あー…えーっと全力で馬借りて走って全力でボコって全力で帰ってきました!」
苦しい言い訳をしつつ酒場に戻り報酬を受け取るとアキトは鉄に上がれるかとさっさとランクアップの事を尋ねる。規定の賞金に達していないアキトはまだランクアップ出来ないが実力は認められていて裏では一人で山賊討伐やり遂げた馬鹿扱いされるのであった。
「じゃあ結局小物で地道に稼ぐのが主流って事か…」
「青銅になっているので西の洞窟に入れます。そこの方が平原よりいい賞金になりますよ」
「成る程、鉄には早くなりたいしそこ行くか」
アキトは中一日設けてオススメされた西の洞窟と言われる場所で狩りをする事にするのであった。




