守るべきモノ
「百合の花浮かぶ風呂回と思ったか?残念だったな!」
大衆浴場、男性風呂に入るアキトは虚空に向かって得意気に語りレックスから気味悪がられる。
「誰に向けてるんですか?」
「言ったろ?神鳴が監視してるって」
「そのカナリって男性なんですか?」
アキトは少し沈黙してコレぐらいの女児と嗤う。女児と聞いてドン引きするが年齢は馬鹿げた数字だとアキトは補足しておく。
騒がしいと他の客からも奇異の目を向けられてアキトは仕方ないと大人しく湯を堪能する。
レックスは壁を隔てた向こう側の花園はどうなっているのかとソワソワした様子で右往左往する。
「そんなキョロキョロするなよ、堂々としろ」
「えっと、いや…その…」
青いとアキトは鼻で笑ってレックスにアドバイスする。
「お前の好感度なら女子組にアプローチすれば問題無いって、無理に覗きなんて考えるなよ」
「覗きだなんて!」
荒げた声に周りからの視線を受けてレックスは恥ずかしそうに縮こまる。
騒がしさから注目を集めたのかアキトを見つけたのか先日ならず者の部下の謝罪をしてきたパーティのリーダーがアキトとレックスに近付いてくる。
「どうも、レベル上がっていないようで」
「ん?あー、ははは。なんか呪いじゃないかって言われちまったよ」
レックスは不思議そうに二人の顔を交互に見て「お知り合いですか?」とアキトに尋ねる。
「まぁ、ちょっとな…?名前は聞いてないが」
「にわかだな。俺は帝都で一番の冒険者のタロス。少しは他の冒険者の事を調べた方がいいぞ?アキトくん」
若い男は鼻を高くしてレックスをジッと見つめる。新入りには優しくとニコッと笑って挨拶をする。
「帝都へようこそ。名物の大衆浴場はどうかな?」
「あ、はい。凄いですね。流石帝国って…」
タロスは大きく頷いて楽しんで行ってくれと代表のような事を口にして一足先に風呂を後にする。
アキトは乱暴者な部下の姿は見当たらない事にパーティの中でも格差があるんだなとボヤいてタロスは信用ならないとレックスに注意しておく。
「え?イイ人じゃないですか?!」
「そう見えたか?お人好しだな。目を付けられたと思うべきだな。いや、俺のせいか?」
「何やらかしたんですか…アキトさん」
自分の責じゃないとアキトはならず者風の冒険者に襲われたのを返り討ちにしただけと語る。それは許せないと正義感を燃やすがアキトは財布は見せびらかすなと教訓を教えるのであった。
「さ、財布?」
「ちょっとレベルに見合わない金持ってカモがネギ背負ってるように見えたそうだ」
「カモ?ネギ?」
諺に首を傾げられるが兎に角気を付けろとアキトは続ける。
「金だけじゃないぞ?見合わないモノって思われたら略奪するような奴もいる。そういう世の中って事だ」
武器や防具、そして侍らせる女性。そこまで言うとレックスは顔を赤くするが守るべき者とアキトの言葉に使命感を燃やすのであった。
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風呂から出てさっぱりした一行、女子達は何故か気合いの入っているレックスの表情を不思議がっていた。
アキトはラーナが風呂に入った事で皇女とバレなかったか心配したが誰も気にしていなかったと笑われる。
「表には出てませんでしたので気付かれませんでした」
「マジの箱入り娘だったのか」
肌も髪も整っている事を他の二人は羨ましがりレックスは彼女等の裸を想像して顔を赤くしてふらつく。
ダラシない奴だなとアキトは笑うが何か吹き込んだなとシシーから足蹴にされる。
「いってーな!年相応の反応だろ?!」
スケベと何故かアキトが攻撃されるが話を変えようと城まで歩きながら身の上話をする事にする。
「皇女様は成り行きってのは聞いたが三人はどういう関係なんだ?」
「はぁ?!オッサンに関係…」
ラーナも興味あると話に乗っかり語らないといけない空気感になりシシーは口を尖らせて答える。
「王都で暫くパーティ組んでそれから固定」
アリスはレックスに肩を貸しながら勝ち誇った顔をする。
「レックスとは同郷の幼馴染」
「っく!」
シシーは悔しそうに拳を握る。意外とギスギス仕掛けていてレックスの苦労を想像してアキトはゲラゲラ笑ってまたシシーに足を蹴られる。
ダウンしているレックスの代わりにアキトに矛先が向いて自分の事を聞かれて少し考えながら答える。
「オッサン!アンタも話せ!」
「俺ぇ?…そうだな。救世主!いってぇ!」
「ふざけるなーっ!」
また蹴られてアキトは三回目は許さんぞと怒る。
「仏の顔も…あ、いや…あれは三回目までセーフか?」
また諺を口にして伝わらずにショックを受けつつもう一度真面目に答える。
「俺は世界の危機ってのを聞き付けて動いてる存在なんだよ。割とマジ、一期一会で…一回の出会いだけじゃないからちゃんと教えてるんだぞ?」
頭がおかしいとシシーは頭を指差して呆れるが皇女様は是非帝国に協力して欲しいと目を輝かせるがシシーはやめとけと身振り手振りする。
「レベル1の成長しないオッサンよ!?信じちゃ駄目だって」
「でも実力は確かでしょう?」
「それは…でも信用なんて得られないわよ!」
アキトもそのシシーの言葉に同意して信用の得られない肩書きに落胆してしまう。
レベル等の概念を知らないラーナはアキトの頭の上の数字を不思議そうに見つめるのであった。
ーーーーー
そんなこんな会話をしている間にレックスは復活して城の門に到着して門番にラーナは胸を張って帰還した事を告げる。
「第二皇女ラーナフィーユ・ダーツ・ディメン、帰還致しました」
護衛が様変わりして徒歩での帰還に門番達は顔を見合わせて偽物ではないかと会話を始めるが不在と聞き確認の為にすぐに内側に案内される。
城内に入る一行、皇女以外は歓迎されていない様子だったが護衛としての役目を果たしたとして仕方なく同席を許される。
ラーナの父、皇帝が娘の帰還を立ち上がり真剣に喜ぶ。
「おお!ラーナ!よくぞ無事で!予定より帰還が遅れて心配しておったのだ!しかし、護衛が変わっているようだが…」
「馬車がモンスターに襲われ…サー・ジークとケイトは…」
襲撃された事と護衛の名前を口にして皇帝は落胆した様に椅子に座り込む。
「そうかジークが…彼はよく我が帝国に尽くしてくれた…ケイトもラーナの姉のように…」
しんみりしたように話す皇帝であったが年老いた側近は雑談はそこ迄にと政務が残っているとアピールする。
皇帝は少し嫌そうな顔をするが仕方ないとレックス達に感謝する。
「娘をよくぞ無事に送り届けた。勲章を授けよう!」
アキトは素早くレックスの背中を押してレックスは代表として皇帝の前に跪いて感謝の言葉を述べる。
「ありがたき幸せ!」
アキトは周囲の高官達のコソコソ会話する姿を見てやはり何か裏で起こっている事を察し身の振り方を考える。
そんな考えは知らずに勲章をレックスが受取胸にバッジを付けてはしゃいで祝福されていた。
解散する直前、アキトは立ち上がり不躾と承知で皇帝に救世主としての任を願い出る。
「皇帝様、不躾を承知で困り事があれば冒険者組合を通して…いえ、通さずとも依頼をいただけるなら!」
レベル1と鼻で笑う高官達だったが邪魔な勲章持ち達も消せると踏んだのか喜んで話し始める。
「陛下、件の困り事、彼らに任せてみては?」
「そうですな。ラーナフィーユ様をお守りした実績、無碍には出来ませんし」
レックス達も巻き込む事になるのかとアキトは内心顔を顰めるが表に出す訳にはいかないと我慢する。
レックスは大仕事に気を引き締めた顔をするが女性陣からはアキトが余計な事をしたと睨んでくる。
「では冒険者組合に依頼を…」
皇帝は渋々頷いてレックス達に頼りにしていると期待の言葉を掛けてこの場の解散を宣言するのであった。




