『箱』の力
ヨロズから神の詳細を聞いた生徒達は戦々恐々とする。
「さっきのは触れられたら負け、無限のモンスター、無限の体力、無限の魔法…インチキだらけね」
「インチキだからな」
エツコが要約した中でも触れなくても負けになる二柱が注目を集める。
「竜と神鳴というのは特に厄介ですね…触れずとも負けの可能性大有りです」
「分かっているじゃないか。アキトのやつもその二柱には苦戦必至だ」
「苦戦で済むんですか…?」
呆気にとられる生徒達。所詮はイミテーションとヨロズも偽神の特性を調査資料を元に語る。
「魔力の総量はコアに依存する。神の権能も魔力に依存していると思われる」
「つまりコアの限界が神の限界…」
「その通り、アキトはその上を行っている…と自負しているからな」
それはそれでどうなのかと疑問に思われるアキトなのであった。
丁度アキトが座学会を見に来て過去のデータを見られてることに気恥ずかしさを見せる。
「なんだよ、俺のデータかよ」
「地下へ挑むのに必要だったからね」
「で、まだ行くつもりなのか?」
生徒達はビビって思い悩む姿勢を見せるがヨロズはまだ行けると豪語する。
「敵の量こそ問題だがそこさえ超えれば余裕…と読んでいる」
ヨロズの説得力は『箱』にすべてを委ねている様子、アキトは『箱』を使ったのかと質問する。
「まだ…っ、まさか動かないとでも?」
「土壇場で動かないは困るだろ試運転させとけ」
それもそうだと翌日新たにダンジョン攻略を予約する事にするのであった。
ーーーーー
『箱』…
それは地球の未来世界が作り出した神の力を模して並行世界の地球を制圧せんとする為の兵器。
ヨロズの持つ『箱』は神威が更にその未来の兵器を模して機能をイジったもので魔力の遮断という必殺の機能が備わっている。
尚、未来と和解した今は真四角の魔法を利用した通信機器として神の権能の機能を削ぎ落とし一般販売されているスマホの代替品のようになっているが大きさや持ち運びの点でスマホより不人気という残念な事になっている。
開発者曰く『板より箱の方が機能詰め込めるだろ!…いやそもそも箱じゃない!テレボックス!』とかなんだとか。
神威は名前を付けなかったから開ければ魔法を無力化できるパンドラの『箱』なのである。その先に希望は残るのかはいまだ見えない…
ーーーーー
『『箱』を使うだけならどこでも試運転できるだろう?』
神威はダンジョン挑戦前のヨロズを無線越しで止めようとするが決意は固いようだった。
「土壇場で機能してこそのモノだ。それに地上なら無くても何とかなる」
『やれやれ…無茶をする』
K班の生徒も同伴していれば何とかなる。という精神で港から少し離れた中洲の多いタワマンエリアを探索する。
そびえ立つタワーマンションに生徒達は首を上向きにする。
「たけぇ…何人収容できるんだ?」
ワタルが首に手を当てて呟く。ヨロズはチラッと確認し答える。
「さあな、二千いや、三千世帯は…」
「世帯?」
馴染みのない言葉にK班は微妙な顔をする。仕方ないとヨロズは数字を具体的にする。
「家族という単位だ。おおよそ三から五人で計上する」
「なるほど、じゃあこれ一つで一万人は生活出来るのか…すげぇなタワマン」
ワタルの言葉に他のメンバーも頷く。
「そんなに上ばかり見上げていたら足下掬われるぞ?」
タワマンばかりを見上げる生徒達をヨロズは苦笑いで注意するのであった。
小動物型のモンスターが獲物を見つけたと寄って来て全員戦闘態勢に入る。
「珍しいな、獣型だ」
『鋭い牙や爪に注意してくれ』
神威はデータを確認して注意を促す。
「「了解」」
通信を聞いて全員が気を引き締めて攻撃を受ける前に対処していく。
「かわいいウサギさんなのになー。綿毛でアクセ作れないかな?」
マヒロが冗談を言うが仕留めたモンスターは消滅してしまい素材なんてものは残らなかった。
そんな事よりさっさと始末しろとケンタは拳でぶん殴り野犬型を撃破する。
暫く戦闘が続いて小型の獣型を殲滅し終えてヨロズはメンバーの確認をする。
「怪我は無いか?」
ケンタは二の腕を軽く触れて掠り傷程度と答える。ヨロズは一応手当てしとけと包帯を投げ渡す。
ヒナコが受け取りケンタの腕に少しキツめに巻く。
「拳なんて無茶するからやで?」
「うっさいわ、これがワイのやり方や!」
「センセより弱いんやからもっとしっかりせぇ!」
口答えにやれやれとヒナコは包帯を縛り終えてバチンと傷口近くを叩く。
「痛っつ!」
「ナマ言うからや!」
治療を見届けたヨロズは次はセオリー通りなら中型だぞとメンバーの気を引き締めさせる。
コアの反応があるタワマンの中洲へ脚を踏み入れる一行の前にヌエとハーピィの混成部隊が立ち塞がる。
待ってましたと全員準備万端と打ち合わせどおりのフォーメーションでチームワークを発揮する。
「さっきの小さいのよりやりやすうて助かるわ!コアバースト!」
バーストしたヒナコが鉄扇でヌエの額を打ち付けて昏倒させサッと次の敵に狙いを変えて昏倒した敵をナオが魔法で燃やす。ケンタとワタルも連携を取ってヌエに当たりマヒロはミニオンと共にハーピィを対処する。
ヨロズは生徒達の隙を出来る限り埋めるよう立ち回る。着実に数を減らす敵、映像の地下の密度に比べると大分楽だなと生徒達含めヨロズも感じるのであった。
中型の群れを蹴散らし最後のヌエを仕留めタワマンの入り口に到達する。
『コアは…中だな』
「屋内戦ですか…天井に注意ですかね」
口にしたワタルを始め武器を使う面々は狭い場所は嫌だなと顔を顰める。
一行は中へ入ると意外とロビーは広く天井も数階吹き抜けになっていて心配は杞憂だったと思う。しかしその分敵も大型でありアーマードワイバーンが待機していた。
ガチガチに固めた鱗で飛ぶのを捨てたそれに一同武器を構える。
ヨロズはケンタに自分に合わせるように伝える。
「拳ならではの技を見せる。ワタシに合わせろ」
「はい!」
ナオが光でワイバーンの目潰しをして怯ませる。そのタイミングでヨロズとケンタは左右に別れてヨロズは頭部、ケンタは横っ腹の固い鱗に拳を叩き込む。
「「鎧通し!」」
ヨロズは鱗越しに内部へ直接衝撃を伝える技を使いケンタも教わったその技を拙いながらも披露する。
頭部への衝撃は骨をも超えて脳震盪を引き起こしフラフラにさせる。
更に大きな隙が出来たと全員で普段は狙いづらい鱗の薄い顎や腹部に攻撃を叩き込む。
ダメージが蓄積されフラフラになったワイバーンにヨロズはトドメを刺そうと頭蓋割りの奥義を放ち弾けさせ倒してしまう。
「お疲れ様だ。呼吸を整える、スゥー、ハァー」
ヨロズは気を練り直すように声に出るよう深呼吸する。
これから最後のアビスコアの精霊モドキと戦い『箱』のテストも行うと説明を行う。
生徒達も深呼吸して準備が完了したのを確認しヨロズはコアへ近付く。煌々と赤く輝くコア、衝撃波を放ちヨロズは軽く後ろへ後退りする。
「敵は!?」
吹き抜けを悠々と泳ぐ鮫が出現する。
『フォルネウス!雷撃に注意してくれ!』
鮫なのに雷撃?!と困惑されるがそんなもの関係ないとヨロズは『箱』を構える。
「掻き消してくれる!コード『偽』総ては霧散する!」
フォルネウスが雷撃の姿勢に入りヨロズは『箱』を白衣から取り出し天高く掲げる。『箱』はカッと光を放ちフォルネウスの放った雷撃をかき消す。
生徒達は驚きつつ今がチャンスと精霊を呼び出そうとするが精霊達も霧散してしまう。ヨロズは叫ぶ。
「ここは任せておけ!バースト!」
ヨロズ飛び上がる。敵は大口を開けて待ち構えるがバーストしたヨロズは馬鹿力を発揮してその鼻先に拳を叩き込む。あまりの衝撃に敵は姿形が歪み爆散する。
『箱』は健在でヨロズも調子が良いとポーズを決めるのであった。




